注意したい女の子。
私は小さな頃からうるさいのが苦手だった。公共の場で騒ぎ散らかすヤンキーさんとか、レジで永遠と店員さんに文句を言うお客さんだとか。
「投げるぞー!」
「おう…うわっからぶった!」
授業中に遊び出す人とか。
どうやら彼らは今、ティッシュを丸めてボールに見立てて擬似野球をしているみたい。授業中なのにも関わらず…。まぁ授業とは言っても自習時間だから先生はいないけれど。
自分的にはサイレントでやっていたり、多少のエンタメ性を含んでいたり、そもそも授業中じゃなければ別に良いんだけど。人が静かに自主勉強をしている真後ろでやられると流石に気が散ってしまう。それにいつそのティッシュが飛んでくるかも分からない。残念なことに来週自習時間であると先生からは聞いた。だから今後の自習時間の平穏を取り戻す為にも、今度こそちゃんと注意しなくちゃ。
「あの」
授業の後、人混みの渡り廊下を歩くさっき騒いでいた人達を見つけて話しかけた。髪を金髪に染めたいかにも不良っぽい人と、その取り巻きっぽい茶髪の人。どちらも男子。女子が絡んできたと見てなんだか気持ち悪い表情を浮かべている。
「なにー?」
「あの…授業中に野球をやるのはちょっと…」
そう私が口にすると彼らは私の声をかき消す程の声でゲラゲラと笑いだしてしまった。
「えー別に先生いないんだからいいじゃーん!」
「めっちゃ真面目ちゃんじゃん!」
「てか、もしかして俺らと遊びたかった感じ?」
「そうならそうと言ってよねー」
私の話なんか聞こうともせず、彼らは続ける。でも諦めちゃダメ。今度こそはしっかり注意を…
「そもそも誰にも迷惑かかってないからいーじゃん!」
言葉に予鈴の音が被さって、面倒くさそうに渡り廊下の先を見る彼。金の中に僅かに黒が混ざる頭が見えた。
ぷち
次の瞬間、私の口の中に鉄の味が広がる。もしゃもしゃと口を動かすと塩気がだんだんと強くなってくる。
「ぅ…あぁぁぁぁぁっ!」
「うるさいのは嫌いなの」
ぷち
紺色の制服に血が飛ぶ。この時ばかりはこの学校のダサくてなんとも言えないセンスに感謝をした。
「あ、また注意できなかった」
当初の目的を思い出して少しだけ落ち込む。うるさいから静かにしてねって言うだけだったのに、私はまたやってしまった。
「どうしよう…これ」
足元に広がる赤い溜まりと残りを。まぁいっか。授業遅れちゃったら先生に怒られちゃうし。私が怒られていたら授業がうるさい時間で潰れちゃう。
「今度こそ…注意"だけ"にしないと」
後日、その渡り廊下は黄色のテープで封鎖されて数日間使えなくなってしまった。
(暗転)
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