第3話 戦イハ命ノヤリトリ


実戦と訓練は違う。

そう僕らは心でわかっていて、本当の命を懸けた戦闘を100%、訓練と同じように出来ないということを分かっている。分かっているのだが、相手が明らかに格上である。しかし引くことが出来ない。


そのことを今僕らは血濡れの狂熊と言われる魔物を前にして頭に思い浮かべていた。


「テト、私が切り込むわ。その隙に詠唱

を・・・」


「詠唱ならとっくに終わってる。この事を予測できないわけが無いだろ?」


「一々、癇に障る言い方しないの!ったくもうっ・・・行くよ!」


フェルが大剣を抜刀し大上段に構え、熊の腹を抉るかのように振り抜いた。

しかし、キンとした音と共に、弾かれてしまった。

「つ〜〜!かったいわねっ!この毛皮」


「フェル!下がれっ!」


フォンと言う空気を切り裂くかのような音とともに、命を容易く狩りとる狂爪がフェルを襲おうとしていた。


その狂爪に幼き少女はなすすべなく切り裂か・・・れることはなく瞬間的に後方に飛んで回避していた。


「あっぶないわね、あの爪。テト何かいい作戦とかないの?」


「あるにはある・・・だが可能性は限りなく低い」


「ばーか、何言ってんのよ。始めっから勝つ確率低いんだからちゃっちゃとその作戦を決行するわよ」


「あぁ、分かった。しかし、この作戦ではどちらかがかなりの痛手を負ってしまうな。あの熊の弱点はないのだろうか・・・」


「はぁ、ねぇテト。私もうガマンできないわ。アイツのこと八つ裂きにしてボロボロのクズ雑巾みたいにしたいんですけど」


「そうだな、フェル。目を狙え。僕は、べつのところを抉らせてもらう」


フェルは「OK、分かったわ」と頷いてくれた。さて、ここからが踏ん張りどころだね。


「『強化魔法Ⅰ』・・・シッ!」


レイピアが確かに熊の肉を貫く感触がある。

僕が貫いたのは金的、いわゆる急所だ。

熊は苦痛に顔が歪んでいる。実にいい表情だ


「アッハハハハハ!そうか、痛いか?痛いよな?もっと貫いてやるよ!ハァァァ!」


ズバッという音とともに熊の急所を何ヶ所もの穴を作りながら穿っていく。

『強化魔法』を使い身体強化を施した体にとってはそこまで苦ではない。しかし、熊とて防戦一方ではない。反撃の狂爪が襲い掛かってくる。頬を掠める狂爪に思わず身震いした。

(嗚呼、これが命のやり取り・・・なんて、甘美で陶酔してしまいそうなんだ)

すると、熊は、爪に魔力を纏い、魔力の斬撃を放ってきた。本来、魔法は斬ることは出来ず。魔法による迎撃が必要となる。しかし、フェルは違う。


「バーカ!私が爪さんの相手してやるよ!あはッ♡」


フェルの大剣が斬撃を弾いたと同時に、フェルは跳躍し熊の顔に飛びついた。


「アハハ♡きれーな瞳ですね?もっとステキにしてあげる♡」


フェルはそう言うと目に大剣を突き刺し、深く抉った。

ブチュッ、グチャ、ブシュッという本人曰く、素晴らしい音楽のような音ともに確実に熊の片目は破壊された。


・・・正直僕は、彼女のあのやり方は好きじゃないな。だって僕がああなったら怖いもん


彼女は恍惚とした表情を浮かべ熊の返り血を浴びている。


熊はこれは流石に効いたのか、片目を抑えよろめいている。


「「いけるっ!(嬲れるっ!)」」


そう思い畳み掛けようとしたその時、熊から発せられる殺気がより濃厚な物へと変わっていった。


「少し、熱くなったな。恐らく今からがヤツの全力だぞ、フェル」


「分かってるわ、分かってる。つまりもう1回遊べる⚫ン!ってやつでしょ?」


「それ、お義父さんが言ってたヤツででょ・・・ほら、奴さん激怒してるよ」


先程傷付けたはずの体は再生し、頭の中に何やら植物のような奇怪な生物が蠢いている。

あっ、顔出した。

植物はまるで、ムチのようにしなりながら、こちらを威嚇しているように見える。


「テト、テト。何あれ?気持ち悪いわ」


「フェル、アレは恐らく寄生植物の類だ。熊体に寄生し、その体ごと乗っ取っていたんだろうな」


隣で血濡れになったフェルがうへーと言いながら手を降っている。

まぁ、確かに気持ち悪いがな。


「それで、テト。あれの強さはどれくらいなの?」

「まぁ、喋ってる暇はなさそーだ、よっと」


先程まで僕が立っていた所が熊の拳でクレーターと化している。アレに当たってしまえば恐らくミンチになるだろう。


「フェル、気をつけろ!筋力はさっきまでのとは桁違いだ!」


「わーかってまーすよっと!」


ドゴーン!


と大剣の腹で植物のような生えた頭を叩こうとすると、植物の体を守るようにガードされた。


「テト、コイツ植物が本体みたい。でもコレじゃ容易に近づけないわ!」


・・・どうする、どうすればいい。考えろ。

恐らくヤツは本体を叩けば殺せるだろう。

しかし、問題はその方法だ。やつの守りをどうどかすことが出来るのだろうか。ん、待てよ。どかす・・・そうかっ!僕のレイピアを使えば!


「フェル、僕が突っ込む!援護を頼む!」


「分かったわ!またあの肉と血が見れるのね!」


フェルが嬉々として僕に続いてくれる。こんなに頼もしい戦友はいないかもしれない。そんな風にしみじみと思いながら。熊のある一点を目指した。


「シッ・・・!」


烈風の如く突きを脇の肉質が比較的甘いところに入れると、案の定少しだが切り裂くことが出来た。


「グワァァ!ガァァ!」


ふっとこれまでの僕の彼女との思い出が頭によぎり、視界がスローモーションになっていく。どうやら、熊の爪が僕のことを今にも切り裂くこうとしているらしい。・・・はぁ、ここまでかもな。すまない、フェル・・・






いや、まだ終わってない!


「フェル!今だ!ぶっ飛ばせぇぇぇ!」


僕の後ろから大剣を本体の守りが薄くなっていた頭を切り裂かんとする、小さな勇者へと叫び声を上げた。


「アァァァァァァ!くたばれっ!」


フェルの刃が本体に届く前に、僕は熊の爪によって裂傷を負い、ぶっ飛ばされていった。


暗くなっていく意識の中で倒れていく熊と、僕に向かって叫び続けるフェルの声が聞こえた。


「・・・テ・しっ・・い!死なせ・いか・!」


はぁ、やっぱり僕はこうやってまた意識を失うんだね。ちぇー。死にそう。でもまた目が覚めたら黒いスクランブルエッグ食べさせられるんだろうなぁ。覚めたくないけど覚めよっかな。



やはりというかゆっくりと暗転していく意識の中で僕はそう思いながらも笑顔で堕ちていった・・・


【称号】微睡む小さな勇者を入手しました



おい、これくれた神絶対ひm・・・










次回、起きたら(´>∀<`)ゝてへっ

暗黒のスクランブルエッグ

今回は、なんというかどのくらいまで自分たちが戦えるのか、どうすれば勝つことが出来るのか。勇気と判断の必要な戦いでした。

次回は新キャラ出ますよ〜



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