#04 クリスマスは笑顔で過ごせるように

 お風呂から上がって、リビングで、1日の疲れを取るために、ビールを一気に飲み干す。目の前にいる芽衣が呆れたような目で、星也を見つめていた。

「ママ、海璃に頼んでくれたか?」

「うん、金曜までには書くって」

 声の抑揚もなく、どこか何か素っ気ない言い方にも感じたがしょうがない。森川さんや瀬古とのお昼の会話が影響してしまったのだろう。星也が子ども頃のクリスマスの過ごし方を持ち込んでいると芽衣に思われて、頼んでくれないじゃないかと頭の片隅で考えていた。

 だけど、今日は水曜なので、あと2日でわかるみたいだ。今年は、ボーナスカットなので、お金には余裕はないけど、海璃の要望には全力で対応しないと思っていた。

「芽衣は書いてくるの?」

「うん、やめとく…」

「なんで、なんかあったの?」

「ちょっとね、美咲に言われたのよ。海璃のクリスマスプレゼントが問題集なのはあまりにも可哀そうだって」

 話がズレているようだったが、ここは言及はしてはいけないのだ。女性は感情で生きているものだから、話がかみ合わない時もあると森川さんに言われたことがあった。 

 美咲とは、芽衣の高校の時の友人で、海璃と同じ年の娘もいるので、育児のことも相談しているとも聞いていた。

「いや、芽衣が海璃のために考えたのだから、いいじゃないの?」

芽衣は星也をじっと睨んだ。

「だったら、なんで、海璃の欲しいものを書こうって言い出したのよ」

少しヒステリックになっているようだった。ここは一応、謝っていた方がいいのかもしれない。

「ごめん、そんなつもりじゃなかった」

芽衣は俯いて、黙ってしまった。ここで、言い訳地味に、子どもの頃やってもらったからとは言ってはいけない気もしたし、海璃の欲しいものが知りたかったとも、言ってはいけない気がした。

「ごめん、俺が余計なことをしてしまったせいで、ママを悩ませたようで」

「そんなんじゃないから」

星也に聞えるかどうか分からない声で呟いて、芽衣は椅子から立ち上がって、リビングを出て行った。星也は取り残されて、ビールを飲む。


「パパ」

リビングに海璃が目をこすりながら、先ほど芽衣が座っていた向かいの椅子に眠そうな顔して座った。

「ごめん、起こしてしまった?」

「うっん。ママがトイレには入って、出てこないの...」

「海璃、トイレ行きたいのか?」

「えっ、あっ違うよ。ママがトイレに入ったから気になって、ノックしたけど『ほっといて』って言われたから…」

海璃は段々声のトーンが下がっていく。そしてすぐに大きな声になって、

「僕、頑張るから、ちゃんと良い成績取るから、ちゃんと勉強も本も読むから…」

星也は手を伸ばして海璃の頭を撫でる。

「海璃は、十分、頑張ってるよ。無理させて、ごめんな。」

 星也は、俯いてしまった海璃の元に駆け寄った。目には涙を浮かべていて、歯を食いしばって、泣かないように必死になっていた。少し重くなった海璃を抱き上げる。クリスマス当日は、笑顔で過ごさせてやりたい。







 


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