Mission09: 「黒騎士」

 戦いから、4時間ほど経過した。

 パレント7セブンことルーク・ウィンゲート中尉は素早い処置が功を奏し、意識を回復。傷自体も浅かったため、治療も順調であった。これほどまでに事態が好天したのは、ゲルゼリアの持つ高い医療技術も当然の要因だ。


 しかし決め手となったのは、ゼルゲイドが放った『セファイアはあんたらサロメルデ王国民の楽しみなんだろ』という一言だった。ポートダック護衛の任務に志願したのはセファイアの準備やセファイアを楽しむためであったからこそ、ゼルゲイドの激励は最高の気力回復剤と化したのである。


 ゼルゲイドは彼の回復を聞くと、一目散に病室へ走り出した。

 既に面会可能だったため、躊躇せず入室する。


「助かって良かったです……。すみません、あの時は俺の不注意で」

「あの状況なら仕方ないさ。被弾したのは、君の責任じゃないよ」

「ありがとうございます。とにかく、回復されたようで何よりです」


 ゼルゲイド、そして彼についてきたアドレーネが安堵しているところに、パレント隊の隊長がやって来る。


「ルーク、無事だったか……!」

「はい、隊長。そこにいるゼルゲイド君のおかげで、助かりました。彼がいなければ、墜落してあの世に行ってましたから」


 大事でも冗談でもなく、戦闘中にルーク中尉は意識を失いかけていたのである。ゼルゲイドの助けが無ければ、機体はコントロールを失って地面に真っ逆さまだっただろう。


 それを聞いた隊長は、ゼルゲイドに向き直る。


「そうか……君があの“黒騎士”、ゼルゲイド・アルシアス君か。補給中の会話で存在は知っていたが、まさか俺たちより若いとはな」


 隊長はコホンと咳払いをすると、話を続ける。


「自己紹介が遅れたな。俺はポートダックの護衛部隊であるパレント隊隊長、アーロン・ハイアット大尉だ。部下の命を救ってくれたこと、感謝する」


 そして深々と頭を下げる、パレント1ワンことアーロン。


「頭を上げてください。俺が気づいてフォローしていれば、ルークさんを被弾させることは無かった」


 ゼルゲイドは感謝の念を受け止めつつ、やんわりアーロンを止めた。不可抗力であり、かつ戦場ではありうる出来事だったとはいえ、自らの甘さが招いた危機であるという責任はゼルゲイドの心にのしかかっていたのだ。

 そんなゼルゲイドをフォローしたのは、アドレーネである。


「だとすれば、私にも責任はありましょう。ゼルゲイド様」

「アドレーネ様?」

「後部とはいえ、同じ機体に搭乗していたのですから。ゼルゲイド様が気付かなかったのを落ち度とされるのであれば、それは私にも当てはまりますわ」

「それは……。しかし」


 ゼルゲイドが言いかけたのを、アドレーネはゼルゲイドの口に人差し指を当てて静止する。


「ゼルゲイド様。ルーク様の仰る通り、戦場では何が起こるか分からないのですわ。そんな中でゼルゲイド様は、任務の他にもルーク様の命をお守りするために、一生懸命戦われた。そのような立派な方を賞賛こそすれ、咎める方はどこにいらっしゃるのでしょうか」


 ここまではっきり言われてしまっては、ゼルゲイドはもう言い返せなかった。


「そうですね、アドレーネ様……。ルークさんが無事で何よりです」

「うふふ。私もそう思いますわ」


 アドレーネはゼルゲイドを、軽く抱擁する。


「ところで」


 と、その状態のまま、何かを思い出した。




「そもそもポートダックは、何を運んでいたのでしょうか?」

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