特別キラー

 それ可愛いね。

 自分のお気に入りに、友人はそう言った。私だけの特別なもの、と言っても、まだ皆に知れ渡ってないだけでそれまでの特別感だけど。

 「ありがとう。かわいいでしょ?」

 「それ、どこで売ってるの?」

 そんな問いかけに、私は答えようか少し迷ったけど教えてあげた。翌日、その子が同じものを持って、さぞ私が最初と言わんばかりにみんなに見せて回っていた。

 (あぁ、私の特別だったのにな)

 

 そんな、幼い頃の苦い思い出。

 

 こんなこと、他の人に言ったら心が狭いなんて言われるかもしれない。けど、正直良いものとかって自分で見つけてこそって感じもするし、あんまり人の真似したくないしされたくない。

 いつかはみんな知ってしまうものだったとしても、それまで、知る人ぞ知る、これを見つけたのは周りで私だけという感覚を味わっていたいのだ。

 「ねえ、これかわいい。お揃いにしよ。お店教えて」

 お揃いにしたいなら、お揃いで別のものがいい。

 「それよりね、一緒に買いたいものあるんだ」

 なんとなく、そうやって話題を逸らすことはできるようになって来たけど、やっぱり断れなくて、粘られて、少しずつ、少しずつ、私だけの特別を失っていく。

 まあ、仕方ないか。

 わかってるけど、でも。

 

 察するってあるよねって。

 

 たまーに、そう思う。

 「私いまこれ好きなんだよね」

 「へえ、そうなんだ」

 その友人は、私に色んなこと教えてくれる。楽しいゲームも、人も、音楽も。別に興味ないなって思うこともあるけど、その子はその子の特別をしっかり教えてくれる。

 「私もね、好きなアーティストいるんだよね」

 「へえ、どんな曲作るの」

 私が説明してあげて、スマートフォンを置いた時だった。

 「え?で?結局誰なの?教えてくれるんじゃないの?」

 思わず「は?」って、言ってしまいそうだった。

 

 私、教えるって言った?

 

 「…え?え?知りたいんだけど」

 でも、そんな言い方されたら教えるしかない。

 「……はは、そうだった。私だめだなー」

 なんて、こっちが悪いみたいに笑うしかない。

 

 何でもかんでも聞かないでよ。

 察してよ。言い方考えてよ。

 

 そうやって、頭がもやもやして、でも友だちだし、こんな事でイライラしちゃうなんてって。

 私って最低な人間だなって、私が落ち込むんだよね。

 それからも、その子は私の特別を毎日のように殺していく。

 遠慮も悪意もない彼女。

 けれど、配慮も遠慮もない彼女。

 特別とともに、私の心も確実に殺している彼女。

 

 そんな彼女への些細な抵抗として、

 私は密かに

 

 特別キラーと名前を付けた。

 

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