(2)

 体育館での開会式を終え、智文たちはぞろぞろと教室へ戻ってきた。


 ここからはあまり時間がない。数十分後には一般の方々の入場が始まり、各教室で出し物がスタートする。そのための用意をすぐに整えなければならない。


 だから、その前のほんのわずかな時間を使って、二年三組の面々は円陣を組んだ。部屋の真ん中にある座席を囲うようにして四十人が一つになる。


「みんな、準備はいい?」


 気合の入った声が教室内に響く。掛け声を担当するのは陽菜乃だ。返事もそれに負けないくらい大きい。


「今日からの二日間、みんなで精一杯盛り上げていきましょう! わたしたちが狙う賞はもちろん?」


「最優秀賞!」


 一拍置いて全員の声が揃う。


 そして、解散。受付や案内などの持ち場のある者は準備をし、それ以外の人は「どこを回ろうか」みたいなことを相談しながら教室を去っていく。


 クラスの仕事はシフト制で、二日の間、四十人に平等に割り振られている。


 今日の智文の分担は午後なので、最初の時間帯は教室にいなくていい。本来ならばすぐにでもここを離れることができた。


 でも、初回の上映は見届けたいと、智文は教室に居残ることを選んだ。


 ほどなくして、一般の来校者の入場が始まった。


 廊下のほうが次第にざわざわと騒がしくなる。教室の中にいる智文にも、校内が活気に満ち始めてきたのが伝わってきた。


「映画『インタラクション』の初回上映にご参加いただける方はここにお並びください!」


「パンフレットはこちらです! 気になった方はぜひご覧になってください!」


 教室の外で宣伝や案内をするクラスメイトの声が聞こえてきた。


 状況が気になり、出口のほうのドアを開けてちょっとだけ顔を出すと、興味を持ってもらえているようで入口のところに徐々にではあるが列ができ始めていた。ひとまず安心して智文はドアを閉めた。


 数分後、初回上映のお客さんたちがシアター入り口から誘導されて順番に入ってきた。外で配布したチケットを教室の中にいるスタッフがちぎり、半券はお客さんに返していく。


 このシステムならわざわざチケットを配らなくてもと思うかもしれないが、これは宣伝・広報を担当したクラスメイトからのアイデアで、見終わった後も映画の半券が観客の手に残ることで、賞の投票をする際に思い出してくれるんじゃないかという効果を期待してのことだった。


 上映開始までの少しの間、座席に座ったお客さんたちは入り口で配られたパンフレットを読んだりしながら過ごしていた。観客の割合としては北岡高校の生徒が半分、その他の一般のお客さんが半分といったところだろうか。年齢層は中高生が中心だが、小さな子供と一緒の親子連れが二、三組、それから老夫婦もいたりして意外と幅が広かった。


 たとえ自分たちでは良い映画が撮れたと思っていても、お客さんに喜んでもらえなければ映画制作はうまくいったとは言い難い。彼ら彼女らの反応が、表情が、声が、この映画の評価を決めることになる。


 緊張と期待で胸をドキドキさせながら、智文は教室の窓際の邪魔にならないところに立ち、上映を待っている観客たちの様子を眺めていた。


「間もなく上映を開始いたします。室内が暗くなりますので、携帯などの音が出るものは今のうちに電源をお切りいただくか、音が出ないように設定しておいてください」


 館内アナウンス担当者による指示が出され、それまで話し声を上げていた観客たちはお喋りをやめ、ガサゴソと自分の荷物やポケットを漁った。


 それらがすべて収まったのを見計らって、室内のスタッフ同士が目で合図を送り、次なるステップに入る。


「それでは、準備が整ったようなので消灯いたします」


 呼びかけて少し間を置いた後、電気のスイッチが押され、教室内は暗闇に包まれる。


 暗くなった部屋の中で、陽菜乃が最後の説明を加える。


「今から二年三組制作による映画『インタラクション』の上映を開始いたします。最後までごゆっくりご堪能ください」


 声が消えると、陽菜乃は手元のノートパソコンを操作し、ゆっくりと再生ボタンを押した。

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