第33話 復讐者

 これは、アリエルがヘンドリック伯爵家を潰した時まで遡る。

 アリエルに勝負を挑み、何も出来ずに惨敗したドラウドやその家族が犯罪奴隷として鉱山まで運ばれていたときである。


「はっはっは、伯爵家が取り潰しでこんな様になるなんて、一生の笑いもんだぜ」


 犯罪奴隷を連行している者が大声を出して高らかに笑う。


「……る……ろす……りえる……ころす……」


 檻の中では怯えているもの、放心しているもの、ストレスで頭をかきむしっているもの。

 そんな中、異常な程復讐心に染まっているものがいた。


 そう、ドラウドである。


 そんなドラウドを見つけたのか、その一行の遥か高い上空でうすら笑みをうかべる禍々しいなにかがいた。


『ふふふふふ……、いい依代をみつけた……あは♪』


 そんな禍々しいなにかは檻に近づいていく。

 そして語りかける。


『ねぇ、そこの人間くん』

「……」

『復讐、したいんでしょ? 私ならその復讐に手を貸すことができるよ』

「……何者だ?」

『んー、悪魔とでも名乗っておこうかな』

「悪魔、か」

『で? どうするの? 憎いんでしょ? 殺したいんでしょ? ……私と手を組もう?』

「……」


 すでに答えは決まっていたのかもしれない。

 アリエルに負けて大勢の前で恥をかき、何度も何度も殺したいと思って今まで過ごしてきた。

 そして、復讐できる力がやっと手に入る……頷かない方がおかしいくらいだろう。


「……いいだろう。力を……寄越せ」

『あはははは! いいねぇいいねぇ!! その目!! 最高だよ!!』


 そう言うと、禍々しい何かがドラウドの中に流れ込んでいく。

 そして、男が叫ぶ。


「聞いてんのかこのクソガキがァァァ!!」


 ガァァァァァン


 檻を思いっきり蹴った音が静寂の中に鳴り響く。


「騒がしい……」

「あァ!? もういっぺん言ってみ──がっ……な、なん、だ、これは!? ぁ……」


 そこには、首に黒い靄がまとわりついて、宙に浮かんでいる男がいた。


「……しね」


 その一言。

 その一言で男の首が黒い靄によって握りつぶされた。


「きゃ、きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!?!?!」


 檻の中から悲鳴が聞こえたと思えばその女も死に、いつのまにか、その場にいた全ての人間───いや、生命が刈り取られていた。

 その場には、禍々しいオーラを纏うドラウドと、死んだ木々だけが残っていた。





◇ ◇ ◇





ゾワッ


「ッ!?」


 アリエルは悪寒が走り、振り向く。

 そこには何もなかったが、たしかに、この世に存在してはいけない存在を感知していた。


「エルくん、どうかした?」

「あ、いや、なんでもないよ……」

「大丈夫だよ! なにがあっても私がいるんだから!」

「……うん、そうだね。サシャがいれば負ける気なんてしないよ」

「えへへぇ」


 多分、違う意味で伝わっているが今はいいだろう。

 守るものがあれば、その想いが強ければ、なおさら負ける気はしない。

 そのときエルは、自分の全てをかけてでも守りきると、密かに誓っていた。


「邪魔するやつは……なにが相手でもぶっ潰す……」


 そのときのエルは、さらに凄みが増していた。





◇ ◇ ◇





 北の大地。

 極寒のこの地にもその存在のオーラは届いていた。


「……」


 氷の君主こと、リヴェル・フォン・ローファウトも、その存在に気づいていた。

 そしてそれと、いずれやり合うことになるだろうことも……。


「……いくぞ、ネオン」

「はい」





◇ ◇ ◇





───神界。


 この神界にもその存在は大きな影響を与えていた。


「ふぅむ。なぜこのタイミングなんじゃ」


 創造神すらも悩みを抱えていた。


「やべーことになったんじゃねーの? ゼノのじいさんよ」

「ロキか。うむ、儂らが手を出せないということを知っての行動か……? いや、あやつらにそんな考えはないの。欲の赴くままに動くからのぉ」


 今話しかけてきた神はロキこと破壊神ロキである。

 ゼノと呼ばれたのは、創造神の名だからである。


「ったく、神もめんどくせぇルール創ったもんだなぁ。ちゃっちゃと下界いってぶっ壊せばいいだけだろうが」

「その影響が大きすぎるのが問題なんじゃよ。お主が壊しにいったら星三つは壊して帰ってくるじゃろうて」

「それのなにが悪ぃんだよ」

「脳筋は相変わらずね」

「あァ?」


 精霊神ミレアも事態の大きさに気づいているようだ。


「結局、あの子に何とかしてもらうしかないのね」

「そうじゃの。あの子ならなんとかなるじゃろう、アリエルよ」


3柱は下界を眺めて、一人の人間に全てを託したのであった。




 そうして、この物語の一つ目の大きな壁に向けて、全ての歯車が回りだしていた。







おまけ




 これはアリエルがS2ランクへ上がる前のことである。

 冒険者としてすごしていたアリエルは、昇格の最終条件のためにドラゴンの討伐に出ようとしていた。


「エルくん。君なら大丈夫と思うが、細心の注意をはらうんだよ」

「うん、ありがとう。ちゃんと帰ってくるよ」


 ドラゴン───生態系の最上位に君臨している別格の存在である。

 そのドラゴンの素材に使えない部分はないと言われているだけあって、人知を超えた強さを誇っている。


 ドラゴンにも種類があるが、今回アリエルが討伐する種類は、二番目に強いと言われている赤竜である。

 アリエルは空をとび、赤竜の居場所へと向かった。




〜2時間後〜




「ははっ、これは絶景だな!」


 眼下には、広い、広い広い、とても広い範囲で焼け野原になっている場所と、その中心に佇んでいるとてつもなく大きなドラゴンがそこにいた。


「見た感じ、どう考えたって炎系だよな」


 その予想は当たっており、赤竜は炎の使い手である。

 その体内温度は、1キロ離れていても鋼鉄を一瞬にして溶かすほど一線を画していた。


「ははっ! 俄然やる気でてきた!! 赤竜、お前には同じ炎系統で超えてやるよ!!」


 そして、一瞬にして魔法を展開し、数えるのが憂鬱になるほどの数をそのドラゴンに放った。


「いっけぇぇぇ!!!」


 アリエルはいとも簡単にこの数をだしているが、威力も相当であった。

 常人が使う最上位魔法の威力ぐらいはあるだろう。


 ………そして、それをこの数くらって無傷でいる赤竜はやはり別格なのだろう。


「は、はは、バケモンだな!!」


 赤竜の大きな瞳がアリエルを捉えたと思えば、次の瞬間、鼓膜が破ける勢いで雄叫びをあげた。


グオォォォォォォォォ!!!


「ッ……くっそ、馬鹿でかい声で叫ぶなよ!!」


 さらに、赤竜が飛び上がったと思えば、常識をこえた速度で迫ってくる。


「大賢者っ!! あいつなにか纏ってるよな!?」


──そうですね。頭周りに異常な魔力周波を感知しました──


「だったら簡単には死なないよな……死ぬなよ?」


 そう言ってアリエルは、一つの言葉を吐き捨てる。


「神気、解放ッ!!」


 体内から一気にあふれ出す神気を拳に纏う。

 そして、アリエル自信も赤竜に向かって突進していった。


「くらいやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


グオォォォォォォォォ!!!


 生態系最上位に位置するドラゴンと人間の中でも唯一、神のちからを持つ人間。

 普通の戦闘になる訳がなかった。


 お互い、後ろに吹っ飛んだと思えば赤竜の十八番、炎のブレスをアリエルに放つ。

 それに対しアリエルも対抗して、魔力に神気を纏い、神属性を付与した神の炎を放つ。


 ぶつかったと思えばこの世の爆発とは思えない規模の爆発音が響いた。

 それから数時間かけて高度な空中戦を繰り広げた。

 そして、終わりは突然にやってくる。


「はぁ、はぁ、はぁ、ここまで疲れたのは初めてだよ」


グルルルゥゥゥゥゥゥゥ


「お前も初めてなんだな。……次で決めようか」


グオォォォォォォォォ!!!


「これはお前との戦いで生み出すことができた魔法だ……これでお前を葬る!!」


 お互いの魔力が激しく連動し合う。

 最後の魔力を振り絞って、相手を倒すために。


 赤竜の前方に大量の魔法陣が浮び上がる。

 

『……これを使えるようになるとはな』

「ッ!?!? 喋れたのか!?」

『お主との戦いで竜の血が覚醒したのだろう。おかげで、竜の中でも限られた者のみ使える竜言語魔法が使えるようになった。感謝するぞ』

「ははっ、お互い初めて使う、究極の魔法なんだな」

『あぁ、これで終わりにしようではないか!!』


 お互いの魔力が最高潮になったとき、二人が叫ぶ。


「神気術炎魔法式! 神の裁きの炎インフェルノッ!!!」

『竜言語魔法、ル・ミユレ・ホロル燃え尽きろ!!!』


キィィィィィィィィン




〜翌日〜




「エルくん、これが新しいギルドカードだよ。昇格おめでとう!」


 そう言って受け取るアリエルの顔は、どこか清々しい顔だった。


アリエルの伝説は、まだまだ終わらない。






────────────────────


 読んでいただきありがとうございました!


 サボったこと、誠に申し訳ございませんでした……笑

 一応、不定期と言ってるのですが、やはりサボった感が否めませんでした。


今回は容姿もサボらせていただきます(殴


次の話もお楽しみください。

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