第34話 学園の日常、そして下克上戦

 アリエルの領地改革が順調に進み、カインが足を運んだときにアリエルも一緒に王都に帰還していた。


「大丈夫だったのかい? 他の人達に任せても」

「うん。頼りになるひとに指揮をたのんでるから、大丈夫だよ」


 久々に学校に足を踏み入れたな。

 さて、みんなはどうなってるかな?


 教室の扉をひらき、中に入ろうとすると──


「す、好きだ! おれの恋人になってくれ!」


 ………へ?

 いやいや、え、状況が掴めないんだが!?

 あの、恋愛というものに縁がなさそうなあのドールが……告白してるだと!?


「えーっと……失礼しましたー……」

「現実逃避したらダメだよ」

「このタイミングで正論言わないで!?」


 カインに肩をつかまれ無理やり教室に入れられる僕。

 気まずいことこの上ない。


「お? エルじゃねぇか! 久しぶりな気がするな!」

「よくこの状況でそんな呑気なこと言えるなお前!?」


 僕の気まづいという感情を返せ。

 

「無理もない。私たちも少しばかり驚いているからな」

「経緯は!? なにがどうなったらあの鈍感脳筋無頓着が、告白することになるんだ!?」

「負けちゃったんだよ、ランドール君が」

「ドールが? 嘘でしょ?」


 あの下位のドラゴンとはいえ腹を貫通させる男だぞ?

 情報量が多すぎて混乱する……。


「……くだらない」

「くだらない……? あの、あの!! ドールが!! 告白してるんだぞ!? 大事件じゃないか!?」

「そこまで言わなくてもいいじゃねぇか!」

「はぁ……」


 リヴェルが呆れたため息をついているが、無視だ無視。

 

「それで? クリステラさんはどう思ってるのかな」


 カインがそう訊ねる。

 そう、問題はそこだ。


「……言ったわよね? 私は天下一のイケメンを見つけて彼氏にすると……そう! つまりランドール君では不釣り合いよ!!」


 まじかよ。

 こんな堂々と振る人初めてみたわ。

 しかもちょっとドヤ顔なのがまたおもしろい。

 さぁ、当の本人はどうだ……?


「分かった!! じゃあ卒業するまでに君に釣り合う人間になってやるぜ!!」


 めちゃくちゃポジティブだった〜〜〜!!

 いやたしかにこういうやつだけども!

 もっと傷ついたりしないの!?

 メンタル鋼かよ!!


「なんだか見てはいけないものを見てしまった気がするわ……」


 そんなカオスな教室の扉の前には我らが担任テスタ先生がいらっしゃった。

 がっつり目撃しちゃったようだが、これに関しては僕もテスタ先生側の人間だと思う……。

 この二人の先のことはかなり楽しみであることは秘密だ。





◇ ◇ ◇





 なんやかんやで初授業だった僕だが、割と楽しい時間を過ごせていた。

 そして午前の授業がすべて終了し、昼休憩に入っていた。

 そして、現在僕はSクラスのみんな(リヴェル一行以外)と食堂に足を運んでいた。


「へぇ〜、どれもこれも、美味しそうなものばかりだね」

「そりゃそうだよ! なんたって王国一の規模と設備を整えた学園だよ? このぐらい当然だよっ!」

「それを踏まえてもかなりの手の込みようだよね。さすが大国だな……」

「地方の料理から王都の料理まで幅広いことも良い点だ。無理に慣れていない食事に手を出しても学業に精が出ないというものだ」

「おれは食えりゃなんでもいいがな」

「ドールは例外というものだろう。まるで人の形をした獣だ」


 戦闘中のあなたも獣そのものなんですがね、とあの戦いぶりを見ていないエル以外は同じ気持ちを抱いたことだろう。


 そんなエルにひとつの生体反応がとてつもないスピードで近づいてきた。

 

「(ッ!? なんだ──)」


ボフッ


 エルの胸にとびこんできたその人物に、エルは力がぬける。


「エルくんっ! やっと学園にきてくれたんだねっ! ずっと寂しかったんだよ?」


 なんだこの可愛い生き物。

 軽く死ねるのだが?


「(大賢者よ、この子の可愛さを分析してくれ)」


──了解しました。まず可愛さを引き上げている最大の魅力はこの圧倒的顔です。この綺麗な輪郭、美しい肌、思わず見惚れそうになる唇、完璧な位置の鼻、中に惹き込まれそうな瞳、そのありとあらゆる全ての部位が──


「(のってくれてありがとう! そして鬱陶しいわ!!)」


 思いのほかノリがいい大賢者であった。


「ごめんね。少し忙しくてあまり顔を出せなかったんだ」

「これは罰が必要ですね……そんなエルくんには、一週間放課後デートの刑です!」

「はは、逆にご褒美になっちゃうよ」

「もうっ! エルくんってば!」


 そんなイチャイチャムーブを全力で展開している二人をよそに、Sクラスの全員が呆気にとられていた。


「……この変わりようだよね」

「イケメン成分がどっぷどぷなんだけど……ぐへへ」

「尊い! 尊すぎるよこの二人!」

「ふむ。同年代最強の秘密が、この恋愛というものに繋がっているのだろうか……。経験してみるのもアリかもしれないな」

「なんだ、サシャは元気そうじゃねぇか」


 うーん、個性豊かでよろしい!


「たくさんお話もしたいけど、先にご飯食べよっか」

「そうだね。Aクラスだけど、一緒にいていいのかな?」

「食事にそんなのは関係ないよ。それに何か言われたら返り討ちにすればいいさ」

「実力が飛び抜けてる分、穏便に済ませようとは思わないことが余計怖いよね」

「そんな、失礼だなぁ。こんなに優しい人は二人といないはずだよ?」

「それ本気でいってんならこの世の全ての人間……いや、魔物も含めて全員人格者だぜ」

「ドールは黙っててね」

「だからそのオーラ消せっての!! おれだけに集中してる分なおさら怖ぇよ!」


 馬鹿なことを言うのが悪いっていうのに……。

 そんな他愛もない話をする時間を楽しんだ僕は、サシャとの放課後デートへと洒落こんでいた。


「やっぱりみんなといるのは楽しいね」

「だねー」


 そんな二人っきりの時間を邪魔してくるやつがいるのがこの世界だ。


「おい、お前」

「どうする? もう少し街めぐりでもする?」

「おい! 聞いているのか!」

「……なに?」

「お前、学園のSクラス所属アリエル・フォン・アルバートだな?」

「そうだけど?」

「おれはCクラスのバレッドだ……首席のお前を倒せばおれ様の名はさらに広まる! そういう訳で、お前に下克上戦を申し込む!!」

「……へぇ」


 下克上戦。

 この学園には下克上制度というものがあり、下のクラスは上のクラスの人間に月に一度、下克上を挑むことができる制度があり、これに挑戦者側が勝てば、席次変更となり、挑戦者側が負ければ、席次を三席分ダウンという、下手したらクラス変更すらありえる一発逆転の文字通り下克上チャンスなのである。

 そして原則として、受ける側は拒否することができず、絶対に受けなければならない。


 つまりこの時点で、このバレッドという男との下克上戦は決定事項となったのである。

 まぁ、この下克上戦で金星をあげた者は学園の歴史上二人しかいないという、とてつもなくシビアな戦いとなっている。

 その二人もほぼ運勝ちという記録が残っている。


 かくして、エルのバレッドとの下克上戦が始まろうとしていた。







────────────────────


 読んでいただきありがとうございます!


 今回は少し学園生活の話にしてみました!

 そして相も変わらずサシャの可愛さにはめがくらみそうです。


さて、今回紹介する三人はこちら!


 ネアン・フォン・エレクトス……青い髪と知性を感じさせる丸メガネが特徴のイケメン。リヴェルを尊敬し、心からの忠誠を誓っている。リヴェルからの信頼も厚い。


 ハイネ……平民育ちの美少女剣士。栗色のポニーテールとクリッとした目が特徴(かけてないぞ!)。親の影響で冒険者に憧れ、父の剣を身につけた彼女に並び立つ同年代の女の子はいない程の腕の持ち主。


 クリステラ……平民育ちの残念美少女。透き通るような白髪と緑眼が特徴。常日頃目を光らせており、ありとあらゆるイケメンを見逃すまいと意気込んでいる。見た目に反して闇魔法の使い手で、かなり腕がたつ。


 どうでしょう、イメージと違ったところはありましたか?

 クリステラに関しては自分でも、合ってなさすぎだろ! と思いながらつくりました笑


 次の話もお楽しみください。




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