(3)
――暗闇の中のスクリーンに流れ出す映像、そして音。
まずは、オープニング。
壮馬たちが作曲した爽やかな音楽とともに、タイトルである『インタラクション』という文字がコマ撮りされたクラスメイトたちの手によって黒板に記されていく。
完成すると、全員が画面の中から去る。
次の瞬間、教室内に風が吹いて、それらの文字が砂のようにサラッと飛ばされて消えていった。
おーっ、という歓声が上がった。観客たちの期待値が高まったのが肌で感じられる。
物語の始まりは教室。透華が転校してくるシーンだ。
『今日からこのクラスに新しい仲間が加わります。それでは自己紹介お願いします』
担任の先生に促され、一人の少女が皆の前に立つ。
『望月透華です。よろしくお願いします』
短い自己紹介とともに遠慮気味に頭を下げる。
『それじゃあ、望月さんの席はあそこにしましょう』
先生は廊下側の一番後ろの席を指差す。
『わかりました』
クラスメイトたちの『美少女じゃないか』と噂する声も気に留めることなく、先生の指示に素直に了承して、透華は席へと歩き出す。
彼女に意味ありげな視線を送る直夜。
これで最初のシーンは終了。物語は次の場面へ。
学校の屋上。昼休み。
北岡高校に転校してきたものの、なかなか学校に馴染めない透華。
昼休みは居場所がなく、一人屋上で過ごしている。
そんなとき、屋上の扉が開かれる音がする。
『やあ、透華ちゃん』
爽やかな挨拶で登場したのは直夜。訝しげに見つめる透華に直夜は言葉を継ぐ。
『今、暇かな?』
透華は逡巡した後、小さく頷く。
『ありがとう。ちょっと話がしたかったんだ』
お礼を言った直夜は透華の横に並ぶ。
『知り合いがいないと、最初は誰でも戸惑うよね』
直夜が話を始める。透華は黙ったまま下を見つめている。
『実はさ、俺もこの高校入るとき、知り合い誰もいなかったんだ。中学がちょっと離れてて、同じ高校受ける人が一人もいなかった。だから、初めはうまくやっていけるかなってすごく心配だったんだよ』
直夜は昔を思い出すように遠くの空を見つめる。
『でも、みんな本当に優しくて、温かくて、気がついたら溶け込むことができた。途中からってなると状況が少し違うかもしれないけど、仲間に入ろうって素直な気持ちがあればみんな自然と受け入れてくれると思うよ』
『素直な……気持ち?』
透華は首を傾げ、隣にいる直夜の顔を窺う。
『そうさ。言わないだけで意外とみんな透華ちゃんと話したいって思ってるんだよ。まあ、俺もその一人なんだけどね。だから今日、勇気を出して声を掛けてみようって決めたんだ』
白い歯を見せてはにかむ直夜に、透華は恐る恐る尋ねる。
『わたしにも仲間ができる?』
『もちろん。何だったら、俺を仲間一号に認定してくれ』
少し間を置いて、透華は恥ずかしそうに頷く。
『うん。そうする』
『本当に? ありがとう』
青空の下、直夜の嬉しそうな声が響く。
映像が屋上から別の日の教室に切り替わる。
チョークの音を立てながら、担任の先生が英語の授業を行っている。
教科書を開き、真面目な顔でノートを取る生徒たち。
これぞ高校生という日常の風景。
直夜が、透華が、順番にアップで映され、また教室全体の映像に戻る。
キーンコーンカーンコーンというチャイムの音を挟み、場面は昼休みになる。
机をくっつけて昼食を食べながら談笑するクラスメイトたち。
カメラはその中のいくつかのグループを映し始める。
まずは、トランプを楽しむ男子の集団。
『やったー、あがりっ!』
『また一番かよ! おめぇ、マジで大貧民強いな』
『大貧民じゃなくて大富豪だから。俺の地元ではそうだったから』
『そんなのどっちでもいいよ。それより僕なんかさっきからずっと三位ですよ。大平民ですよ』
『つーか、このゲーム、ローカルルール多すぎなんだよな。誰かルール統一しろよ』
突如混ぜ込まれた謎の大富豪(大貧民)あるあるで、観客たちにも笑いが起きる。
お次は、お喋りに花を咲かせる女子の集団。
『ねぇねぇ、みんなは寝るときどんな体勢になる?』
『普通に仰向けかなぁ』
『あたしは横向きに寝ることが多いね』
『もしかしたら、わたしうつ伏せかも』
『うつ伏せって胸苦しくない?』
『そうかな。あっ、わたし多分胸が小さいから……』
『そんなことないって。ていうか、みんな案外寝相普通なんだね。わたしなんか眠ったときと起きたときで頭と足の位置が逆になってるよ』
『えっ、それはどういう仕組み?』
……楽しそうで何より。
これにてアドリブの場面は終了。ここからは脚本にある台詞が読まれていく。
会話をするのは、大人しめの男子三人グループ。
『そういえば、北岡高校幽霊伝説って知ってる?』
『あー、なんか聞いたことある。高校生活に後悔や未練がある幽霊が、人間の姿になって一緒にこの学校で授業受けてるってやつでしょ? しかも、もしその秘密が他の人にばれたら消えちゃうとか』
『まったく誰が言い始めたんだろうね、そんな噂』
別の女子グループもちょうど同じ頃、教室内で似たような話をする。
『なんかうちらの学校、幽霊いるんでしょ?』
『北岡高校幽霊伝説、だっけ?』
『そうそう。それってこのクラスの中にいるかもしれないってことだよね』
『幽霊って言えばさ……』
盛り上がる女子たちが望月透華の座る席に視線を動かす。
透華は自分の机で一人弁当を食べている。
『望月さんって見た目幽霊っぽくない?』
『そうかなぁ、まあ可愛い子だとは思うけど』
『ほんと、透明感あるよね。わたしもちょっとお話してみたいなって思ってるんだけど、なかなか声掛けづらくて』
『じゃあ、今からうちらで行ってみる?』
『いいね。みんなで一緒にお弁当食べない、って誘ってみようか?』
彼女らは席を立ち、透華の座るところまで歩いていく。
カメラの映像は、透華と彼女たちが話す様子を遠くから映す。
声は聞こえないが、何かを言われた透華が頷くカットが印象的に挿入される。
その日以降、透華は徐々にではあるがクラスに溶け込んでいく。
場面が次々と入れ替わり、学校生活の中で透華がクラスメイトたちと勉強や会話を楽しんでいる様子が映し出される。
そしてある日の放課後、一人自分の席で帰る準備をしている透華の前に直夜が現れ、『一緒に帰らない?』と誘う。
映画は中盤の帰り道のシーンへと入る。
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