青い鳥に魅せられた少女の話。
ー私は、一番でなくちゃいけない。
小さなころから、何でもできる姉と比べられてきた。テストの順位だって部活動の成績だってアルバイトの評価だって…恋愛だって。
私も人並みになら何でもできた。それでも、姉は素知らぬ顔して颯爽と私を超えていく。姉への抵抗として作り上げた友人は「十分凄いじゃん!」と私を励ましてくる。でもそれじゃあダメ。あいつから何か明確な勝ちをもぎ取らないと私は家庭で居場所がなくなってしまう。私にある武器は何でもそつなくこなせる清楚系な姉とは違って可愛い系の顔だけ。でもこんな田舎じゃスカウトだってされない。どうしたものか。
そう考えていた時に私の元に現れた青い鳥。
そこで私は頂点を手に入れた。
私がひとたび写真を上げると瞬く間に拡散されてハートの数が増えていく。ツイートにはたくさんの言葉が吊り下がり私を褒めたたえた。時折「加工厨乙」なんて言葉が宙を舞ったがそんな虫はすぐに誰かが駆除してくれた。
今でこそ上流階級の青き鳥である私だけれど、最初はこんなに調子が良かったわけでは決してない。毎日投稿はもちろん。スキンケアを研究し直して、世界一可愛く見える角度を探して、運動食事睡眠のバランスもちゃんと取って、必死に集めた友人を駆使して私を広めてもらった。これは私の今までの努力の山。私が勝ち取った優雅な鳥かご。誰もこれを脅かすことはできない…そう思っていた。
「お姉ちゃんも始めようと思うの」
この言葉を聞くまでは。
どうやら友人にそそのかされたらしい。やけに嬉しそうに見せてきたプロフィール欄を見て私は驚愕した。そのアカウントは数日前に始めたばかりという人とは思えないフォロワー数をしていた。
「作品載せてみれば?って言われてやってみたら通知が凄くて…びっくりしちゃった」
彼女は文才も画才もあった。
「友達に勧められて一応自撮り…?もしてみたんだけど、なんか恥ずかしいね」
おまけに美しかったら、誰だって彼女を持ち上げるだろう。
私は悔しかった。また姉は私を超える気だ。しかも無自覚に。
私は焦るしかなかった。どうにかして彼女との格の差を作らないと。彼女を蹴落とす?それは無理だ。人を蹴落とそうとして自分が堕ちた人間は死ぬほど見てきた。じゃあどうする?文才も画才も…姉が持つ全てのものがない私に何ができる?
いや、違う。私にはあるじゃないか。
それから私はたくさんの人と出会うようになった。たくさんの人と会ってたくさんの人と体を重ねるようになった。出会った人はみんな私を褒めたたえてくれた。それに応えたくてたくさん勉強した。私は人並みにできる子だったからどんどん上手になって、もらえる額だって増えてきた。きっと人と関係を持った人数と稼いだお金の額は負けていないと思う。
私の鳥かごは豪華に彩られた。時折姉のアカウントもチェックしたがまだただただイラストや文章を上げているだけで向上心をまるで感じなかった。
私はついに勝ったのだ。あの姉に、私を悠々と超えていく姉に。
そんなある日のこと。
「約束時間少し遅めにしてもらえばよかったなぁ」
姉への優越感に浸りつつ私は今日もまた約束の場所でフォロワーさんを待っていた。今日も私は可愛い…だけどちょっと寝坊しちゃって少し髪の巻きが甘くなってしまった。例えこの後髪形なんてボロボロになっちゃっても、私を選んでくれた人にはいつだって可愛い私を見てもらいたい。時間まで少しあるし少し巻き直そうかな…。
そう考えていた時だった。
「あの」
頭上から声をかけられた。顔を上げるとスーツに身を包んだ女性。あれ、私が今日会うのっておじさんだったような気がするけど…。
「えっと…もしかして今日会う予定だった…?」
声が出かけてすぐに引っ込める。確かに私と会いたいって人はおじさんが多かった。けれど今の世の中女性が女性と出会って一夜を共にするなんて珍しくはない…もしかしてこの人もそういう人かもしれない。
「えっと…よろしくお願いします!」
そこまで考えて私はにっこりとした笑顔で彼女に向き直った。
「私は…」
自己紹介をしようとしたその時。
「○○さんですよね」
突然私の本名を彼女は口にした。
「え…」
「私、こういうものなんです」
目の前に掲げられたのは警察手帳。
私が作った鳥かごから、幸せの青い鳥が飛び立つ音がした
(暗転)
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