(2)
朝野智文の新たな脚本はクラスメイトに驚きと称賛をもって受け入れられた。
「僕もこれまで映像を編集してきたけど、こういう展開にすることは思いつかなかった。でも、確かに不可能じゃないかもしれない。この方向でいけるかどうか検討してみるよ」
編集担当の服部圭は出来上がった脚本を読んですぐにそう告げてきた。映像に関して熟知している圭ができないと言ったら、それは映画としては形にならないということなので、彼が即賛同してくれたことは非常に心強かった。
新脚本で撮影を行うことが決まると、白石陽菜乃はただちに予定を組んだ。
残された時間は少ない。その間にラストシーンの撮影を完了させ、なおかつ編集作業まで終わらせなければならない。修正によって生じた細かな矛盾点があれば、解消のための撮り直しも必要だ。教室の内装や外装の準備もある。やることが多くて大忙しだった。
けれども、クラスの団結力は河川敷での撮影を経て一段と高まっていた。何とかしてこのピンチを逆にチャンスに変えてやろうという気概に溢れ、文化祭に向けて皆が一致団結して協力してくれた。花火のシーンとラストシーンは物語の順番通りに撮影する、という陽菜乃の当初からのアイデアがここにきて実を結んできた感じだ。
脚本の改変に伴って、演じる側にも大きな影響が生まれた。
特に、望月透華は最もその変更の煽りを食う立場だった。すっかり変貌を遂げたラストシーンの台詞や動きを新たに覚え直してもらい、さらには演技プランを一から再構築してもらわなければならなかった。
それでも、彼女は弱音を吐かず、新しく生まれ変わった物語を喜んで受け入れてくれた。
「これなら牧瀬君もきっと救われる。あとはわたしがちゃんとするだけ。朝野君、本当にありがとう。みんなの頑張りを無駄にしないためにも、最後まで全力で演じてみせるから」
透華は小さく微笑んで、強い気持ちで演じる役と向き合っていた。
そして、もう一人。
映画『インタラクション』に欠かせない登場人物である牧瀬直夜が学校へと戻ってきた。
「迷惑をかけてしまって申し訳ない」
直夜は教室に来ると、真っ先にクラスのみんなに向けて謝罪した。
そんな真面目な彼に対し、周りからは「いいって」、「気にするなよ」、「一緒に頑張ろう」と慰める言葉が返ってきた。クラスの中は思いやりのある寛容な雰囲気に包まれた。
撮影を再開する上で一つ気がかりだったのは直夜の足の状態であったが、本人に確認を取ると、まだテーピングをしていて痛みはあるけれど歩くだけなら大丈夫とのことだった。
それならば、新たなラストシーンを演じるのに問題はなかった。
「智ちゃんがいなかったら、俺はもう映画にもクラスにも居場所がなかったかもしれない。書き換えてくれた脚本、読んでたらいつの間にか泣いてたよ。あれっ、なんだか今も涙が……」
目を赤くして泣き腫らす直夜に、智文は「その涙はラストシーンの撮影まで取っておけよ」なんて柄にもなくかっこいいことを言って励ました。
紆余曲折を経て、二年三組の映画は完成へと近づいていった。
文化祭まであとわずか。
感動のフィナーレを全員で迎えるため、智文たちは最後の追い込みをかけていく。
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