#06 クリスマスプレゼントが決まりそうです。
瀬古のリビングには、ちらし寿司や茶わん蒸しなどがテーブルに並んでいて、どれも美味しくそうだった。星也は、瀬古とビールを酌み交わすように、お酒を飲んで、料理の味はじっくり味わうことしないで、口に運んでいた。
どのくらい、時間が過ぎたのか分からないが、「パパ、そろそろ、帰りましょうか」と芽衣の声が聞こえて、この日はお開きになった。芽衣と海璃の知らない部分を知ってしまって、どう対応していいのか、分からず、ヘロヘロになりながら、車の助手席に座った。
帰りの車の運転を芽衣に任せて、星也は助手席で寝落ちしていた。少し目が覚めたとき、微かに2人の会話が聞こえてた。芽衣が「もう、ピアノを弾くのはやめて」と後部座席に座っている海璃に、低い声で言っているのが聞こえてきた。海璃は「もう、弾きません。ごめんなさい」と言って、車が無音になった。この状況を打破できる気がしなかったので、寝たふりをしてしまった。
家についても、会話らしいものはなかった。どこか家族がバラバラになっていることを、ここ最近、気づ始めていた。ここ2・3日で、芽衣と海璃との会話に息が詰まっていた気がした。
子どもの頃、父親は残業の多い仕事で働いていたため、朝は早く出て行き、夜は遅く返って来る人だった。だから週末以外は、会うことがほとんどんかった。ただ、お正月と夏休みには家族旅行に出かけていた。
今、家族旅行なんて、行っていない。いつからだろう。海璃が産まれてから、家族でどこに出かけようとするれば、親戚の家くらいで、それ以外はないに等しい。海璃が赤ちゃんの時とは動物園とかに出かけていた気がする。たぶん、海璃が小学校を受験することになって、出かけることがなくなった。4歳くらいだったので、4年くらいになるのかもしれない。
今日みたいに、3人で出かけることにも不慣れ感を、感じてしまった。
「昨日は、ありがとうな」
社員食堂で、瀬古といつものように、お昼を取っていた。
「そういえば、海璃くんって、ピアノを習わせないのか?」
海璃にピアノを習わすことは出来ないだろう。たぶん、芽衣は反対しそうな気がする。
「いやぁ~、習わせないと思うけど」
「そうなの、勿体ないな。せめて、電子キーボードくらいは買ってあげたら」
芽衣の顔がよぎったが、でもすぐに、海璃の顔が浮かんできた。喜んでくれるか分からないが、クリスマスプレゼントには、ちょうどいいかもしれない。
「娘さんの電子キーボードって、どこで、予約しんだよ」
豚骨ラーメンを啜っていた瀬古がむせそうになっていたが、何とかこらえたみたいで、本当に買うと聞かれて、買うよと答えた。そしたら、マンションでも使いやすそうな電子キーボードも詳しく教えてくれた。
一瞬、芽衣に相談した方がいいとは思ったが、何となく反対される気がしたので、黙って予約することにした。
仕事が終わって、マンションに着くと、入り口で、芽衣の友人である美咲が、1人で立っていた。「こんばんは」美咲が星也に話しかけてきた。
「こんばんは、どうかしましか?」
帰りを待っていたみたようだったので、どこか身構えてしまう。
「最近、芽衣の様子がおかしくて。相馬さんに聞けば、何か分かる気がして」
「特に何もないんですが…」
ふと、頭をよぎってのは、海璃のピアノのことだ。
「ああ、同僚の家にお邪魔した時に、海璃がピアノを弾いたんですが、芽衣がそれを制止しようとしてました。」
美咲は、何かしっくりきたことがあったのか、
「ああ、そういうことですか。ありがとうございます。」
美咲は、星也の返答を聞かず、マンションを去って行った。引き留めるのもおかしい感じがしたので、そのまま星也もマンションの中に、入ることにした。
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