短編集
つづりさと
つながり
友人に、恋人ができた。
愛しい人と一緒にいるときのあの人の笑顔は、皮肉にも、今まで見たどんな笑顔よりも輝いて、美しくて。
「今度一緒に遠出するんだ」
幸せそうな顔を見る度に、あぁ、好きだったなと実感する。
「そっか、楽しんできてね」
応援したい気持ちは本当のはずなのに、心のどこかで早く壊れてしまえと願う自分がいる。
けれど、こうして繋がっていられるなら。
それもまた、幸せなのかもしれないと思った。
友人が泣きながら相談してきたのは、それから暫く経ってからのことだ。
「喧嘩しちゃった」
晴天の霹靂とは、この事だろうか。あんなに仲が良かったのに、やはり一緒にいる時間が長くなると愛しい相手とも色々あるのだろう。
喜ぶ心を抑えて、友人を慰めた。
「…やっぱり、〇〇は優しいね」
そう友人は笑った。こちらの醜い内心に気が付きもせず。罪悪感がこみ上げてくるのを感じた。
友人が去ったあと、一人教室に残っているとガチャリと扉の開く音がして、見知った顔が現れる。
「おう、〇〇じゃん」
友人の恋人だった。
「一人?珍しい」
「喧嘩しちゃってさ」
そう言いながら、彼は何故か席に座って。
気まずい空気が流れ始める。お互いに、どう言葉を交わせばいいのかわからないのだ。
暫く沈黙が続いた後に、先に口を開いたのは向こうだった。
「〇〇ってさ、面白いよね」
「え?」
「いやなんかさ、すごい怖いイメージあったんだけど、あいつと付き合い始めてから話す頻度増えたじゃん?それで、気付いた」
「…そう」
あぁ、また、醜い心が大きくなる。
「…早く、仲直りしなよ」
「あっ、そうだった。あいつのこと探してるんだった。じゃあ、また明日」
「また明日」
扉が閉まり、足音が遠くなっていくのを感じて、……頭を抱えた。仲直りしなよなんて、思ってもいないのに。
別れてしまえばいいのに、別れてしまえばいいのに!
…どうして自分だけが、こんなにも、醜い。
翌日、何事もなかったように二人は手を繋いで歩いていた。幸せいっぱいの笑顔を浮べて。
友人はこちらに気がつくと、笑顔のまま手を振って駆け寄ってくる。
「〇〇!おはよー!」
「おはよ。仲直りしたんだ、よかった」
「えへへ、ありがと」
幸せを壊す資格は、自分にはない。
「おはよう、〇〇」
だから、苦しいけれどこのままでいい。
「…おはよう」
彼女を通じてしか、繋がることができないこの関係で。
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