Mission10: セファイアの準備

 一瞬遅れて答えたのは、アーロンであった。


「はい。セファイアに用いる物資です。飲食物はもちろん、電飾などの機材もまとめて輸送していました。しかしポートダックが離陸して数分後、俺たちやポートダックが元々所属していたクレイトン基地が陥落しました」


 ポートダックとルーク、そしてアーロンは間一髪で難を逃れたのである。

 しかし事態はそれにとどまらなかった。


「クレイトン基地が落ちてからも、帝国軍は追撃を仕掛けてきました。恐らくは物資目当てでしょうが、ともかく俺たちは襲撃を受けた。仲間を次々と失い…………ゲルゼリアが来てくれなければ、俺たちも今ここにはいなかった」


 ゲルゼリアが通りがかったのは、紛れもなく偶然であった。

 だが結果として、ポートダックとルーク、アーロンは助けられたのである。


「貴方がたは、我々の命の恩人です。おまけに、これほどまでに手厚く世話をしてくれる。感謝してもしきれませんよ」


 アーロンは心から嬉しそうに、ゼルゲイドとアドレーネに伝えた。

 と、ルークが思い出したように呟く。


「そう言えば、セファイアで使う飲食物や機器の設置作業……どうするかな」

「おい、お前は寝てろ!」


 すぐさまアーロンにたしなめられるものの、彼もまた理解していた。

 会場設営の一部、特にAdvancerアドヴァンサーが必要な作業に関しては、パレント隊の任務に含まれていたのだ。


 アドレーネは抱擁を解き、アーロンに言う。


「そうですわね。では、我々ゲルゼリアの作業部隊を充てるのはいかがでしょう?」


 そう言うと、アーロンとルークは目を見開いた。数秒ほど間が開いてから、慌てて拒否する。


「いえ、お気持ちは嬉しいのですが……。何から何までお世話になるのは、ちょっと……」

「水臭いではありませんか」

「!」


 そこにやって来たのは、Mであった。


「M。どうしてここに?」

「我が艦を代表し、見舞いに参りました。もっとも、既にアドレーネ様がいらしておりましたが」

「私はゼルゲイド様についていっただけですわ。公式な見舞いをしたつもりはありませんの」

「存じております。さて、手伝いの話でしたな」


 Mは表情をやや緩める。


「艦長である私としては、私自身がAdvancerアドヴァンサーに搭乗して手伝いたいくらいですな」

「しかし……」

「何なら俺が手伝いましょうか?」


 申し出に押されつつあったアーロンに、ゼルゲイドがダメを押す。


「これでも元サロメルデ王国民です。サロメルデに住む人は、セファイアが大好きなんですよ。俺もその一人です」


 ゼルゲイド、そしてアドレーネの熱意のこもった瞳を見て、アーロンはついに折れた。


「分かった……! その代わり、忙しくなるぞ!」

「はい!」


 セファイア準備に燃えるゼルゲイド。

 その様子を見たMは、ルークに挨拶してからそっと病室を去った。


 ……8分後、「手の空いている者は全員セファイアに協力せよ」という艦内放送が響いた。


     ***


 さらに4時間後。

 ゲルゼリア、そしてポートダックは、どちらも無事にメイディアに到達した。


 同時にシュヴァルリト・グラン、プロメテウス隊のAdvancerアドヴァンサー4機、そしてアルガム・アレスや整備部隊のリクシアスなど多数の機体が発艦し、物資の搬入および設営作業に取り掛かる。

 さらにゲルゼリアが着陸し、地上作業を担当する整備部隊を待機させた。Advancerアドヴァンサーに踏みつぶされないよう、Advancerアドヴァンサー撤収後に仕上げの作業をするのである。




 ゲルゼリアに搭乗していた圧倒的な人員、そしてAdvancerアドヴァンサー部隊と地上部隊との連携により、年明けを迎える30分前に全ての作業は完了した。

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