第40話 カインVSサミュエル
ここ最近では一番の盛り上がりを見せているこの日は、想像以上に観客が集まっていた。理由は至ってシンプルだ。
「陛下がここに来てるって?」
「うん、どうやら直接僕たちの実力を見たいそうでね……」
ほんっとに自由だなあの人は……。
若くして賢王と呼ばれているだけあって人気もかなりのようだ。
「ルックスもこの国じゃトップレベルだしね〜、多くの女性ファンが一目見ようとここまで足を運んでるっぽいなぁ」
「ほんと、父上はすごい人だよ」
「いずれはカインもああなるんだよ」
「はは、そうだといいね」
そんな会話を交わしていると会場の方からどっと歓声が上がっているのを感じた。
「よほど熱烈した試合だったのか、はたまたとんだ大どんでん返しだったのか、ここまで大きな歓声が聞こえるなんてね」
「やっぱり本戦の盛り上がりは違うなぁ」
アナウンスが流れ、次の試合の対戦カードが空中に投影されている画面に表示される。
そこには、カインVSサミュエルと、表示された。
「どうやら僕の番みたいだ、いってくるよ」
「サミュエル、か。あの時の審査員のひとりだったやつだったか」
「そうそう。この学園の生徒会に所属できる程の実力は伊達ではないだろうね」
「あぁ、間違いなく強敵だろうな。カイン、……待ってるから」
そう挑発的な笑みを浮かべながらカインの背中をおす。
それに応えるように、力のこもった目で返した。
「絶対、勝ってくるよ。君と戦うまで負けられないからね」
◇ ◇ ◇
「それでは第二回戦! 我がグランデ王国第三王子、カイン選手VS王立魔法騎士学園生徒会所属サミュエル選手の試合をはじめまぁぁぁぁぁす!!!」
オォォォォォォォォオオ!!
実況者の紹介で会場が観客たちの歓声一色に染まっていく。
「よろしくお願いします」
そうカインが微笑みながら挨拶をすると、同様にサミュエルも挨拶を返してきた。
「こちらこそ殿下、よろしくお願いたします」
「いい勝負をしようか」
「ええそうですね。陛下がお見えになっておられるのは承知ですが、手加減はなしでいかせていただきます」
「手加減できるほどの余裕があるんだね。それはおもしろい試合になりそうでよかったよ」
「さぁさぁさぁ! 注目の一戦! 勝つのはどちらになるのかぁ!! その火蓋がいま! 開かれます!!」
レフェリーを務める教員が、開始の合図をだす。
「準備はいいね?」
「「はい」」
「それでは、……始め!!」
サミュエルは始まると同時に初歩的な魔法でもある〈
それを後ろに回避しながら同じように距離をとっていく。
基本的に剣士と魔法士との戦いでは魔法士の方が有利になる。
これは一般常識であり、ましてやSクラスのカインが知らない訳はない。
それでもカインが距離をとったのは、だれでも出来るようなことではなく、ある程度の実力をもった者の戦い方を確立できている証である。
「剣をメインに戦う殿下として私との距離をとるという行為はあまりに愚かと思いますが」
そう軽口を叩きながら次の魔法を放つ準備をするサミュエルは余裕を感じさせる戦い方をしていた。
「はは、メインってだけであって、使わないやり方もできるんだけどな」
「はぁ、それでもいいですが、後悔はなされないようにお願いいたします。〈
瞬時に5メートルほどの〈
「まぁ、
それに対してカインは同じように水の槍を全く同じ魔力量と質、大きさで相殺した。
「なんということだぁ!! 水の魔法を得意とするサミュエル選手の魔法を相殺したぁ!!」
相殺というものは、本来現実的には不可能とされる机上の空論なのである。
なぜそう言われているのかといえば、相殺するための条件にある。
その条件とは、まず第一に相手の魔法と寸分たがわず同じ量の魔力を注ぎこむこと。
第二に、魔力量と同じようにその魔法の質も同じにすること。
そして第三に、形、大きさをそろえること。
聞けば簡単に聞こえるかもしれないし、事実、落ち着いた環境や状況ならば成功できることは証明されている。
しかし今回は状況が異なる。
まず前提条件として、魔法士同士の戦いの場合、いかに早く魔法を撃てるか、そしていかに次の手を読まれないか、などの細かい技術や心理戦が必要になってくる。
そんな中、瞬時に相手が読まれないようにしている手を見極め、繊細なコントロール技術が強いられるという常人ならば頭がパンクするようなことを同時にすばやく行わなければならないのだ。
まさに神業。
そう呼ぶに等しい技術をカインは持ち合わせていた。
「……偶然ですか?」
「僕は人を見るということがみんなより少しだけ得意でね」
「……なるほど、Sクラスは伊達ではないということですか」
先程までは余裕が感じられたサミュエルは、今では見る影もなく、本気であると一目で分かった。
「ここからが本番かな?」
「ええ、お互い全力でいきましょう」
「そうこなくっちゃ」
そう言った次の瞬間、全速力でカインはサミュエルとの距離を詰めにいく。
それが予測できていたように、通るであろう場所に魔法のトラップ──〈
反射でそれを躱していくカインに対して、追い討ちをかけるように上からも〈
上からも下からもくる攻撃に、さすがのカインも足を止めると思いきや、足下に風魔法で風をつくりその勢いを使って一気に距離を縮めてきた。
「これで終わりだ」
そうつぶやき、剣を振るう。
だれもが決着がついたと思った次の瞬間、なんとカインは水の球体のようなものの中に捕らわれていた。
「!?」
「一か八かの賭けでしたが、この勝負、私の勝ちのようですね」
そう、サミュエルはこの一連の流れ全てを布石にして、最後のこの魔法トラップ──〈
「さて、終わらせましょうか」
そう言うと、膨大な魔力がサミュエルから放出される。
「いきますよ──〈水竜の咆哮〉」
サミュエルのかざした手から、まるで本物の竜のような形をした魔法がカインへと向かっていく。
〜カインside〜
「(クソ! 勝負を急ぎすぎた!)」
〈
「(今は反省なんてあとだ! とにかくこの状況を打開できる手を考えないと……!)」
現状分かっていることは、この水の中では上手く魔力がコントロールできないということ。
そして、内側から剣でこじ開けようとしても水の弾力のせいで上手く斬ることができないということ。
この二つのせいで、いま僕にできることがなくなっているのだ。
「(やはり偉人憑依しかないのか……?)」
このスキルは、一日に一回しか使えないという条件があるため、今日もう一試合ある僕は保険のために温存しておきたいという気持ちが強く残っていた。
「(考え方を変えよう。このスキルは本当に一日に一回しか使えないのか? 僕が使いこなせていないだけなんじゃないか?)」
たしかに偉人憑依はとてつもなく強力なスキルだ。
一日に一回と言われても納得するだろう。
しかし、このスキルという存在にはいろんな可能性があると僕は知っている。
事実、この世には同じスキルを持っている者どうしをくらべても全く同じ使い方をするとは限らないのだ。
分かりやすい例で言えば、同じ【剣術】のスキルを持っていたとしても、片手剣の使い手もいれば、双剣の使い手もいる。
このように、スキルはいたって自由なものなのだ。
ならこの【偉人憑依】も僕が勝手に限界を作っているだけで実際はもっと使い勝手がいいスキルにもなりうるのでは?
「(意識としてはこのスキルを100パーセント一気に使うんじゃなく、一回の使用で70パーセントを使うイメージで考えるんだ)」
本当にこんな使い方で合っているのか分からないが、なんとなくこれでいい気がした。
「よく気づいたな」
「!? だれだ!」
目を開け、視界に入ってくる真っ白な空間に驚かされたが、すぐにその場にいる人たちをみて、冷静になった。
「あなたたちは……」
顔は黒いモヤがかかってはっきりとは見えないが、不思議と目の前にいる人たちと繋がっているような感覚がした。
「私は魔帝と呼ばれていたものだ。いまでは単なる思念体に過ぎないが」
「魔帝ブラスト、およそ80年前に戦場にて無類の強さを誇った当時最強の大魔法士……」
「未来のものが私のことを知っているとはなにかとこそばゆいものだな」
「ところでここは?」
「スキルの中にある精神界といったところか」
「精神界……」
「ただ私たちを憑依させるだけでなく、意思疎通もとることができることに気づいたお前は優秀だ」
「そうだ、僕は必死に打開策を考えていて……それではいま現実はどうなって!?」
「安心していい。ここと現実の時間はかなり違っているようだからな。まぁ、そんなことはあとだ。本題に入ろう」
そう言うと、手を僕に向けてかざしてきた。
「ふむ、魔導線のレベルは悪くない。だったら出来るはずだ」
「なにをでしょう」
「──乗っ取りだ」
「乗っ取り?」
「そうだ。現代がどうか知らんが私が生きている時代には、相手の魔法を乗っ取る技術を持っている者がありふれていてな。そんな中、私が最強と呼ばれていた理由。まぁ全ての魔法を使えたからというものもあるが、私の最も得意とする技術がまさにそれだ」
「でも相手の魔法を乗っ取るなんて技術どうやって……?」
「ふむ、現代にもいるようだが聞いたことすらないか?」
「……あっ、たしかリヴェルがエルには相手の魔法を乗っ取ることができる、みたいなことを言っていた」
「そのエルという者はかなり優秀なようだな。まぁいい。また話が逸れたな。人には自分が魔力を制御、支配できる空間がある。これをマナゾーンとよぶ」
「マナゾーン……」
「みな無意識に魔法を放つとき魔力に強制力を与えているのだが、この乗っ取りは、その強制力を自分のものにするという、簡単に言えばこんな技術だ。先程教えたマナゾーン内でしかこれは成功しない。まずは自分のマナゾーンを意識できるようになるところからだな」
それを聞いたカインは、静かに目を閉じ自分の魔力を支配できる空間というものを把握していく。
「限界を感じたところが現時点でのマナゾーンの限界だ。その中で、相手の魔法をさも自分が使っているときのように操ってみろ。強制力で上回りさえすれば、あとは楽な作業だ」
「(自分が使っているときのように操る……、強制力で上回る……、相手の魔法は僕の魔法……)」
サミュエルの強烈な水魔法──〈水竜の咆哮〉が迫ってくる。
だが、一足遅かった。
「こういう、感覚なのか……」
「!? どうして!?」
カインを覆っていたはずの〈
「こ、ここここれはどういう事だぁぁぁぁ!?!? サミュエル選手の放った魔法がカイン選手に操られているぅぅぅぅ!?!?」
「サミュエル先輩、お礼を言うよ。僕を一つ上の段階へ押し上げてくれたのはまぎれもなくあなたのおかげだ」
「っ!? まだ、終わっていません!!」
「いいや、もう終わりだよ。いっておいで」
そういうと、カインの周りをぐるぐる周っていた水竜は、サミュエルの方を向くと、咆哮をあげながらものすごいスピードでとんでいく。
「っ!? 次は、負けませんっ!!」
「次も負けないよ」
ドゴォォォォォォォォン!!!
「だ、第二回戦勝者は、第三王子カイン・フォン・グランデェェェェェェエ!!!」
溢れんばかりの大歓声を受け、カインはようやく肩の力が抜けていくのを感じた。
「エル、少しくらいは君に近づけたんじゃないかな」
そうつぶやくカインの顔は、間違いなく傑物の顔に近づいていた。
◇ ◇ ◇
「今の子達はレベルが高いね。こんな子達が国を支えていくと考えたらこの先の王国も安泰だよ」
高みの見物とばかりにVIP席で観戦するこの男──グランデ王国国王、エステルは、満足そうにそうつぶやく。
「にしてもカインも強くなってるね〜。頑張ってるみたいで安心安心」
用済みとばかりに席を立つ。
「はてさて、次に玉座に座るのはどの子になるかな」
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読んでいただきありがとうございます!
もうすぐ受験が終わりそうなので更新ペースはそろそろあがると思いますんで、今後も楽しんで読んでくれたらと思います!
次の話もお楽しみください。
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