第35話 アリエルVSバレッド

 翌日

 下克上戦の受付を済ませた僕達は教室へ向かう。

 教室へ入ると、Sクラスのみんなから質問責めにされた。


「いやぁ〜、それにしても今期性初下克上戦がまさかエルとはね〜」

「へぇ、まだだれも下克上戦してないんだ」

「下のクラスならともかく、僕達Sクラスに挑んでくる人はいないと思ってたんだけどね」


 そりゃそうだ。

 そもそもSクラスというものは、類まれにみる天才たちを集めたもので、他の子たちとはレベルが違うのだ。


「相手はたしか、Cクラスの子だったよね……たしか名前はバレッド、だったかな?」

「あぁ」

「そいつはバカなのかねぇ、よりによって、あのアリエル・フォン・アルバートに喧嘩うるたァよォ」

「全くもって同意するよ」


 自慢じゃないが、たしかにこの二人の言うとおり、僕はみんなとは頭一つ……いや頭三つ分くらいは抜けでてるだろう。

 つまり、万が一にもCクラスの子に負ける可能性はないということだ。


「ま、気楽にやるさ」

「程々にしてあげなよ? あまりの実力差に絶望して退学とかしちゃったら可哀想だからね」


 そのときはまぁ、喧嘩を売る相手が悪かっただけだ。




〜放課後〜




「はっはっは、逃げずに来なかった度胸だけは認めてやろう!」


 ……なんでこういう輩ってお決まりのようにこのセリフを吐くんだろう。


「あー、うん。ありがとう?」


 ほんとなんて言えばいいんだろうか。

 だれか教えて欲しいくらいだ。


「静まれ」


 その一言だけで、観客席いっぱいに座る生徒たちが静まり返った。

 他に二人引き連れて用意された椅子に座る。


「ただいまより、一年Cクラス、バレッド対一年Sクラス、アリエル・フォン・アルバートの下克上戦を始める。審査員を務めるのは、王立魔法騎士学園生徒会メンバーであるユグリット、同じくサミュエル、そして審査員長は生徒会長であるこの私──ノエル・フォン・エレクトスが務めさせてもらう」


 ──会場が揺れるのが分かった。


「の、ノエル様だってッ!?」「な、なんであの方がここに!?」「生徒会長自らとか、豪華すぎんだろ!?」


 同じようにエルを観戦しにきたSクラスのみんなが、ネオンの方を向く。


「え、エレクトスってことは、まさかお兄さん!?」

「まじか!?」

「……あ、あぁ」

「お前の兄貴めちゃくちゃスゲェじゃねぇか!!」

「たしかに、素晴らしい目標が身近にあるというのはいいことだろうな」


 そのとき、ほんの少しでた冷や汗に気づいたものは、リヴェルただ一人だろう。


「自己紹介も終わったことだ。さっそく始めようではないか」


 そのとき、ノエルから視線を感じた。


「(試されているのか……?)」


 無性にイラついていることが自分でも分かった。


「(僕を試そうとするなんて──不快だな)」


 ノエルに集中的に殺気を向ける。

 普通は浴びるだけで意識が飛んだり、腰が抜けて立てなくなるかの二択だった僕の殺気を受けてノエルは──口角を上げてそれに応えた。


「(……この学園でトップに座れるだけの実力はあるってことか)」


 ──負けるつもりはさらさらないけどね──


「(だから定期的にアフレコするのやめろって)」


 ──そう言いたそうな顔でしたので──


「(だからって……はぁ、もういいや。今は目の前のことに集中しよう)」


「内容は──腕相撲、と聞いているが?」

「──そのとおり! おれ様は腕相撲で町一番の実力をもった男だったんだぞ!」

「そうか、じゃあ用意されたステージに登れ」


 はは、めっちゃ簡単にあしらうじゃん。

 そう思いながら僕もステージに登る。

 お互い台の前に立つと、褐色肌の筋肉ムキムキの男──ユグレットが中間に立ち、ルール説明を始める。


「ルールは至極簡単。互いが互いの手を握り、おれがコールをした瞬間から試合スタート、先に手の甲を台につけた方の負けだ。質問は?」


「ありません」「ない!」


「それでは台に肘をつけて手を握れ」


 指示通りに肘をつけて手をだす。


「今から負ける気分はどうだ?」

「そうだね。実力差があるからハンデをあげてもいいかな、とは考えてるよ」

「貴様ァ! ナメるなよ!」


 お互い手を握ったところで、ユグリットが手を重ねる。


「準備はできたな? それじゃあ、レディ……ファイトッ!!」

「貴様なんぞ一秒もいらねぇ、よっ!!」


 凄い勢いで手の甲が台に向かっていく。

 そのまま僕の手が台につく。


「はは、やっぱり雑魚じゃな──ん? なんだ?」

「ふぅ」


 ──寸前でとまる。

 

「な、なんだよ! ふんっ! ……クソが! ビクともしねぇじゃねぇか!」

「言っただろう? ──ハンデをあげてもいいかな、って」

「はぁ? この本番になに言ってやがる!」

「あまりにも弱いからさ。ほら、ここからスタートでいいよ? まぁ、今からは一ミリも台に近づかないと思うけどね」


 台からほんの数ミリしか間が空いていない手を見て、歯ぎしりしながら必死に力を入れるバレッドは、ひどく滑稽に見えた。


「はぁ、はぁ、も、もういい、おれの負けだ、だから早く終わらせてくれ……」

「なんで? まだ試合は終わってないけど? ほら、もうちょっと頑張ってみなよ(笑)」

「た、たのむ、もうやめてくれ!」

「はぁ……分かってないようだから教えておくよ。──僕に喧嘩を売っておいてただで返されると思うなよ?」

「ひ、ひぃぃぃ!! あ、悪魔! 人の皮を被った悪魔め!!」

「心外だなぁ。僕ほど優しい人はいないっていうのに。現にこうやって、君の未熟さを教えてあげてるじゃないか」


 笑顔を見せるたびにどんどん恐怖の色が強くなっていくバレッド。

 これには会場の生徒たちもドン引きしていた。


「こ、これが白い悪魔と呼ばれる男……」「恐ろしい、あ、あいつとは関わらないようにしよう……」「そんなアリエル様も美しい……」

 

 そうして、時間をかけてゆっくり勝利を掴んだアリエルは、最後に一言だけ残していった。


「この場をお借りして宣言させてもらうよ。僕を蹴落としたいと思ってる者たちはもちろん、Sクラス入りしたい者たちや僕と勝負してみたい者たち全員、いつでもかかってくるといい。そのときは君たちの土俵で戦うことを約束しよう。だから思う存分、僕を楽しませてね」


 一瞬の静寂の後、会場は溢れんばかりの大盛り上がりを見せた。

 歓喜するもの、激怒するもの、興奮するもの、差異はあれど、みな一様に一人の男に釘付けになっていた。

 この一言をきっかけに、歴史上稀に見るほどに、学年のレベルが一気に成長すると同時に、競争心までもが煽られることになった。





◇ ◇ ◇





「おもしろい……」

「勝って当たり前の勝負でしょう? なにがそんなにお気に召したのですか? 会長。たしかに最後の一言には驚かされましたが、たかが一年生の戯言でしょう?」

「全くだぜ、会長はほんと変な人だな」

「ふっ、いずれ分かるときがくるだろう」


 生徒会メンバーは審査を終えて踵を返していく。


「そういえば、あの子と同じクラスに会長の弟さんも入学していたわね。たしかお名前は、ネオン君、だったかしら」


 その瞬間、ノエルの空気が変わった。


「──サミュエル、次に愚弟の名を出したら……分かったな?」


 エルと変わらないほど、質の高い殺気をサミュエルに浴びせるノエル。

 震えながら「は、はい……」と言うサミュエルは二度と口にしないよう決心する。


 それと同時に、疑問も浮かぶのであった。

 "同じ"Sクラスとして入学した弟を愚弟と呼ぶ理由を──。






────────────────────


 ご無沙汰しておりますm(_ _)m


 新年明けましておめでとうございます。

 そして読んでいただきありがとうございます!

 

 読んでくれている皆様には申し訳ないですが、今年からは受験勉強に備えて更新速度をさらに落としていくつもりです。

 ただでさえ不定期でめちゃくちゃ遅い自分なんですが(ほんとごめんなさい)、やはり大事な時期なので、リアルの方を最優先に考えていきたいなと思っています。


 楽しみにしていただいてる方には申し訳ないですm(_ _)m


 ということで、次回はいつになるか分かりませんが、お楽しみください。

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