伝票は誰の手に!?

鈴本 龍之介

伝票は誰の手に!?


『さあ!今週も始まりましたこのお時間!実況は私、中村と解説は本田さんでお送りします。よろしくお願いします』

『はい、よろしくお願いします』

『今回は”居酒屋 魚太郎”が会場という事ですが、これはどちらのホームスタジアムとなりそうですか?』

『そうですねぇ……高橋選手がかなりこのお店を利用しているようなので、これは高橋選手のホームでしょうねぇ』

『なるほど、ではアウェイの鈴木選手の動きにも注目ですね』

『はい』

『さあそろそろ選手の入場です!』


「いらっしゃいませえええええ!!!」

「「いらっしゃいませえええええ!!!」」

「あの、2人なんですけど」

「お好きな席どうぞおおおおお!!!」

「じゃあ、ここにしよっか」

「何か元気の良い店だね」

「いつもこんな感じだよ」


『さて、早速選手が入場しましたが……両選手のコンディションなどはどうですかね?』

『んー……ホーム側の高橋選手はとても落ち着いていますが相手の鈴木選手はあまりこのお店が好みではなさそうですねぇ』

『そうですか……お、早速動きがあるようです!』

『注文ですね』


「ビールで良い?」

「んー、いいや」

「お待たせしましたああああ!」

「生中2つと、唐揚げ」

「あ、あとシーザーサラダで」

「かしこまりましたああああ!」


『さて、注文が終わったようですが本田さん。この采配はどう見てますか?』

『そうですねぇ……まあ無難でしょうね』

『そうですか、引き続き見ていきましょう』


「お待たせしましたああああ!」

「じゃあビールも来たし」

「「かんぱーい!」」

「伝票ここ置いておきまああああす!」


『さあ!試合開始です!』

『始まりましたね』


「くぅ〜!この一杯が美味いんだよなぁ!」

「うぅ〜……やっぱりこれだわ〜」

「そういえばそっちから誘ってくるなんて珍しいじゃん」

「いやね、聞いてよ!また仕事ミスしちゃってさー」

「何しちゃったの?」

「なんかさー、課長が書類の不備で部長に怒られたとか言ってー3連続で怒られたわけよ」

「うん」

「でもね、ちゃんとチェックしない課長も悪くない!?」

「あー、まあね」

「お待たせしましたああああ!唐揚げとシーザーサラダでええええす!伝票置いときまああああす!」


『おーっと!ここで試合が動きました!』

『いやー華麗な動きですね』

『高橋選手、店員が食事を並べる隙に自分の方に伝票を動かしましたね!』

『これはなかなかなテクニックですねぇ』

『少し不利な状況になった鈴木選手の動きが見どころです!』

『はい、注目しましょう』


「はぁー、全くあの上司早くいなくならないかな」

「どこにでもそういうのいるからねー」

「まあ……話聞いてもらって少しすっきりした、ありがと」


『中々動きがありませんね……』

『伝票は敵陣の奥にありますからねぇ』

『ではここで少し選手の紹介をしたいと思います。まずはホームの高橋選手ですが、鈴木選手とは付き合って1年程だそうです』

『そろそろ倦怠期がきても良さそうですが、見る限りは仲が良さそうですねぇ』

『因みにですが、最初に告白したのは鈴木選手だそうです』

『そうですか』


「そういえばうちら付き合ってそろそろ1年だよね」

「そういえばそうだな」

「どっか旅行とか行きたいなー」

「おー!いいねー!」

「お待たせしましたあああ!注文どうぞおおお!!」

「えーと、唐揚げ1つとー……なんかある?」

「串焼きの盛り合わせで」

「かしこまりましたああああ!」

「で、何の話だっけ?」

「旅行だよ旅行」

「あー、そうだった」


『さあそろそろ前半も半分と言ったところでしょうか。ここまで解説の本田さん、どう見ていますか?』

『そうですねぇ、高橋選手の攻撃が効いていますね……良いと思いますよ』

『ありがとうございます』


「私北海道がいいなー」

「北海道かー、沖縄でもいいんじゃない?」

「沖縄かー、まあね寒いしね」

「お待たせしましたああああ!!」

「でも北海道にしよっか」

「いいのー!?」

「伝票置いときまあああす!」


『おーっと!!再び伝票が最初の位置に戻ったー!!』

『これは鈴木選手チャンスですよ』

『さあー鈴木選手どうでるー!?』


「札幌行ってー旭川行ってー函館行くんだー!」

「おー、いいねー!1泊2日で十分楽しめそーじゃん!」


『両選手動きませんね?』

『まもなく前半も終了ですからね、無駄な体力は使わない作戦でしょう』


「ちょっと俺トイレ行くわ」

「いってらー」


『なんと!ここで前半終了間際にトイレタイムだー!』

『これを鈴木選手は待ってたんですね』

『高橋選手がトイレに行ったのを確認した隙に、鈴木選手伝票ゲットだー!』

『よく耐えましたねぇ、これは後半にも期待です』


「ふぅ〜すっきりした〜」

「おかえり〜」


『という事で、高橋選手が帰ってきた所で前半終了ですが……本田さん、前半は鈴木選手が有利という展開で終わりましたが?』

『後半に入ったらまた流れが変わるでしょうからねぇ、まだまだ分かりませんよ』

『ありがとうございます。さあ!まもなく後半の開始です!』


「最近なんかハマってるのないの?」

「ハマってるのかぁ……ドラマ見てるよ」

「ドラマ?」

「そうそう、”イヤホンが絡まる程の愛”ってドラマ知らない?」

「ん、なんか聞いた事あるよーな」

「めーっちゃ面白いのよこれが」

「へー、そんな面白いんだ」

「でね、それだけじゃないの!主演の”竹之内 隆史”がめちゃくちゃカッコいいんだよー!」


『本田さん、このドラマについてどう思いますか?』

『大変面白いと思いますよ、あえてこの時代にイヤホンかと度肝を抜かれました。オススメです』

『なるほど、私も見てみます……おっと、どうやら会場で何か起きてるようです』


「なんか騒がしくない?」

「確かにちょっと見てきてよ」

「え、俺が見てくるの?」

「だってそっちの方が近いじゃん」

「わかったよ、見てくるよ」


『これはいけませんね、本田さん』

『えぇ、高橋選手を遠くに離すという作戦、これは気持ちを削がれますよ』


「めちゃくちゃ人が群がってたわ」

「誰か来てんの?」

「そうじゃない?色紙とか持ってたから芸能人とか?」

「へー、私もちょっと見てこよー」


『これは大チャンスですね!』

『はい、相手も油断しましたね。これは取られても仕方がない』


「ちょっと!竹之内じゃん!」

「竹之内?」

「さっき言ったドラマの!」

「ドラマ……ああ、え!?その人!?」

「そうだよ!マジやばい!」

「こんなとこ来るんだね」

「生竹之内ちょーカッコ良かったー!」


『なんという事でしょうか!高橋選手この大チャンスを物にできませんでしたー』

『これはね、相手を褒めるべきですよ。鉄壁のディフェンスは神業ですねぇ』

『残り時間を見るにそろそろ時間がありませんね』

『おそらくもう注文もしないでしょうからね、ミスをしない事が大事です』


「そういえば、今日は幾らぐらいいったかな」


『来ましたー!値段を気にするフリをして伝票を取る荒技!!』

『もう時間がありませんからね、多少の強引さは必要です』

『そして、難なく自陣へと置いたー!』

『ナイスプレーです』


「いくらだった?」

「5千円ぐらいかな」

「まあまあだね」


『もうこれで勝負は決まりでしょうか?』

『最後まで分かりませんが、ほぼ決まりと見ても良さそうですねぇ』


「そろそろ出る?」

「そうだねー、今日は私が出すよ」


『終了時間間際の強行策だー!』

『これはねぇ、ファウルに近いんですよ。自然と相手陣地から伝票を取れてそのまま会計に持ち込めますからねぇ』

『これは勝負決まりましたね、本田さん』

『ほぼ、鈴木選手の勝ちでしょうね』


「いや、悪いよ」

「いつも出してもらってるから今日ぐらいは出すよ」

「そ、そう?」

「ちょっと私、最後にお手洗い行ってくる」


『鈴木選手のカバンの上に伝票が置かれてしまったー!』

『高橋選手もね、良い戦いをしましたよ』

『そうですね、非常に見所が多い試合……ん?ちょっと待ってください!高橋選手が何やらキョロキョロしています!』

『まさか……』

『これは高橋選手!カバンの上の伝票を取ってレジへと直行しているー!!』

『もしかしたらこれを狙っていたのかもしれませんねぇ』

『おっと!しかし、トイレから帰ってきた鈴木選手!伝票に気が付き高橋選手を追う!』

『これは10年に一度の試合ですよ』

『高橋選手はレジに着いたが、鈴木選手も追いついた!これはもう先にお金を出した方の勝ちだー!』

『財布がカバンに入っている鈴木選手は少し不利ですねぇ』

『さあ!どうなるー!?』


「そちらの代金はもうお支払い済みです」

「「えっ!?」」


『どういう事でしょうか、本田さん』

『いやー、私にも分かりませんねぇ』

『もう少し様子を見てみましょう』


「でも、まだ俺達お金払ってませんよ?」

「そうそう!他のテーブルと勘違いしてるんじゃ?」

「いえ、あちらの方が全てお支払いしております」

「「あちらの方??」」


『『あちらの方??』』


「「あー!!!竹之内!?」」


『『えー!!!竹之内!?』』


『これは珍しい試合が見れました!』

『10年に一度と言いましたが、100年に一度ですねぇ……いやぁ、珍しい』

『なんと代金は”イヤホンが絡まる程の愛”主演の竹之内隆史さんが、お店のお客さん全員分払っていました!』

『いやー、さすがスターと言ったところでしょう。良い試合が見れました』

『という訳で今回の試合は、両選手引き分けという珍しい結果で終わりました。実況は中村、そして解説は本田さんでお送りしました。ありがとうございました』

『はい、ありがとうございました』


「ありがとうございましたー!」

「いやーびっくりしたね」

「うん……びっくりした」

「こんな事ってあるんだね」

「ね……あるんだね」

「なんかびっくりして酔いが覚めたわ」

「私も!」

「もう一軒行っちゃうー?」

「行っちゃおー!」


『おーっと!まもなく第2試合が始まりそうです!実況は私、中村と解説は本田さんでお送りします。よろしくお願いします』

『よろしくお願いします』



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