#03 クリスマスのどう過ごしますか?
「相馬、ご飯食べに行かないか?」
椅子の後ろから野太い声が聞こえてきた。相変わらずの脂肪がたっぷりついて、今すぐ、かぶりつきたくなるような身体をした、同期の
時計を見ると、12時を少し越えたところだった。
「ああ、お昼か。行くか」
「何食べようかな?」
瀬古は食べることで、頭がいっぱいで、すでに、心ここにあらず状態になっている。
社員食堂の食券機で、瀬古は、今にもよだれを出しそうな顔で、カレーライスの大盛りに唐揚げとカツをトッピングした食券を選んでいた。星也は、いつもAは魚料理で、Bは肉料理のランチメニューを選ぶのがお決まりだ。今日はAランチのボタンを押した。
「今日は、白身魚のムニエルを選んだんだ」
1つ先輩の森川鈴が、ソーシャルディスタンスを保った状態で、話しかけてきた。「相馬くん、今日は1人?」
「いや、先に瀬古が食券を買って、席を確保してくれるんですよ」
「ふ~ん、後でそっち行ってもいい?」
「いいですよ。毎回、男2人はきついので」
瀬古がいつものように、席に座って食べ始めていた。星也が席に座ると、瀬古は、大盛りカレーライスのガツガツ食べている。
「お疲れ、ここ座っていい」
「どうぞ」と瀬古は隣の席を案内したが、森川さんは、星也を1つ開けた隣に座った。ここでも、ソーシャルディスタンスのために、椅子に×と書かれていて、テーブルには”間隔をあけてお座りください”の紙が置かれていた。
森川さんは座って、「2人とも、子どもたちにクリスマスプレゼントはどうしてるの?」と聞いてきた。
「うちは、家にピアノがあるに、娘が電子キーボードがほしいって言うから、おもちゃ屋さんに予約しましたよ」
瀬古はすでに買っているようだった。
「それで、相馬くんのところは?」
「妻が、問題集をもう買ったって聞いてます」
2人は声を揃えて『問題集』と言った。やっぱり、クリスマスプレゼントに、問題集はおかしいのだろう。
森川さんが「なんで、問題集なの?」と聞かれて、詳しいことは、聞いてないが、芽衣の子どもの時も、問題集のような勉強に関連しているものを貰っていたからそうしたんだと思うと説明した。
そう言っても、2人は疑問そうな顔をしたまま、食事の手はなかなか進んでいなかった。
「森川さんのところはどうなんですか?」
「まあ、うちは旦那の実家で同居してるから、プレゼントもお義父さんが買ってくれるよね。クリスマス当日もお義母さんが作ってくれるローストビーフを食べるんだけどね…」
瀬古が、あからさまに、声のトーンが下がった森川さんに「嫌なんですか?」と聞いた。
「まあねぇ。旦那の家族にすべてクリスマスイベントを奪われている気がするんだよね。私が育った家庭とは違うクリスマスの過ごし方に、どこか抵抗感があるんだよね」
「やっぱり、嫌なんですね、俺も言われたことあります。『あなたの実家でのクリスマスの過ごし方を持ち込まないで』って言われたことがあります」
星也は、2人の会話を聞きながら、昨日、芽衣に話した子ども頃の話が頭の中を過ぎった。
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