第42話 友達とのおしゃべり

「まあいいか、こいつらが手に入っただけで良しとしよう」

 そう言って、アリス達の頭を撫でる。


「ああ、戦いてぇなぁ」

 アリスの魔力の大きさを見て恍惚に言うが、何かを察知して、つまらなそうな顔になった。


「なんだ、お前、悪魔か」

 悪魔が魔力の宝庫ということは周知の事実だしな、と言って視線をずらそうとした瞬間に、アリスの顔が大きく歪んだ。


「誰が悪魔よ」

 ははっと大きな声が悪魔から漏れる。次第にさらに大きくなり、悪魔は爆笑していた。


「はははっ! お前、俺の魔力を凌駕してみせるか! いいぞいいぞ! 戦おうじゃないか」

 そう言ってアリスの操り糸を取ろうとしたが、悪魔は一気に意見を変えた。


「まあ、それは後でいいか。今は世界を乗っ取って、この表の世界と裏の世界を結びつけることだけ考えよう」

 その恐ろしい考えを聞いたアリスは全力で彼の支配下から抜けようとするが、彼の判断の方が早かった。

 途端に霞がかかったように意識が朦朧としてきた彼女に、悪魔は優しく呟く。


「大丈夫だ。お前は最後にしてやるさ」


 その言葉の意図を考える前に、アリスは操りの糸にからめとられてしまった。



「くっ」

 スピードだけを重視してはなった移動魔法で、どこに着地するか分からず、ルーンは尻餅をつきながらもなんとか立ち上がって辺りを見回した。


「ここは……」

 そこは前に来た、ニコの屋敷だった。


「ニコさん! 入れていただけませんか⁉」

 どんどんと扉を開けて催促すると、ギイと重い扉が魔法の力により開いた。


「どうぞ」

 満面の笑みで歓迎してくれたニコに事情を話すと、ニコは殺気をそこら中に振りまいた。


「なるほど、農民と魔法使いという対立ではなく、裏を見たら悪魔と魔法使いの戦いということだったわけですね……」

 そう言うと、彼女は悪魔のように歯をむき出して、続ける。


「それなら、私も力を貸しましょう。何人か魔術師の知り合いもいますし、声を掛けてみます」

 ありがとうございます、と答えたものの、ルーンは自分がとんでもない人物を戦場に加えた気がしてならなかった。


「ではとりあえずは作戦会議ですね」

 そう言うと、彼女はわくわくとスナック菓子を両手いっぱいに持ってきた。


「あの……?」

 ルーンが控えめに聞くと、ニコは笑って言った。


「友達とおしゃべりする時はこうするんでしたよね?」

 違いました……? と心配そうにのぞき込んでくる彼女に、ルーンは少し笑って言う。


「すみませんが、本格的なご飯もいただいていいですか? お腹ペコペコで」

 無礼に腹を立てるどころかウキウキとした表情になる彼女に、ルーンは満面の笑みを浮かべてしまう。


「あらごめんなさい! じゃあ二人でご飯食べてから作戦会議ね! 分かったわ!」

 いそいそと台所に行く彼女に、ルーンは付き合う。


「私も手伝いますよ」



「それじゃあ、アリス達も捕まってしまった、ということでしょうか?」


「そうですね……正直私一人ではあの悪魔を倒すのは難しいと判断して移動魔法を使ったのです」

 そう言うと、ニコが抱き着いてきた。


「誰もあなたのこと責めたりしませんよ。むしろアリス達ならよくやった、と言ってくれるはずです。最悪彼女たちがあなたを殺してしまったかもしれないのですから」

 物騒な事を口にして励ましてくるニコに甘え、ルーンは体重を彼女に預け、静かに深呼吸を繰り返した。


「よっし! 作戦会議しようか、ニコ!」

 そう言うと、その調子です、と笑って言ってくれた。



 移動魔法を使って戻ってきたルーンにルイが第一声を浴びせる。


「なんだ、随分と遅かったじゃないか」

 その手にはアリス達がぐったりともたれかかっていた。


「アリス達の魔法を吸い取ったのね?」

 ルーンが馬鹿にしたように言うと、悪魔は不可思議な顔をした。


「何だお前、怒らないのか」

 いや別に、と言うと、ルイの顔が少し驚いた表情になる。


「怒ったからといって何が変わるもんでもないしな」

 そう言って、彼女は何の策略も無いように、いきなり肉迫した。


「なんだ、やけになったか?」

 人間離れした動きで剣を振るってくる悪魔に、ルーンは何とか壁を作って対応する。その壁を難なくぶち壊し、悪魔はルーンに近付く。

 壁のかけらで怪我をしたルーンの動きが鈍ると、悪魔はすぐに鳩尾に拳を叩き込んだ。胃の中の物を吐き出し、膝をつくルーンに、悪魔は容赦なく拳を叩き込もうとする。だが、体が動かなくなっていた。


「ん?」

 ただただうっとおしいとばかりに疑問の声を上げる悪魔に、ルーンは下から睨みつける。


「お前、私に気を取られすぎなんだよ」

 悪魔が気配を感じて後ろを向くと、支配を逃れた獣人四人が悪魔を睨みつけていた。


「よくもやってくれたわね」


「どうやって……」

 そう言った悪魔の目に入ったのは、魔術の筆を持ったニコだった。魔術の筆は心理性の魔法や魔術をリセットする能力がある。だが、それを使いこなすには大変な努力が必要な代物だった。


「何だお前、どこから湧いた?」

 ニコを睨みつける悪魔の視線をノエルが遮る。


「俺たちの友達っす」

 ノエルの意外な言葉に固まると、彼は、何ですか、と恥ずかしがっていた。

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