第35話 国王の居場所は

「性懲りもなく、良く戻ってこられたもんだな」

 エルの鋭い黄色の目が威嚇してくる。長めの茶髪が風に揺らめき、警戒を表しているようだった。


「あなたと話し合いたくてね」

 全く物怖じするそぶりもなくルーンが言うと、ますます警戒の色を強めた。


「俺には話し合う内容なんてない」


「私にはあるんだよ」

 一刀両断するエルを真っ直ぐに見つめ、彼女が言うと、彼は舌打ちをする。黙ったエルを了承と捉え、ルーンが話し出す。


「お前は王の力と同等の力を持っている。そうだろ? だが、皆はお前の事を王とは認めず、魔法使いとして忌避している。不当な評価すぎるだろ。

 お前は自由に生きるべきだと、私は思う。誰にも縛られずに、誰のことも気にせず、な」


「俺は今自由ではないとでもいうのか」


「王になろうとすれば自ずから自由は遠のくぞ。厄介な政治に不満を言う国民の相手。平等を勝ち取ろうとして戦っている農民たちは次々と不満を打ち明けることだろう。

 そんな立場をお前が望んでいるとは考えにくい」

 エルは黙ってそれを聞いていたが、かなり真剣に光る眼が、少しだけ彼が彼女の話に興味をもっていることを示していた。


「だから、私と一緒に、誰も彼も平等の世界を作ろう」


「絵空事だ」

 ばっさりと切り捨てるエルに、ルーンは手を差し伸べる。


「私に出来ないことがあるとでも?」

 うっと押し黙ったエルに、ルーンは重ねて問う。


「お前は一体、どうなりたくて、何をすべきなのか、考えたことはあるか?

 私はない。誰しもが何かをしなくてはと考えて、結局何にもなれずに苦しむ。そんな国民に寄り添い、助ける存在になるべきは誰だ? 少なくとも、お前や今の王じゃないだろ」


「うるせぇ」

 エルがいきなり魔法を繰り出す。放った火の玉はルーンの横を通り過ぎ、後ろの木を燃やした。


「うるせぇんだよ! お前はいつも絵空事ばかり! だから何にもなれないんだ! 俺は違う! 誰よりも大きな力を持って、王になってやる!」

 その言葉と共に、また火の玉を作り出す。


「従えたきゃ倒せよ。天才さん」

 今までの恨みを差し込んで、火の玉は巨大化し、ルーン達の喉を焼かんばかりになった。


「ルーン!」

 堪らず不安そうな声を漏らすアリスに、ルーンは笑顔を向ける。そして、特大の水を杖の先に浮かばせた。


「は?」

 力を強くしたエルのそれすら凌駕する大きさに、彼は呆けた声を上げる。


「私、魔法と魔術、両方使えるのよ。だから」

 にやりと笑って、ルーンは胸を張る。


「両方を使えばこんなもんね」

 笑いながら火の魔法を食い、その水に押し流されるエルと魔術師を見て、ルーンは高笑いしていた。


「リリィがよくルーンのこと魔女って言ってたけど、納得してしまうわね」

 アリスが言うと、皆がしみじみと頷く。



 エルが目を覚ましたのはかなり後の事だった。

「大丈夫……?」

 かなり同情の意を感じたのか、エルは苦い顔をして勢いよく立ち上がろうとした。勢いよくぶっ倒れてしまう。


「ちょっと! あなた脳震盪で結構な時間気絶してたんだから、まだ動いちゃダメ!」

 ルーンが叱りつけると、エルはもう全てをあきらめたかのように脱力した。


「お前、チートにもほどがあるだろ」


「まあ、今回の事でチート度が増したことは否定しないわよ」

 そう言ってカラカラと笑い、顔を引き締める。


「でも、私ひとりじゃさすがにあそこまで出来ないわよ」


「どういうことだ?」

 エルが聞き返すと、ルーンは苦笑いしながら、アリス達を手で指す。


「彼女らの力も借りたの。魔力を貸してもらうことは出来ないけど、同調させて水魔法として発動させたのよ」


「違うやつら同士で同調なんて出来るのか……」

 アリスが口を開く。


「私も出来るとは思ってなかったけど、出来て良かったわ」

 そんなアリスを撫でながら、ルーンは言う。


「私の事を全力で信頼してくれたからこその力なのよ。今回私があなたに勝てたのはこの子たちのおかげだわ」

 彼女らは大きく胸を張り、それを見たエルは笑いをさらに渋いものにさせた。


「俺はお前ら全員を相手取っていた、というわけか」

 そりゃ勝てねえな、と言うエルを見て、憑き物が落ちたようだ、と皆で思う。どこか吹っ切れたような瞳を見て、彼はただ誰かに止めてもらいたかったのだと初めて気づいた。



「さて、王はどこかしら」


「王の居場所なんざ俺が知った事か」

 そう返され、皆呆然とする。


「魔法使いである、王を脅しているような男の傍に王がいられると思うか?」


「確かにそうね……あなたですら知らないってことは……どこなのかしら」


「多分魔力の一番溜まっている場所に魔術師と共にいるんじゃないか? 俺はただの魔法使いの門番に置いておくくらいだからな。かなり強者が集まっていると考えていいな」

 俺には及ばないが、と付け加える自信満々のエルにルーンが笑う。


「やっと調子出てきたな。エル」

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