第30話 影の使い手vs脳筋

「なあクリステラ」


「なに?」


「クリステラって戦えんのか?」


ムッかぁ、っていう擬音が聞こえてきそうな顔プラス闇のオーラが溢れ出す。


「………そうですか、か弱い女の子は戦ったらダメなんですね、分かりました」


「い、いやいやいやいや!誰もそんなん言ってねぇって!だからその禍々しいオーラをなおせって!それに誰もお前をか弱いとか言ってねぇだろ!」


「それはそれでムカつくんだけど!?」


「じゃ、じゃあなんて言えばいんだよ!お、男にも劣らず強そう、とかか!?」


「………よし分かった。もう喋んな」


瞬間、さっきとは比べ物にならない闇のオーラが溢れ出した。


それを見ていたSクラスのみんなも頭に手をあてていた。


「え、えっと……始めていいのかな」


「どうぞ」「や、やるからには負けねぇよ!」


「そ、それでは!ランドールくんvsクリステラちゃんで、第三試合スタートッ!」


先生が試合開始の合図をだすとともにランドールが距離を詰める。


「俺は女だからって遠慮はしないぜ!」


そう言って右拳を突き出す。





これは、エルとランドールが一緒に冒険者として活動していた時まで遡る。


「なあドール」


「どーしたよ、ウラッ!」


返事を返すと共に魔物をぶん殴る。

それだけで腹の部分がくっきりえぐられたように貫通していた。


「それみたいにさ、ただ殴るだけじゃならないよね?」


「そうか?気づいたら出来てたかんなぁ」


「…………」


「? なんだよ」


「天才っているんだなぁ、と」


「皮肉かゴラァ!」


「ちょ!待ってって!」


グォォォォオオオオ


「うっせえんだよ!こちとら取り込み中なんじゃいボケェッ!!!」


そして、振り向きざまに全力の一撃を放つ。


そしてそこには、ドラゴンだった・・・ものが倒れ込んでいた。

腹にポッカリ穴が空いた状態で……。


「「…………」」


二人はただ呆然としていた。





そんな、とてつもない防御力を誇るドラゴンさえ貫通させた攻撃がクリステラに迫る。


しかし────


ドゴォォォォォオオン


「あら?意外と軽いじゃん───あんたの拳」


───その拳は、クリステラの黒い手・・・によって防がれていた。


「なんじゃそれ………、でも、楽しめそうやなぁ!!!」


すぐさまランドールは体勢を変えてスピードでゴリ押す。

死角からの超スピードの蹴り………、しかしこれもまた、謎の黒い物体───否、クリステラの影・・・・・・・が防いでいた。


「これも防ぐのかよ………」


すぐさま距離をとるが、それは悪手であった。


「案外ビビりなんだね!───影の手」


すると、クリステラの足元にある影から無数の手が出てくる。


「さぁて、イケメンくんをいたぶるのは趣味じゃないんだけどね………、今回は本気で行かせていただくわ」


その瞬間、凄まじいスピードでランドール目掛けて影の手が向かっていく。

ランドールも、冷静に対処していく。

この状況で冷静でいられるのは、やはり場数の違いと言うやつだろう。


「───ったく、女相手に使うはめになるとはなぁ………」


次の瞬間には、影の手が吹き飛ばされていた。


「は?ちょ、何が起こったのよ!?」


「何って言われてもな………、ただの身体強化をしただけだぜ?」


ルドール家は、格闘術に関して王国随一の強さを誇っている。

その裏にあるのは、常軌を逸した身体強化術。

そして、ルドール家に代々伝わっている近距離戦では無敵を誇る究極の格闘術。

この二つである。


そして、そんなルドール家でも指折りの才能とセンスを持ち合わせたのがこのランドールであった。


そして、そんなランドールは───素でも強い。

身体強化を使うときたら言わずもがなだろう。


「西の守護者であるルドール辺境伯家の身体強化術か………、なかなかに興味深いものだな」


「あれを使えばあの悪魔でさえ手を焼くかもな………、それにあの身体強化には、まだ先がある」


そういうリヴェルに驚いた視線を送るのはローズたった。


「随分と詳しいようだな……」


「当前だ。貴族として、このぐらいの情報は頭に入れている」


そんなローズはただただ視線を逸らすことしか出来なかった。


「さあ、そろそろ終わりにしようぜ?」


「……へへ、上等!」


そこからはまさに超乱戦だった。とてつもないスピードとパワーをもって影の手を吹き飛ばしながらも距離を確実に詰めていくランドールに、吹き飛ばされた瞬間新たな影の手を使い攻撃を仕掛けるクリステラ。


しかし、実力差は覆らなかった。


「俺にここまでさせた女は今までいなかったぜ、最高の時間だったよ」


手を伸ばせば届くほどに距離を詰めることに成功したランドールは勝ちを疑っていなかった。


「あぁ、ほんとにね……」


そして、ランドールが手を伸ばす。


「───こんなに上手く進んでくれるとはね」


瞬間、ランドールの動きが止まった。


「なっ!?何しやがった!」


「影縛り………、対象の相手の動きを止めることが出来るのよ」


そして、クリステラは手を握ったあとにランドールの頭にポンっと当てた。


「これで私の勝ちよ!」


そう言って笑うクリステラはしてやったり、という顔をしているようにも見えた。


そのときのランドールの顔を見たものは確実にこう言うだろう。


あ、あいつ惚れたな………と。

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