第25話 10歳の領地経営

Sクラスの顔合わせや自己紹介などが終わったあと、この学園の制度について説明された。

簡単にまとめたらこんな感じだ。


1、Sクラスでは特別待遇が用意されており、訓練場や研究室などの学園にある施設の全ての使用許可が出る。


2、Sクラスの特権として学食の料理は全て無料で食べることが出来る。


3、定期テストを受け、単位をしっかりとることが出来るのならば授業の参加は自由となっている。


4、下克上システムというものが存在し、A~Dクラスの生徒から挑戦を受けた場合は必ず受けなければならない。なお、勝負内容については、Sクラスが指定しなければならない。


と、こんなところだ。

Sクラスの贔屓がすごいなと思っていたけど、これぐらいの待遇をする価値があると判断されていると考えたら、だらしないところは見せられないと気が引き締まった。


と思っていた翌日に学校に行かない僕は不良なのだろうか。

しかし、これにはちゃんとした理由がある!

それは、ここを卒業すると共に正式に僕の領地となる場所を見ておきたいのだ。

なぜ今なのか、と聞かれると特に理由はない。

あの領地では、今はマルベルさんから派遣された文官が領地経営をしてくれてるんだとか。


「おお、意外と状況変わってなくない?」


着いてみて、感じたことがそれだ。


──それはそうでしょうね──


「なんでこんなことになってるの?」


──理由としては、税を下げたものの、あまり物流の流れが改善されてないからですね。ここの前の領主があれでしたからね。他の領地から来た商人さんも未だにここを避けて通ってます。そして、周りの領地との関係も最悪。派遣された方は貧乏くじを引かれたような気分になってるでしょうね──


「(なるほど。じゃあ、まずは王城に寄るか)」


外に出て、王城まで転移する。

そして、宰相であるマルベルさんを訪ねる。


「──ということで、僕が手を出していいですかね」


「なるほど。エルくんが改善出来るというのならば私は承認しますが、出来ますか?」


「いくらか考えはあります」


「いいでしょう。好きにしてみて下さい。私もエルくんがどうするのか見てみたいですし」


「ありがとうございます。では、一時的にでいいので正式な独立貴族の証をくれますか?」


「準備しましょう。それでは、頑張って下さい」


結構、あっさりいったなと思いながら領地に戻ってくる。

領主邸までいき、門番に先程もらった証を見せて入れてもらった。

応接室まで案内してもらう。


「お待たせしました。今回、この元ヘンドリック領を任されました、ルーウェンと申します。この度の失態、申し訳ございません」


そう落ち込み気味に言う彼は、名前からして平民のようだ。


「私はマルベル様に拾って頂いてこれまで育ててもらいました。僕も恩を返そうと思い、必死に勉強していたのですがこれほどの環境は初めてなもので…、どうすれば分からず現状維持しか出来ませんでした」


「なるほど。確かにこの状況はかなり追い込まれてますからね」


「一つ、質問してもよいでしょうか」


「なんですか?」


「学生と聞いていたのですが学園の方は…」


「Sクラスの特権で授業の参加は自由ですからね。いい機会と思い、見に来ました」


「Sクラス、ですか…。すごいですね。私もあの学園の卒業生ですが、私たちの代にSクラスに、選ばれる人はいませんでした」


「そうなんですか!なら先輩ですね」


「はは、そうですね」


「それより本題に入ってもよろしいですか?」


「分かりました」


「領地経営のことなんですけど、いったん僕に預けてもらいませんか?」


「…………へ?」


なんとも間の抜けた声だった。

それもそうだ。

だって最近10歳になった子どもがいい歳した大人に向かって"自分の方が上手くやれるから変われ"と言っているようなものだ。


「ッ…、さ、さすがに学生になったばかりの子どもには領地経営は任せられないです。これは人の命がかかることもある大事な仕事なんですから。お遊びでやられても困ります」


「それについてはこの手紙を読んでもらえればと…」


そう言って僕はマルベルさんからもらった手紙をルーウェンさんに渡す。

それを受け取り、目を通したルーウェンさんは驚愕の目になっていた。


「……なるほど。マルベルさんから言われたのなら、引き下がるしかありませんね。アリエル様には、何か策があるのですね?」


「はい」


「……分かりました。では私はアリエル様のサポートに専念します。出来ることがあれば何でも仰ってください」


「ありがとうございます!」


その後、部屋に案内されてここでゆっくりしていいと言われたので遠慮なくゆっくりさせてもらう。


「さて、考えるか」


策があると言っていたものの、実を言うとあれは嘘だ。

あの二人を納得させるには既に解決策を持っていると思わせておかなければならなかった。


「この目で直接見てみないと何をすればいいのかが分からないから、街を回ってみるか」


街に出て、状況や解決の糸口を探す。

ある程度、見て回ってみたが解決の糸口になるようなものは特になかった。

と、思っていたが


──マスター、気づきましたか?──


「ん?なんのこと?」


──先程から武器屋を数件見たと思いますが、あの武器どれもまともな材料で作られてませんよ?──


「そうなの?ざっと見ただけだけど普通の剣と変わらないように見えたけど……」


──そう、そこです。先程も言いましたが、あの剣は異常なんです。普通、剣を作るにはちゃんとした材料で作らなければまともな剣にならないはずですが、あれはそこらへんにある鉄くずをかき集めて作った、材料最悪・・・・の剣、いえ、棒切れといっても過言ではないでしょう。にも関わらず、あれほどの水準で完成されているのはどう考えてもおかしいです。間違いなく名匠でしょう──


「………気づかなかった。はは、ここに来て拾い物を見つけた!これは一気に面白いことになるぞ!」


──マスターはこれからどうするおつもりで?──


「方針が決まった」


そう呟いたエルは、すぐにルーウェンさんを呼び出した。


「アリエル様、お呼びでしょうか」


「ルーウェンさん、領地のことで少しいいですか?」


「はい」


「先程、街を見てきて方針が固まりました」


「……それは?」


その返答に、エルは口角を上げる。


「僕達は今からこの街を───冒険者の街・・・・・に変えます」






────────────────────


読んでいただきありがとうございます!


試験があって少し更新遅れました。もしかしたら、このペースを維持する形になるかもしれません。


次の話もお楽しみください。

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