Mission07: 守り抜くという“希望”
近距離で大剣を大上段から叩き込み、灰色のリクシアスを真っ二つに分断する。この様子ではリクシアスのパイロットは即死だろうが、今のゼルゲイドにはそれよりも、味方が被害に遭ったことへの怒りが強かった。
「はぁ、はぁ……。そうだ、あのアルガムは!?」
被弾したアルガムだが、撃墜には至っていない。高度も安定していた。
しかし被弾箇所は機体の胸部――すなわち、コクピットの位置する場所であった。
ゼルゲイドは慌てて、シュヴァルリト・グランを近づける。
「大丈夫ですか……!?」
『ゲホッ、食らっちまった……。まずい、な』
「先に着艦してください、俺が援護します!」
その無線を聞いていたMが、通達を入れる。
「プロメテウス隊全機とアルガム・アレス、聞け! シュヴァルリト・グランとアルガムのフォローをするんだ! 本艦もVLSで援護する!」
シュヴァルリト・グランとアルガムがゲルゼリア艦内へ向かおうとするのを見届けたゲルゼリアは、VLSを複数発まとめて放つ。一番上の格納庫へ至るハッチも開放し、着艦を促した。
だが肝心のアルガムのパイロットが、ショックで意識を失いつつあった。その結果として高度を落としだすのを、シュヴァルリト・グランはすぐに受け止め、自らの大出力でもって強引に運ぶ。
『ッ……』
「しっかりしてください! 着艦すれば、すぐに手当てを受けられますから!」
『く、そ……』
この状態にゼルゲイドはどうすべきか、思考する。
と、アドレーネが切羽詰まった表情でゼルゲイドに告げた。
「ゼルゲイド様、ゲルゼリアに無線を繋いでくださいませ!」
「ッ、はい!」
慌ててゲルゼリアに無線を繋ぐ。
アドレーネは食い気味に、叫ぶように頼んだ。
「M! 下部のハッチの開放、並びに医療部隊の手配を! シュヴァルリト・グランで抱きかかえて着艦させます!」
「かしこまりました、アドレーネ様!」
いつもは見せない切羽詰まった様子を無線越しに確かめたMは、すぐさま下部のハッチを開放する。
上部と下部のハッチでは全高が違っており、シュヴァルリト・グランの全高で入れるのは3つあるハッチのうち、下部だけであった。
閉まりつつある上部ハッチと入れ違うように、静かに速く開く下部ハッチだが、ゼルゲイドにとってはその一瞬すら惜しかった。
意識を保つよう、激励を続ける。
「しっかりしろ! 意識を保て! もうすぐ手当てが受けられるぞ、死ぬな!」
『っ、うう……』
「セファイアはあんたらサロメルデ王国民の楽しみなんだろ!? 生きろ!」
ゼルゲイドが必死に、しかし半ば不意に告げた言葉を聞いて、アルガムの右腕がわずかに動く。
「ッ、動かせるか!?」
『何とか、な……。だが、万一のときは、支えてくれ』
「了解した、離すぞ!」
シュヴァルリト・グランが離すと同時に、アルガムはふらつきながらも、着艦態勢に移る。
「ゼルゲイド様!」
と、アドレーネが警告する。シュヴァルリト・グランの近くに、防衛ラインを突破してきた2機のリクシアスが迫っていた。
「くっ、今回避するわけには……!」
シュヴァルリト・グランの背後では、アルガムが着陸中だ。万一攻撃をアルガムに直撃させ――あるいはそうでなくても――着陸が失敗してしまった場合、被害が拡大してしまう。
敵のリクシアスたちもその様子を分かっているのか、執拗にアルガムを狙うように射撃を続けている。
「クソ、しつこいな……!」
加えて、迂闊な攻撃もまた危険性を秘めている。むやみやたらに敵に近づくのも、ビーム砲を命中させ損ねてリクシアスの位置を変えられるのも、危険だった。
ゼルゲイドはやむを得ず、シュヴァルリト・グランをアルガムや格納庫の盾となるよう微調整する。さらに両手の長剣を元に戻し、両肩の盾を掴んだ。
盾はシュヴァルリト・グランの手に収まると、結晶質の力場を展開する。
機体そのものまでも盾とする覚悟を見せながら、ゼルゲイドは叫ぶ。
「やらせるか……! 誰一人、死なせねえ……!」
その言葉と同時に、球体状のバリアがシュヴァルリト・グランを包み込む。
「アドレーネ様……!」
「はい、私の力です。ゼルゲイド様の、そして今着艦中であるパイロットの方の“生きる希望”を感じ、受け取りました。であれば、それに報いるのが私の務めです……!」
アドレーネが秘めていた、“希望”の力を顕在化する能力。
この状況において、生きる“希望”を感じ取った彼女は、持てる力を存分に発揮していた。
「これなら、守り切れる……!」
ゼルゲイドはハッチの直上にシュヴァルリト・グランを向かわせ、飛来する敵弾をバリアで防ぐ。
足元を見ると、アルガムは右に倒れ込みながらも、なんとか着陸を終えていた。
「M! ハッチを閉じて!」
「かしこまりました!」
アドレーネが叫ぶと、応えるようにゲルゼリアの下部ハッチが閉まりだした。
シュヴァルリト・グランはいまだ盾を構えているが、体勢を変えている。
やがて完全にハッチが閉まったのを、ゼルゲイドは見届けた。
「ゼルゲイド様、反撃を!」
「もちろんです!」
盾をしまわず打突武器とし、2機のリクシアスに肉薄する。
攻撃に意識を集中していたリクシアスたちは回避行動を取る間もなく、盾の先端に胴体や胸部を
「こちら、エクスカリバー。敵のリクシアス2機を撃墜した」
「こちらプロメテウス
プロメテウス隊の4機とパレント隊の隊長であるアルガム・アレスが、合流する。彼らは弾薬をかなり消耗していたものの、機体に目立ったダメージは無かった。
と、アルガム・アレスがシュヴァルリト・グランに詰め寄ってきた。
「あいつは!? パレント
「すみません、俺の不注意です……! 今は医療部隊が手当てしている最中かと!」
「くっ、了解……今はポートダックを守りきれたのを、感謝します!」
話しているうちに、ハッチが開放される。今度は3つ全てだ。
「
Mの指示で、全機が着艦する。
パレント隊の隊長が乗るアルガム・アレスは、中部ハッチに誘導された。
「後は俺たちだけか……」
シュヴァルリト・グランは下部ハッチに進入し、なんとか機体を収める。
閉じ始めるハッチをしり目に、転倒したアルガムまで向かった。
「俺の不注意で、申し訳ない。どうか、生きていてください……!」
動かないアルガムを起こし、所定の位置まで運んでから、シュヴァルリト・グランは自らを格納庫の定位置に収めて停止した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます