第36話 違和感

「そういえば、農民たちに魔法の種を作らせていたのはどういうわけだ?」

 ルーンがエルに聞くと、彼は初耳だと顔に描いた。


「はっ? お前らどこでそんな噂聞いてきたんだ。そんなのあるわけないだろ」

 エルが一刀両断するが、アリス達は皆その現場を見ている。それを話すと、彼は考え始める。


「魔法使いの魔力を使う、といっても魔法の種は魔法使いしか使えないからな……」

 エルも分からないということだった。彼は酷く悔しそうに結論を出す。


「俺には分からんが、ルイなら知ってるんじゃねぇか?」


「なんで私がルイと繋がっていることを知っている」

 ルーンが威嚇すると、彼は笑いながら答える。


「俺らの事を探っている女がいる、ということを知ってなけりゃ俺はお前に魔術師だとばれていただろうが。情報を知らねぇでスパイなんて出来るもんかよ」

 そう言ってずる賢そうに笑ってみせる。


「そんなお前ですら知らない情報、か……」

 猶更謎が深まったことに対し、ルーンは隠れてため息をつく。まだまだ先は遠そうだな、と言って、気合を入れなおした。

 


 皆がルイの場所に戻ると、彼はいなくなっていた。



 どこを探してもいない、ということが分かり、同時にエリナもいなくなっていたこともあり、皆は半分パニック状態に陥る。


 パンパン、と手を叩く音が聞こえ、皆の注意がルビーに向かう。

「皆で焦ったからといって彼らが帰ってくるものでもないでしょう。まずは冷静に考えてみましょう」


「ルイっていう人、本当に味方なんですか?」

 唐突にすさまじい勢いの問いが発せられ、皆が怯む。


「私は味方だと思う」

 ルーンが言うと、ノエルは少しだけ顔を歪ませたが、すぐに元の調子に戻る。


「でも、ルイさんは事情を知っていた。それなのに、どうしてルーンさんに情報を教えなかったんですか? 俺がルイさんの立場であれば、真っ先に何とかして知らせますよ」

 それに、とまた不安要素を述べる。


「ルーンさんが知り合いだったというエルですら魔術師だったんすよ? ルイさんだけ信じろと言われても正直出来ないっす」

 ルーンとノエルがにらみ合う。


「ちょっと、落ち着きなさい二人とも」

 その間にルビーが割って入る。


「今仲間割れしている場合じゃないでしょう。何であれ、エリナを探さないと」


「彼女も敵だったらどうするんすか」


「ちょっと‼」

 ノエルの言葉にアリスが割って入る。


「彼女が敵なわけないじゃない!」


「あなたが彼女の何を知っているっていうんです? アリスさん」


「なっ⁉ そりゃ、彼女とは今日会ったばかりだけど」

 そうでしょう、と言ってノエルはまた気持ちを吐き出す。


「そんな人の事を、信じろ、と言われても難しいっすよ」

 アリスが絶句していると、ミシェルが割り込む。


「ノエルの言う通りだ、アリス。お前は人を信じすぎる」


「それの何がいけないのよ!」


「皆の命を預かっているんですよ。失敗したときに不利益を受けるのはあなただけじゃない。リリィさんだって戻ってこられなくなってしまう」

 ノエルにそう言われて、アリスが唇をかみしめる。


「それでも……彼女の事は信じてみたいのよ」

 言葉を吐き出すように言うと、アリスはすたすたと歩いて行ってしまう。


「何をするつもりっすか?」

 無邪気に笑って、くるりと反転する。


「決まってるじゃない。彼女たちを探し出すのよ」

 アリスは言うと、地面に手をつける。途端に、地面がうごめき出した。驚く皆を横目に、彼女は呪文を唱える。


「指し示せ」

 アリスが言うと同時に地面に印が浮かび上がった。それは辿り虫のように淡く光り、行くべき道を表した。


「これ、どうしてリリィさんの時はしなかったんすか?」

 もはや遠慮をかなぐり捨てたノエルが言うと、アリスは悲し気な笑みで応じる。


「彼女の時もやったのよ。でも、示しはなかったの……」

 彼女が言うと、さすがにノエルも頭を下げて謝った。いいのよ、とアリスは言うと、魔法の範囲を広げていく。その範囲が辿れなくなったのを確認して、アリスは展開を一時ストップした。


「ルイのところまでこの魔法を行使するのはさすがに危険だと思うから」

 そう言って、何でも収納できるポシェットから馬を取り出し、彼女は進みだした。皆もそれに倣って馬を取り出して先へと進んだ。



 ぱかりぱかりと歩いていると、彼女たちの前には崖が出現した。


「これ、どういうことかしら」

 アリスが跡を指さすと、それは崖の上へと繋がっていた。


「登っていったということでいいのかしら……」

 困ったように固まったのは一瞬、彼女は呪文を唱え、皆の馬が浮き上がった。


「アリス‼ いくらなんでも魔力を使いすぎだ!」

 ミシェルの悲鳴のような言葉を受け、それでもアリスは止まらなかった。


「リリィが待っているのよ。遠回りなんてしてられないわ」

 そう言って、馬を風に乗せ、飛び立つ。


「ひえっ」

 必要以上に怯えるノエルに聞くと、彼は高所恐怖症らしい。馬にぎゅっとしがみついて、目を瞑っていた。

 途中、崖が迫ってくるような感覚に驚き、ミシェルは少し驚きつつ、自分を落ち着かせた。それでも止まらないため、やっとアリスに報告する。


「アリス‼ 崖が……」

 刹那、崖がアリス達に襲い掛かった。


「罠⁉」

 ルビーが飛び去りながら言うと、アリスは何を考えていたのか、反応が遅れる。


「きゃあ⁉」

 アリスの風魔法が消え去り、アリスが新たに魔法をかけようとした直後、眩しすぎる光が辺りを覆った。


 アリスはルビーとミシェル、ルーンはノエルと別れて光の穴へと吸い込まれていった。

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