第32話 囚われの場所と違和感
ルーンに移動魔法を使ってもらい、アリス達は農民から離れた場所に着いた。
それと同時に同じ移動魔法で飛んできた農民達を見て、ルーンは手を上げた。
「かなわないということは分かったわ。私だって馬鹿じゃないの。死にたくない場合はどうすればいいのかしら?」
「……」
しばらく無言で立つ農民に、傍にいた従者らしきものがこそこそと何かを呟いた。
「……ついてこい」
何を考えているのか分からないが、通用しない、と全身で語る彼らに付いて歩いていくと、彼らは洞窟の中にスタスタと入っていった。
慌てて皆で付いていくと、ガシャンと扉を閉める音が鳴り響いた。
「なっ⁉」
ルーンが後ろを振り返ると、農民達がニコニコ笑って檻の外で手を振っていた。前にいたはずの彼らを見ると、それはどこかに消え去っていた。
「幻影……」
「そこでしばらく頭を冷やしていろ。俺だってお前と戦いたくはない。良い蜜吸わせてやるから大人しくしておいてくれ」
そう言うと、農民は洞窟の入り口を、重いはずのそれをひょいと軽々持ち上げ、凄い音を立てて閉めた。
「さてと。皆と同じ場所には行かせないとは思ったけど、こんな魔力除けの強いところに監禁されるとは思わなかったわね……」
暗闇に呑まれないうちに、自分の手で頬を打って、素早く気持ちを切り替える。
「よしっ。じゃあ、あなたたちお願いね」
「うん‼」
アリスが力強く返事をして、彼女の手を取り、迷いなく歩き出す。
ただの暗闇は彼女らにとって恐怖の対象ではなかった。
底に向かって歩いていくと、枝分かれした道が沢山あった。壁に手を当て歩いていくと、人の気配がした。
「誰……?」
少女の怯え切った声に、アリスが答える。
「私はアリスっていう獣人よ。あなたは?」
少し躊躇ったような間が空き、少女が答える。
「エリナ……」
「エリナちゃん、そっち行ってもいいかしら?」
「うん……」
近づくと、エリナという少女は震えながら辺りに手を伸ばしていた。
「どこ?」
不安そうに言う声を聞いて、アリスは反射的に手を差し出す。モフッと手を掴まれ、びくりと飛び上がった彼女はしばらくして落ち着いたのか、アリスの手をとってもふりと顔をうずめた。
「エリナちゃん、質問があるんだけど、いいかな?」
アリスが聞くと、彼女は頷く。
「あなたはどうやってここに来たの?」
「えっとね……」
しばらく考え込み、恐る恐る口に出した。
「私はいつも通りに学校に行こうと家を出たの。家の前に友達が待っているのが見えたから声を掛けたんだけど、そしたらいつの間にかここにいたの」
「変な影みたいのは見えなかった?」
ルビーが横から聞くと、エリナは思い出そうと頭をぽんぽんと叩く。
「多分、なかった。でも、眩しかったことは覚えてるよ。そしたらここで暗くなっちゃって、パパもママもいなくて、怖くて……」
かなり参っているのか、下を向いたまま話すエリナに、アリスがもふりと全身をこすりつける。
エリナは驚いたものの、すぐ擦り付けて抱きしめてきた。
「アリスはあったかいね」
幸せそうに言い彼女の様子に、皆が決意を新たにする。
「エリナ、絶対、あなたを地上に出してあげるからね。安心して」
そう言うと、彼女は安堵のあまり、目に涙をため、ついに泣き出してしまった。
「絶対、出してあげるから」
こんなところに居させられているであろうリリィのことを想うと心臓が張り裂けそうだったが、今は全力でこの子の事を考えないとリリィに叱られるということを分かっていたアリスは、皆を見る。
皆、同意見のようで、頷いてくれた。
「なんでエリナだけここに居させられているんだろう……他のみんなはどこへ……?」
ミシェルが言うと、皆で考え込むが、答えは出なかった。
「まあ、何はともあれ洞窟を散策するだけして出ないとね」
ルーンが大きく伸びをして、気持ちをまた入れ替える。
「エリナ、ここに誰か来ることがあったわよね? ご飯くれる人とか。その人達っていつやってくるのかしら?」
「朝昼晩って来てくれてると思うの。おなかすいた時に来てくれるから。私にお弁当を持たせてすぐどっか行っちゃうけど」
「……これ、相当農民連中よく分からないことしていると思いません?」
ルビーが言うと、皆が同意する。
「なぜこんな金のかかることをしたがるのか……最終的にどこを目指しているのかいまいち分からん……」
ミシェルも頭を抱えていた。
「もしかして、一時的なんじゃないかしら」
アリスが言うと、皆が振り向いた。デジャヴだな、とアリスは思って思わず笑ってしまう。
「一時的に魔法使いを閉じ込めて魔力を奪い、その魔力を使って魔術師が魔法使いの土地の長にとってかわる。それが彼らの狙いなんじゃ……」
「それだ!」
皆が一斉に言うと、洞窟の中に声が響き渡って、皆思わず耳を塞いだ。
耳が良すぎるのも考えものね、とルーンが言うと、エリナはうんうんと頷く。
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