第32話 第二王子の野望

固く決心したその次の日、思わぬ人物がこの地に来ていた。


「やあ、元気にしてたかい?」

「カイン!?なんでここにいるの、言ってくれれば迎えに行ったのに」


そう、ハイザル王国第二王子であり、現Sクラスのクラスメイトでもあるカイン・フォン・ハイザルだ。


「君を驚かせたくて……来ちゃった」

「来ちゃったて………それより、学校は?……って、僕が言えたことじゃないけども……」

「ははは、そうだね。今からはちょっと暇だし、見てようかな」

「まあ、来ちゃったもんはしょうがないしなぁ………じゃあ、ダンジョン行ってみる?」


そう訊くと、キョトンとした顔をしてこちらを向いた。


「えっと……この辺にはダンジョンは無かった気がするんだけど……?」

「あぁ、それならここ数日でダンジョンを───」

──マ、マスター!それは秘密ですよ!──

「───じゃなくて!ダンジョンが急に出現したんだよね!いやぁ、僕もビックリしちゃってさぁ、出てきたからには有効活用しよう!ってなったから今はその周りの整備をやってるんだよ」

「へぇ、そんなことがあったんだ……」


あ、あっぶねぇ〜〜〜〜〜ッ!?

ダンジョンが人工的に創れるとか知られたらやばいっていうの忘れてたぁ!

ナイスアシスト大賢者!


「もちろん、陛下には許可をもらってやってる事だから安心してね」

「うーん、分かった!それなら行ってみよっかな」


そう言って二人でそのダンジョンまで移動する。

ダンジョンの入口からは不吉な風が吹いてくる。


「ダンジョンに入る人はカインが初めてだよ」

「エルはまだ入ってないのかい?」

「そうだね、だからちょっとワクワクしてるんだ」


普通だったら学生になったばかりの子どもをダンジョンに入れるなんてどうかしてると思う。

でも、僕たちは普通じゃない。


「それじゃ、行こっか」

「あぁ」


そうして、二人はダンジョンに足を踏み入れる。

そのまま進んで行くとしばらくして魔物が現れた。


「あれ、は………コボルト?かな」

「そうだね、でも通常のコボルトとは少し違うみたいだね」


とか言ってみるけどそういう風にしたのは僕だしね。

───だが、


「カインの相手になるほどでもないね」

「そうだといいんだけど………」


グルルルッ


「やる気みたいだよ?」

「はぁ、分かったよ。僕にやって欲しいみたいだからね」


そう言うと、腰に刺した剣を引き抜く。

ルックスがルックスなのでとても絵になるぐらい綺麗だと思ったのは内心で留めておこう。


「憑依させるほどでも、ないよね?」


次の瞬間にはコボルトに突っ込んでいくカインの姿があった。


グルルルッ、ガァァァァアア


それに反応したコボルトもカインに突っ込んでいく。

カインは下から剣を、コボルトは上から鋭い爪を繰り出して、衝突───


「ふっ」


───はせずに、カインが紙一重のところで右に避けると、その勢いを利用してそのまま回転斬りをお見舞いする。

見事一撃で仕留めたカインは血をはらって剣を収めた。


「さすがに強いね」

「Sクラスともあろうものがこんなところで負けていられないよ」


苦笑混じりにそう呟く。


「お、また来たっぽいね。今度は複数体か」


次は三体で現れたコボルトを見つけた僕はノータイムで眉間の間を貫く。


「お〜、……ってえ?今何したのッ!?」


何したの、と言われても。

ただ魔力を収縮して3つの弾をつくって撃ったとしか言いようがない。


「は、ははは………まったく、君といると自信をなくすよ」


またしても苦笑混じりにそう呟くカインであった。





◇ ◇ ◇





かれこれ数時間ダンジョンに潜ったあと、カインには領主邸に来てもらっていた。


「今日はごめんね、急に訪問する感じになって……」

「別にいいよ。こっちも仕事ばっかじゃリラックスできないからね。だから今日はちょうどよかった」

「そう言ってくれると助かるな」


お互い湯船に浸かって雑談を始める。


「僕ってさ、やりたいことがあるんだ」

「へぇ、カインのやりたいことかぁ」

「僕はさ、王様になりたいんだ」

「へぇ…………へ?」


つまりは、だ。

第一王子、つまり王太子候補筆頭を蹴落として、王太子になりたいという訳だ。

が、言葉にすれば簡単だろうが、これは現国王の判断だけの問題ではなく、他の貴族達からの支持や民の信用すらもかっさらわなければいけない。

とんでもない爆弾を落としてくれたものだ。


本当に、とんでもない爆弾を落としてくれたものだ!(大事な事のため二回いった)


「はぁ……僕に話すってことは、そういうことなんだね」

「うん。………エル───」


───君の力を貸してくれ。


先程も言った通り、貴族の支持も王太子に必要になものだ。

その支持する貴族の力が強いほど、もちろん影響力もあるため他の貴族も協力してくれるだろう。


そのぐらい、王位争いには勢力というものが鍵になってくる。

そしてなにより自分自身、辺境伯家の人間なのだ。

影響力はもちろん大きい。


「近いうちに王族会議が行われる。そしてそこでの議題が王位についてだ。王位争いに参加するのは多分、僕と兄さんだけだ。だから、最初っから正面衝突になる。……といっても、本格化するのは卒業してからになるんだけどね」

「もちろん協力はするよ」

「っ!ありがとう!それなら───」

「ただし………これだけは約束してくれ」

「ッ………なにをだい?」

「………ここから先は遊びじゃない。そこで人が死ぬかもしれない」

「ッ!?なにを言って───」

「そのときカインは、………次期国王としての判断を、冷酷な決断を、受け入れることができる?」


まだ10歳の子どもにこんなことを言うのは酷だろう。

それでもなお、聞いておきたかった。


"お前にはそれを背負えるだけの器があるのか"と。


カインは俯きしばらくしたあと、決意した目でこちらを向いた。


「ああ、約束しよう。───僕は第二王子だ」

「………ははっ、未来の王太子でもあるね」

「未来の王様でもあるよ?」

「はははっ、気がはやいよ」

「君がいるならなれるさ」


そう冗談とも言い切れないやり取りをしながら湯船から上がっていった。




いつか始まる王位争いが思いもよらない事態になることも知らずに……





────────────────────


読んでいただきありがとうございました!


なんだかお久しぶりな気がしますが、気のせいでしょう。

決して、忙しいという理由でサボった訳ではありません。

………本当ですよ?


紹介する三人は、今回話題の渦中でもあったカイン様が入っておられます!


カイン・フォン・ハイザル……金髪碧眼が特徴的なこれぞ理想の王子さま!って言った感じのイケメンです。幼さがまだ抜け切れてないけど成長すればもっと………?


ランドール・フォン・ルドール……茶髪で赤目なのが特徴。ワックスで固めたツーブロックみたいな髪型と少し焼けた肌の運動部系イケメン。


ローズ・フォン・レウス……サシャとはまた違った濃い色をした赤髪と同じく燃えるような瞳、そして南方の人間とだけあって褐色の肌も特徴。リヴェルとは北と南ということもあり、犬猿の仲である。


といった感じです!


次の話もお楽しみください。




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