第37話 VS Sクラス決着

「ウッラァァッ!」


 ドールの重い一撃が繰り出されるたびに辺りに風が巻き起こる。


「まったく、その威力はどこから出てるんだ、よッ!」


 同じく、エルも反撃するたびに風が巻き起こる。

 そうして、エルとドールの激しい打ち合いが始まる。


「5歳児の戦闘じゃないわよ……」


 そんな規格外の攻防を見ているテスタは、そうため息混じりに呟く。

 あまりのレベルの高さに忘れかけているが、ここにいる全員が5歳というれっきとした子どもなのだ。


「でも、まだまだ僕の方が上だなッ」

「ぐはッ」


 激しい打ち合いの中、エルの拳がドールの鳩尾にクリーンヒットして、ドールの体が浮き上がる。

 そんな隙を見逃すはずもなく、エルは追撃を仕掛ける──が、突如現れたリヴェルとハイネの攻撃を避ける。


「ふぅ、今のは危なかった」


 そう言うと、落とした剣を自分の手に引き寄せる。


「さて、第2ラウンドスタートだ!」

「はっ」「やぁぁッ!」


 次の瞬間には二人はエルの眼前まで距離を詰める二人。そこからは縦横無尽に動き回る二人の攻撃を捌いていく。

 徐々にスピードと威力を上げていく二人に、エルは違和感をもつ。しかし、その違和感はすぐに消え去ることとなる。


「(……なるほど、目か。リヴェルはまだしも、このスピード感についていけてるハイネのことが気になってたけど、目がいいのか。身体強化+固有スキルかなにかを使ってるんだろうな。なにより反射神経と動体視力がずば抜けてる)」


 思考を巡らせながら、どう仕掛けようかと考えながらも、楽しんでいる自分に気づくエルは、口角がつり上がっているのを自覚していた。


「いいねいいね! いい攻撃だ!」

「ちッ、気味の悪い! さっさと死ね!」

「そういうリヴェルも楽しんでるじゃん!」

「とりゃぁぁッ!」


 そんな中、カインはただ見ているだけだった。


「(くそ、なんであんなにも遠いんだ……)」


 あまりに規格外な攻防を目の前にして、自信をなくしつつあるカインは、しかし、折れずに現実と向き合っていた。


「(今の僕にあれほどの力はない……だけど、負けたくない)」





◇ ◇ ◇





『偉人憑依か〜、ほんとすごい力だよね』

『だけど、他人の力を使ってるみたいで僕はあんまり好きじゃないんだよね』

『んー、まぁ、人それぞれだとは思うけど、その固有スキルだって平等に貰ったものな訳だし、たとえそれが他人の力を使うっていう能力でも、それが出来るだけの自分の力だと思うけどね』





◇ ◇ ◇





「偉人、憑依……ッ!」


 その瞬間、エルは背後のなにか・・・を感じ、その場をすぐにジャンプして離れた。

 そこには、先程自分がいたところを圧倒的スピードで切り伏せるカインの姿があった。

 カインに憑依した偉人は、かつて戦乱の時代に平民生まれにも関わらず、その腕と剣一本で成り上がった最強の傭兵剣士であった。

 カインの後ろにその男が見えた気がした。


「カイン……ッ!」

「さぁ、いくよ!」


 憑依状態のカインも参戦して、さらに剣の打ち合いは激化する。

 一人の剣を弾けど、また一人の剣が迫ってくる。そんな、常人なら気が遠のきそうなほどの戦いでたった一人でその手数を捌き切っているエルは、さながらラスボスの悪魔のようであった。


「これでもまだ、届かないのかいッ!?」

「首席さまはやっぱり強いなぁッ!」


 長い時間が過ぎたように感じるこの打ち合い。

 しかし、それはすぐに終わる。


「なんだ?」


 そう呟いたときには、先程まで激戦を繰り広げていた3人はその場から距離をとっていた。

 そして考える暇も与えず、リヴェルの高純度の鋭利な氷柱が、地面からエルの首元へと伸びる。

 

「くッ!?」


 すぐにその場を離れようとするも、思うように身体が動かなかった。


「少し、止まってなさい!」


 その声の主は、クリステラであった。

 影縛りで足止めされたエルは身動きがとれない。

 そんな千載一遇のチャンスにローズの特大攻撃魔法が、上から迫ってくる。


「これで終わりだァァァァ!!」


 ローズの渾身の一撃がエルに直撃する──寸前に、その魔法とリヴェルの氷柱が霧散する。


「なっ!?」


 その声の主は誰であっただろう。

 そんなことも気にならないくらいには、エルの魔力の圧はとてつもなかった。


「──すごい。ほんとにすごい。この僕に魔力を使わせるなんて……」


 そう。これまでの戦いの中で、剣を引き寄せるとき以外にエルは魔力を一切使用せず、素の身体能力のみで戦っていたのだ。


「な、ぜ、私の魔法はかき消された……?」


 魔力圧に耐えながら、そう口にする。

 その質問の答えはリヴェルが答えることになった。


「……魔力領域。魔力導線を極めた者のみが到達しうる、魔法使の極意だ」

「空気中にある魔力だけじゃなく、相手の魔力──つまり、魔法をも支配できる」

「そ、そんなことが……」

「じゃあ、そもそも勝ち目はなかったってこと……?」

「そうなるね」

「ちっ……また敗けた」

「……このバケモンが、どこまで強けりゃ気が済むんだコラァ」

「あっははは、じゃあこのくらい強くなればいいじゃないか」

「一回殴らせろ、いや、一回じゃ足りねぇな、たくさん殴らせろ」

「いいよ〜、当てられるものなら、ね♪」

「オラァァッ! 死ね! コラッ!」

「あ、あわわわわ、け、喧嘩はだめですよぅ……」


 そんなやり取りを遠い目で見つめていた者が一人、ネアンだ。


「君はいかなくていいの?」


 そうテスタが話しかける。


「僕はいいです……。本当は、僕はこのクラスの生徒じゃありませんから……」


 その目は、どこか虚ろで、そして、悲しみも含んでいるように見えた。

 そんな雰囲気に、テスタは何も言えずにいた。


「……すみません。僕はこれで」


 そう言って去っていく背中をただ見ているしか出来ない自分に嫌気がさす。


「教師失格ね……」






────────────────────


 読んでいただきありがとうございます!


 テスト辛いです。

 病みそうです。

 頑張ります。

 ('-' ).........。



 次の話もお楽しみください。

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