第1話
自分が何者なのか、死はいつ手に入るのか、それを探し求め、ついにその宛すらも無くなった私は、疲れすらも無い自分の体を疲れたフリをしながら木に座りこんだ。
そこで何度も行きかう人を見ながら、ただ時間をすり減らしていた。
いや、私には寿命というものが無い。ならば、すり減らすというのも正確には間違いで、ただ無限にある私の寿命は減りすらもしないのだろう。
――――そこに、一人の男が通りがかった。
パッとしない男だ。学生、高校生だろう。
不思議と私はその少年に惹かれ、声をかけてみた。するとどうだろう、彼は私に手を差し伸べてみせた。
喜びよりも驚きが勝った、そして同じくらいの疑問も湧いた。何故私を気味悪がらないのか。それどころか、何故こうも簡単に私に手を貸そうとするのか。
私は閃いた、至極単純な考えだ。
そうか、彼は優しいのだと――――気づけば、私は彼の家で茶碗に入った米を平らげていた。
一軒家、家はお世辞にも大きいとは言えず、母親との二人で暮らしているそうだ。
その男は、自分を
「トモ、今日は……いや、しばらくここに泊まるといい。一時的な拠点として、もはや家として扱ってくれて構わない」
そして、彼は私のことをトモと呼ぶようになった。
「それはありがたい話ではあるが、良いのかい?僕だからというのもあるが……人間一人を養うのはとても大変だ。いざとなれば僕は餓死をしないし、言ってくれれば外で過ごすことだってできる」
「あぁ、構わないよ。私の母も快く了承してくれた。しかし、食事はしっかりととるようにしてくれ、睡眠も、この家でなくとも雨風しのげる場所でだ」
信二はそれだけは必ず、と念を押すようにいった。
「なぜそこまで?」
純粋な疑問だった。死なない男、それも赤の他人に何故そこまで気にかけてくれるのか。
信二は私に食後のお茶を差し出すと、答えた。
「トモ、君は今までそういう生活をしてきたのかもしれない。しかし、それは間違いだ。君はこれから私の友達であり、そして普通の人間なのだから。まず人間でいようと君がするのならば、君自身が人間らしい生き方をしなければいけない。人間であるべき品を失うことは絶体にダメだ」
彼があえて私のことを「普通の人間」だと答えたのは分かった。
今まで何も得ることができず、死すらも手に入らなかった私を気遣ってのことだろう。気味悪がらず、一般人と同様に受け入れようとしてくれるのだ。
そして彼は、人間ともいえない私のような人間まがいの成りそこないをあまつさえ導こうとすらしてくれている。
「そうか……恩に着るよ」
私は置かれた茶を一思いに飲み干した。
「お代わり、いりますか?」
彼の言葉に、私はコクリと頷いた。
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