第5話 11月22日

 今日もいつものように遅くに起きた。

 何だか、昨日辺りからこの生活にも慣れてきた。寝転がっている床の硬さも、姉の部屋特有の匂いも、背中にかけている炬燵こたつ布団の感触も、ちょっと変わったハンドソープの使い心地も。それらが、まるで自分が前から使ってきたものの様に馴染なじんでいる。

 それでも、いつかはこの部屋を出て、元の生活に戻る。勉強をして、体を動かしていくのだろう。

 その生活に再び適応出来るように、部屋でも出来る事を少しずつでもいいのでやっていく必要がある。勉強もそうだ。


 そこで、自分は筋トレを始める事にした。

 数十分だけ行ったが、殆どが腹筋を鍛えるものだった。理由は簡単。腹筋にはそこそこ自信があったのもそうではあるが、何と言っても両手を地面に着いたりしないので、携帯を見ながら出来る事が1番だ。

 ニコニコ動画を見ながら、短いインターバルを何度も取りつつ筋トレを行う。結果、長めの動画が終わるまではやったものの、果たして意義があったかはよく分からない。

 後日の結果論だが、筋肉痛にはならなかった。


 そうこうしつつ、午後になった。

 また今週もG1のレースがある。いつも通りに傾向を調べて予想をする。実際に金を賭けてはいないものの、こうやって来る馬を予想するのは案外楽しかったりする。とは言え、基本的には応援している馬が本命だが。

 暫くして予想が決まったので、レースの前までは勉強をした。一応は競馬という楽しみが待ち構えているので、それがやる気の源になったりする事もある。

 だが…………

「チッ、クソ」

 冷めた目で、自分はテレビのリモコンで画面を消した。結果は外れで、応援していた馬は全然勝ち負けにならず、非常に残念だ。

 結局、その後の時間は競馬で勉強のモチベーションが上げる事が出来ず、昨日一昨日と変わらない生活になった。

 陽性でなければ後1週間で学校に行く生活に戻る。テスト範囲に関しては差を付けるチャンスなのだが、まだ範囲全てを1巡したのみだ。これでは、危機感を持って勉強している皆に勝てない。

 更には、毎日ある数学などは先にどんどん進んでしまっているだろう。そこでも遅れをとらない為に、自分で学習しておくべきだ。

 自分が何をやるのがベターなのか、それが分かっている以上は、後は自分の行動力次第だ。


 そう言えば、自宅待機最後の日となるであろう(というかそうでなければ困る)、29日にはジャパンカップが開催される。史上初となる、3冠馬3頭による夢の共演だ。

 コントレイル、デアリングタクト、アーモンドアイ。

 競馬に興味がない人でも名前程度は聞いた事はあるだろう。どれも日本競馬界に残る名馬だ。

 そんな夢の対決を叶えてくれた、陣営には感謝しかない。何せ、『ファンの盛り上がりを考えて』参戦を表明してくれた陣営もある。

 競馬ファンの人にとっては、是非とも観に行きたいレースだろう。ただ、現在は感染防止の為に抽選で当たらないと行けないのである。

 コロナウイルスの影響の中で、休まず走り続けて来た競馬開催。今年は、小さな牧場から生まれた名馬デアリングタクト、『英雄』ディープインパクトののこした最後の傑作コントレイルの2頭の無敗の3冠馬が誕生し、沢山のファンに希望を与えてくれた。

 辛い時、スポーツに元気付けられる。そんな時は皆にもないだろうか。その大きな役割を、春にスポーツが軒並み自粛するなかで、スポーツ最後の砦として競馬が果たしてくれた。

 そして11月になって、この対戦の実現が、スポーツの力を再認識させてくれる機会となった。

 競馬にたずさわる皆さん、ありがとう。


 なお、この日がクラスメイトの誕生日だった事を次の日に気付いたのだった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る