第39話 ローズVSノエル

 学内交流戦初日は、瞬く間に過ぎていき、無事に何事もなく幕を閉じた。


 初日というだけあって、かなりのハイペースで試合が行われた。会場の熱気も終始、衰えることなく盛り上がっていた。


 この学内交流戦、この学園自体マンモス校で参加人数が非常に多くなるので最初の二日はある特殊ルールで行われている。


 そのルールというのが、全参加者を32個のグループに分け、そのグループの参加者たちによるステージ上で行われるサバイバルゲームを勝ち残った、たった1人が次の本戦に進めるというルールである。


 Sクラスのみんなはもちろん、他の有力候補たちもこのサバイバルゲームを全員順当に勝ち残っていた。


 二日目になると、さらに大人数が脱落していき、ついには本戦出場者と呼ばれる上位32人が決定した。


「いやー、みんな無事に勝ち上がってるね」

「とりあえず本戦出場を目標にしていた分、安堵の気持ちが大きいよ」


 本戦では、上位32名のトーナメント戦で行われる。もちろん、このトーナメント戦では1対1のタイマン勝負となるため予選時に運良く参加者に恵まれた対戦グループだったとしても、本戦では初戦で優勝候補とあたる、といったこともざらにある。


 そしてこれが、今回の本戦出場者たちであり、明日から行われるトーナメント表である。



メリル ─────

         |──

ヴォル ─────   |

            |────

ローズ ─────   |    |

         |──     |

ノエル ─────        |

                 |──

ドール ─────        |

         |──     |

シーラ ─────   |    |

            |────

ニル  ─────   |

         |──

フェイス─────



テラ  ─────

         |──

サミュ ─────   |

            |────

ジャン ─────   |    |

         |──     |

カイン ─────        |

                 |──

ライム ─────        |

         |──     |

ユグリ ─────   |    |

            |────

アリエル─────   |

         |──

ビルマ ─────



ケイズ ─────

         |──

リヴェル─────   |

            |────

キイラ ─────   |    |

         |──     |

ハルヴァ─────        |

                 |──

レージ ─────        |

         |──     |

ロイ  ─────   |    |

            |────

ルヴァ ─────   |

         |──

リアラ ─────



ハイネ ─────

         |──

レイブン─────   |

            |────

ロコ  ─────   |    |

         |──     |

クリス ─────        |

                 |──

ベール ─────        |

         |──     |

ウォール─────   |    |

            |────

デリブ ─────   |

         |──

オーサ ─────



(ドール…ランドール、サミュ…サミュエル、ユグリ…ユグリット、クリス…クリステラ)


 最終的に激戦を勝ち抜いた4人が決定すると、いよいよクライマックス、学園が誇る最大最高規模の闘技場バトルスタジアムで準決勝・決勝戦が行われる。

 そして全てを勝ち抜いた者にのみ、優勝の証と学園最強の称号が得られるのだ。


「まだなにもその名を知られていない子たちからすると、本戦出場者っていう箔が付くだけで全然違うからね」

「たしかに。ここにいるだれが将来のダイヤモンドになるか分からないし、これはその原石の宝庫ってわけか」


 貴族や王族、大商人などは、自分の騎士を抱えているものたちが多い。つまり、スカウト目的や将来のために目星をつけておくという理由で観戦している者も多いということだ。


「ちなみに、カインは目が付くような人はいたの?」

「うーん、正直に言うと、みんな抱え込みたいところではあるけど、強いて言うなら5年Aクラスの魔導士の先輩は気になったね。さすが、このエリート校の最高学年生と言ったとこかな」

「魔導士、ね。この国は近衛騎士や宮廷魔道士などに力は入れてるけど、現状、近衛騎士の方が力が上なのは聞いてるよ。そのためにも、バランス調整って意味で観てるんだね」

「あはは……、全てお見通しだね」


 なにせ、こちらには精霊という世界最高の情報網があるからね。国の情報程度なら全て把握出来ている。


「逆にエルはいるのかい?」

「気になるのが何人か、あとはそうでもないかな」


 そういえば僕はすでに領地持ちの独立貴族だった……。いずれは騎士の方も気にしなきゃならないんだったら、今のうちにコンタクトをとっておくのも悪くないかな?


「おれが目をつけているやつには手を出すなよ?」

「リヴェル……、いい人材を見つけたか?」

「お前も気づいていそうだったからな。この本戦において、まずCクラス以下のやつは見ないと聞く。にも関わらず、本戦へと足を進めることができるとは、実際にそいつのグループの試合も見たが、あれは間違いない。本物・・だ」

「いつになく饒舌だね」

「……ふん」

「? 何の話だい?」


 リヴェルの言っていることは正しい。

 本戦出場者においてCクラス以下の出場者を見るのは、決して少ないという訳では無いが、珍しいことには変わりない。運で勝ち上がれたものもいれば、実力で勝ち進んだものもいる。そして今回の話題の中心人物であるその者は、後者でありなおかつ、天才・・という評価をするに値する才能を持っていた。


「あのグループには他に本戦出場候補者が何人かいた。にも関わらず平民育ちであるそいつが勝ち残っている。平民育ちであるが故かもしれないが、貴族として生まれてしっかりとした教育、設備、その他もろもろがあったら、同じSクラスに来ていただろうな」

「平民育ちにも関わらずこれほどの実績を収められてる時点で尊敬に値するさ」

「君たち二人がそれほどの評価を下すとは……僕も気になってきたよ」


 「悪いが」と、振り向きざまにつぶやいたリヴェルは、不敵な笑みを浮かべて言葉を放った。


「あいつは俺のものだ。手出しは許さん。次の舞台リングで待っていろ」


 そして去っていくリヴェルを見ていたカインが不意に聞いてきた。


「ほんと、僕はとても恵まれていると思うよ。そうは思わないかい?」

「まったくだね。でも、これほどの逸材が、まったく同時期に集まるなんて……なにかの前兆だったり、なんて考えてしまうけどね」

「縁起でもないこと言わないでよ……」


 だが、実際にありうる話だ。

 過去数度、同じようなことが王国だけに限らず、歴史上確認されている。そして、その全てが例に漏れず、大災害、大規模な魔物の襲撃、最悪の呪いの発現など、様々な事態に遭遇しているのだ。


「考え出したらキリがない、か」


 そう口に出し、そのことを考えることをやめた。


「明日からがこの学内交流戦の本番みたいなものだ。カイン、お互い勝ち進んでいることを願ってるよ」


 そう言い残し、その場を立ち去る僕をみてカインがこうこぼした。


「いちばんの逸材はきみだということを忘れないでほしいよ」


 そうして、本戦開始の3日目が始まる。





◇ ◇ ◇





「はぁぁぁぁぁああ!!」


 本戦出場者による猛者たちの試合が行われる会場は、3日間でいちばんの盛り上がりを見せていた。


「活気が違うなぁ!! こんな中試合すんのか!? うおおおおおお!! 早くやりてぇぇぇ!!」

「ドールうるさいって……」

「お! 次はローズが出てくるぜ!?」

「あ、ほんとだ」


 舞台中央には、闘志に燃えた火の神の神子ことローズ、そして相手は──


「ローズ選手の対戦相手はぁ!! 現生徒会長にして最強の称号をもつ!! この学園にその名を知らぬ者はなし!! その名も、ノエル・フォン・エレクトスゥゥゥゥゥ!!!」


「初戦でこれほどの大物と手合わせできるとは、天運に感謝するぞ」

「……」


 ローズの実力は身をもって知っている。

 そしてその実力があの男にどれくらい通用するか。


「お手並み拝見といこうか……」


 そして、試合開始のゴングが鳴る。


「胸を借りるつもりでいかせてもらう!」


 次の瞬間、会場全域にまで届くほどの熱気が一気に充満していく。


 ローズの火だ。

 固有スキルやさまざまなパッシブで通常の火魔法とは比べものにならないほど火力が高まる。これこそが、ローズを"火の神の神子"と呼ばせるに至った所以だ。


 その炎は、すべてを燃やし尽くす煉獄の炎と化す。


「ローズ……ッ! まだ実力を隠してたな!?」


「受けてみよ、全力の一撃だ!! 『火魔法・煉獄滅火』ッ!!」


 まるで太陽をそのまま持ってきたかのような光景に、観客のすべての視線がその魔法に釘付けになる。


「(擬似太陽を創り出したような光景だな、さすがローズだ)」


 ノエルに向かって降りかかる太陽は、届いたとき、異次元の轟音と眩い光を放ち、ゆっくりと収束していった。


「こ、これを食らってはさすがのノエル選手もダウンかぁ!? ローズ選手、弱冠10歳が放つ業ではありません!! まさに規格外!! 神の御業と言っても過言ではありません!!」


「過言だな」


ビュゥゥゥゥゥン


 その一言とともに煙が晴れていく。

 そしてそこには、無傷で佇む最強の男──ノエルがそこに立っていた。


「その才能と実力、まさにSクラスに相応しい実力者だ。どこかの愚図と違ってな」

「……貴様、いま私のクラスメイトのことをバカにしたのか?」

「バカになんてしていない。ただ、事実を口に出しただけだ。お前も関わる相手は選べ。あんなやつと関わっていたらその才能が霞んで見えるぞ」

「そうか、もういい。大人しく散れ」


 ローズはさらに火力の上がった魔法を放とうとした次には──いつのまにか氷漬けにされていた。


「!? いったいなにがあったのでしょうかぁぁぁ!? 瞬きをしている間に、ローズ選手がなんと氷漬けになっているぅぅぅ!?」


「そういうことは実力が伴ってから言うといい。そうでなければ、滑稽にみえるぞ?」


 あきらかにローズのなにかが切れたような雰囲気があった。まさに鬼の形相、親の仇でも見るかのように視界から消えるまで睨み続けていた。


「……おい、エル。あいつはおれに殺らせろ。いや、殺る。悪いがエル、ノエルとの対決はまた今度にしてくれ」

「全力で挑みなよ。完全にあれは、格上だよ」

「……分かってる」

「まぁ、負けてもちゃんと仇は討ってあげるから。気楽にいきなよ」


 そしてなにも言わずに消えていくドールの背中をみていたエルは、なにを思おう、一人不気味なほどに笑っていた。


「そこそこは楽しませてくれそうだね」


 その顔は、負けた仲間を想う優しい心をもった人間とは遠く離れた、己の欲のままに動く悪魔そのものであった。


「あ、確認したいことがあるんだった」


 すでにその顔は消えていつものエルの顔になっていた。


 人影の薄い場所に移動した僕は、水の精霊王──ネロを呼び出した。


「ネロ、頼んでいたことは?」

「ええ、ちゃんと見ていたわ」

「ありがとう。黒で間違いないかな?」

「そうね、私の目から見ても黒だと思うわ」

「了解。また必要なときに呼ぶよ」

「必要じゃなくても呼んでいいのよ?」

「暇があればね、それじゃ」

「む、せっかちな人」


 そうして、ネロを帰還させる。


「これから起こることが楽しみだね」


 日陰に隠れた場所ということもあって不気味な笑みは、より一層、恐ろしいものに見えた。





◇ ◇ ◇






「会長、お疲れ様でした」


「あぁ」


「今年の本戦出場者の7人が一年生のSクラスから出ていますね、かなり期待されているようで」


「いいことだ。あいつらがいずれこの学校を背負うことになる。もしかしたら、この俺を超えるやつも現れるかもな」


「お戯れを。会長ほどの人物がそうやすやすと見られるとは思いませんが……」


「ふっ、どうだろうな……」


 本戦出場者を一度頭に浮べる。

 その中には、弟の名前はない。


「ちっ……」


「……?」







────────────────────


 読んでいただきありがとうございました!


 GWに入って少し余裕ができたので更新させてもらいましたが、本格的に受験勉強にとりかかっていくと思うので、もしかしたらまた更新には間が空くかもしれません。


 何卒、よろしくお願いしますm(_ _)m


 次の話もお楽しみください。


 (改訂版です!)

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