第4話 帰郷、そして再会
「ちゃんとコボルトアーミーの討伐証明を持ってきただろうな」
「もちろん。一応お金は貰っとかないとな」
コボルトアーミーの討伐証明部位、正確にはコボルトキングの討伐部位なのだが、普通に魔石を持っていけば鑑定魔法を使えるギルド職員に査定してもらえる。これは全ての魔物に共通していることである。
ケダモノ、コボルトアーミーと連戦したが時間にしてみれば十五分も経ってない。
例の冒険者達も逃げおおせたようで、門までの道に死体は転がっていない。
「俺たちも早く行かないとね」
「厳戒令でも敷かれたら可哀想だからな」
先ほどの冒険者達が街に戻ってからとる行動は簡単に予測できる。
冒険者ギルドに報告に行くことだ。コボルトアーミーが出現したときは高ランクの冒険者でレイドを組んで当たるのが定石である。
当然狙われている街は警戒状態になり、様々な人が動く事態となる。
だが既に二人がその脅威を取り除いたため、全ての行動が無駄な行いになってしまう。それで動かされる衛兵が可哀想である。
「ちょっと走るよ。ほら乗って」
急ぐことを共有したあと、エドワードがしゃがみ腕を曲げてシャーロットの足を通すための輪っか作る。
おんぶの体勢である。
それを見たシャーロットは子供扱いするなと不満げだったが、荷物のように小脇に抱えられるよりはましだと考え大人しくエドワードの体に身を預ける。
シャーロットの足を強くつかみ、固定できたのを確認するとエドワードは直ぐに駆けだした。
あっという間に門の前にやってきた二人は、守衛に冒険者カードを見せる。
この街、アークシャリア王国の王都ギルドに登録されていないので出回っている犯罪者の人相書きで問題なしと確認されてから、ようやく中に入ることを許された。
この王都がエドワードの故郷ではあるが、如何せん彼が最後に訪れたのは百七十年ほど前であるから記憶違いあってはいけない。
守衛に冒険者ギルドの場所と、六人の少女冒険者達がどの通りへ消えていったか聞くと、ちゃんと彼女らは冒険者ギルドに報告に行っているようだった。
「基本に忠実でよろしい!!」
「、、声がでかい」
冒険者稼業を甘く見ている冒険者ほど基本がないがしろだ。危険の兆候を無視して惨事が起きた事件は、冒険者ギルドの教育の失敗として一時期有名になった。
王都と言うだけあって人通りは多い。時刻は夕方だ。鎧を着込んだ少女が六人通るのは少し時間がかかっただろう。
「ぷっくく」
「急に笑い出してどうした?気持ち悪い」
「いや、なんというか気性の荒い奴が多いこの稼業にしては素直だったなって」
「思えば確かに、、、そうだな」
「みんな俺らの実力疑って喧嘩売ってくるからな。毎回返り討ちにして、プライドへし折るのも楽しいんだけど」
彼女らはエドワードの注意を受け入れ反省している様子があったし、指示にはちゃんと従ってくれるしで、救助する側として楽だ。
ただエドワード側も冒険者という自身の身一つで成り上がってきた者たちの気持ちも分かるのだ。
なぜならばこの世界でケダモノ討伐経験があるのはエドワード達だけだからだ。
彼らが冒険者にケダモノの討伐を譲った経験は一度としてない。シャーロットは好きにやらせてみればいいなどと言うが、エドワードはそうではない。
知っているのだ。一般人がアレと戦うということがどれほどの恐怖を与えるのかを。
シャーロットをおんぶしたまま街を練り歩く。シャーロットはそのままの扱いに嫌がるかと思いきや、普段人に遮られて見づらい街並みを簡単に見渡すことが出来ていることに目を輝かせているようだ。
彼女は初めて訪れる街に来るたびに街並みに目を忙しなく動かし楽しそうにしている。エドワードにはこういったものを楽しむ感性はないようで、シャーロットが楽しそうにしているのが伝わることに嬉しくなっているようだ。
自身の生まれ故郷を褒められているように感じるからだろう。
それとも自身と同じ境遇なだけでこの道に引きずり込んでしまったことへの後ろめたさから来るものか。
彼には区別が付かなかった。付けようとも思ってないが。
「お、ギルドが見えたな」
「……もうか」
「残念がるなって。そんなに俺のおんぶが心地よかったか?」
「うるさい」
「髪の毛引っ張るのは止めろよ!禿げるだろう」
「別に誰に見せるわけでもないみてくれなどいくら損なってもよいだろうが」
「英雄としての俺が格好つかないわけにはいかないんだが!?」
エドワードが揶揄うと直ぐにシャーロットはこうだ。エドワードが反撃しないことをいいことに暴力を使う。
そんな彼女を強引に降ろして頭をポンポンとすると今度はエドワードの脛を蹴る。
彼は、旅を始めてからの年月を数えられるだけでも百五十年も経っているのに、なお自分には懐かない小動物を前にして、何百回目か知れないため息をつく。
何を言っても言うことを聞かないシャーロットを相手にしていても無駄なので、無視してギルドの押戸を開いて中に侵入する。
流石にギルド内に入ると拗ねは直りエドワードの隣を歩き始める。
冒険者とは誰も彼も遠慮がない。知らない顔が入ってきたと思ったら不躾に顔を眺める。誰もがシャーロットの美貌に見惚れるが、すぐに首の下にぶら下がっている冒険者ランク証明板が最高ランクの黒を示しているのを見るとたちまち顔を背けた。喧嘩を売られるのが怖いのだろう。
相変わらずな冒険者達を見渡して、目的の冒険者達を探す。
すると一つ、忙しいカウンターがあった。クエスト受付のカウンターだ。
六人の少女冒険者。ギルドに着いたということで兜は外しているようだ。
髪色は茶、緑、茜、金、淡い青、アプリコットの順だ。その中の金髪の少女は激しく言い合っており、それを淡い青の少女が宥めて、茜色の髪の少女は腕を組んでそれを見ている。茶と緑の少女は彼女らに興味がないようでそっぽ向いて二人で話している。アプリコットの少女は金髪の少女の後ろにピッタリくっついている。
一体何を言い合うことがあるのか。
実際に居るかどうかはギルド側にコボルトアーミー調査団を出してもらうという話で片が済む話だろう。
自分達が話を付ければ終わることだ。そう思いそこに足を進めていくと聞き覚えの声が聞こえてきた。そして会話の内容が聞こえてきたと思ったら、何を思ったか、エドワードは足早に歩きだした。
「今も英雄のお二人は戦ってるかもしれないんですよ?それをあの二人なら大丈夫、って。どこにそんな根拠があるんですか!?」
「いやいや大丈夫ですから。落ち着いてください。君は彼の、じゃなくて彼らの強さを見たことないから分からないと思いますけど、私見てきましたから。大丈夫大丈夫。どうせ今頃ぽっと帰ってきますって」
「冒険じゃ何が起こるか分からないって」
「あの人、じゃなくてあの人たちに限ってそれはないって。ああ、ほらちょうど来たし、あで!!何するんですかエドワードさん!!」
「えぇ!?嘘!?」
「あったり前だろエルダ!!何があの人達なら大丈夫だ。受付嬢のくせに基本がなってないぞ」
金髪の少女と言い合っていた受付嬢エルダ。
彼女はヒトではなく、超人種で魔法に長けた種族であるエルフの出だ。別の国でエドワードの専門受付嬢だったが、新人の研修期間を終え、また英雄の専門を終えて
国を跨いで異動させられたようだ。
随分と調子に乗っている受け付け嬢になってしまったようだ。
「い、いえ、他の人にはちゃんと対応してますよ?ただエドワードさんが関わっているとなると、そういうのを出すのが無駄になるのは分かり切ってますし、、、、ね?」
「可愛くねーよ!」
「うぅ、酷い。シャロちゃん愛でて癒されます!!」
先ほどの対応と打って変わりおろおろしているエルダに罵声を浴びせ、傷心した彼女はシャーロットの頭を撫でようとカウンターから身を乗り出し手を伸ばすが、その手は払いのけられた。
「痛ーい!シャロちゃんなんだか機嫌悪くないですか?喧嘩しました?」
「別にいつもこうだろうが……」
「嘘だー!!!」
「駄々こねるな。この駄目女が」
「ひどいよ!」
エルダはシャーロットにすら罵声を浴びせられカウンターに座り込んでいじけてしまった。
そこでようやく理解が追いついてきた少女たちの頭目である金髪の少女がエドワードに話しかけた。
「あ、あのエドワードさん?」
「ああ、ごめんね。置いてけぼりで。後であいつにはきつく言っておく、か、、、ら?」
そう言って少女の方に顔を向ける。
そこでエドワードは動きを止めた。
止められた、といった方がいいのかもしれない。ただのBランク程度の冒険者の小娘に。
「そ‥な、ありえ、、、な」
なぜならば。
「エリ……ザ?」
‶彼女″そっくりな少女がそこにいたからだ。
エドワードの世界から音が消えていくのを感じる。
聞こえないはずの心音が耳を揺らし、足場が崩落していく感覚に苛まれる。
「、、、mした。どうかしましたか?エドワードさん」
目の前にいる少女の声で、現実に戻される。
過去と現在、虚像と現実をすり合わせる。
「え、エルダ。コボルト、キング、の、魔石だ。金は後で良、い」
「あのエドワードさん?」
ことが出来なかった。
エドワードは少女の言葉を無視してギルドの扉を押し開き、すぐ近く、少し広い建物の間に体を滑り込ませる。壁に背をつけ座り込み、俯いて掌を額に押し付け荒く呼吸する。
「はぁ、はぁはぁはぁ。ハッ」
ありえない
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