第30話 町長との対談

 想像以上に怯えられた。


「ひぇぇぇ‼ 何で魔法使いがいるんだ! 全て消したと言っていたじゃないか!

 それになんで私の元へ⁉ 僕は王の言うことに従っただけなんだ‼」

 分かった分かった、とその甲高い男の声を黙らせ、アリスが話しかける。


「その王を探しているの。心当たりあるかしら?」


「そんなの一町長である私が知る訳ないだろう!」

 思いの外自分の立ち位置を分かっていそうな男に、さらに質問を重ねる。


「じゃあ、何で町民に魔法使いとのことを言わなかったのかしら?」


「あいつらに言ったら反対されるじゃないか! 僕はもっと大きな土地が欲しいんだ!

 魔法使いがいなくなればそれが手に入る! 何故それを拒否するのか全く持って分からん!」

 ノエルが一歩前に出る。


「おい、ちゃんとこっちを見ろ」

 本物のヤンキー声を出して彼が詰め寄ると、町長はひいっと言って言われた通りノエルを見た。


「お前、ちゃんと町民の話を聞いたことがあるのか?

 町民が何を楽しみに、何に苦しんで生きているのか、お前は知っているのか?」


「そんなの、私が聞いても分かるはずないじゃないか」

 言い訳がましく言葉を重ねる町長に、ノエルの尻尾が攻撃的にブンブンと振り回された。


「分かろうとするのが町長の仕事だろうが! リーダーってのはそういうもんだ!

 それに、仮にも同意したことに対してはしっかり責任を持て!」

 雷を落としたような彼の厳しい声に、町長だけではなくアリス達まで圧倒される。


「返事は⁉」

 そう言うと、町長は何かを思い出したような、苦しそうな顔をした。


「返事は⁉」


「はいっ‼」



 その日は屋敷に泊めてもらい、次の日、町長と共に町へ出た。


「町長⁉」

 皆が驚き、道を開ける。


「いいんだ、今日は無礼講でいこう。私が同意したことについて、皆と話し合いたいんだ」

 そう言うと、ああ昨日聞きました、と町民が相槌をうつ。

 その後、町民と話合いをして、さらなる土地は持ちたくない、との結論に至り、税額が高すぎるということや、気まぐれで色々な制度を変えるのをやめてちゃんと町民に意見を聞いてからにしてほしいということなど、様々な事を一日かけて話し合った。

 もちろん聞けない願いもあったようだが、そこは妥協案を探し出し、なんとか折り合いをつけていた。


「こんな当たり前のことが出来ていないようじゃいくら土地があったって満足しないよな」

 ノエルが言うと、皆は驚きながら頷く。


「なんだよ?」

 皆の様子が違うことを見て取り、ノエルが問うと、皆は声をそろえて言う。


「いや、ノエルってしっかりしてるんだな、と思って」

 アリスにすらそう言われて、ノエルは心外だとばかりに尻尾を振る。


「俺だって猫の血が流れてるんだ。縄張り争いほどしっかりしなきゃならねぇもんはないだろ」

 ノエルが言うと、他の二人も同意する。


「飼い猫だからと言って適当にやっていいことじゃないものね」


「そうだな。自分の庭には許可した人物しか入ってきてほしくない。それでも折り合いをつけなきゃいけない時はちゃんと話し合いするもんな」

 そう喋り合っていると、ルーンが苦く笑っていた。


「案外人間より猫の方が王に向いているのかもしれないな」



「次の町はここでいいのかしら?」

 町長に問うと、彼ははっきりと肯定した。始めに会った時の彼はどこへやら、とてもしっかりとした凛々しい表情になっていた。


「何かありましたらまたここへいらっしゃってください。助けていただいた恩はお返ししなければ」

 町長が言うと、ルーンが、ああ、と応じる。


「では」

 そう言った瞬間、待ってくれ、と声が聞こえた。


「これを持って行ってください!」

 町民に渡されたのは魔法の種だった。


「これをどこで……?」

 ルーンが聞くと、町民は言いづらそうに口を鈍く開く。


「王の指示で大量に作っていたのです。何をするつもりなのかは分かりませんが、とにかく気を付けて」

 一番重大な事を告げられ、困惑するルーン達を見て、町民はかなり申し訳なさそうに身を縮めていた。


「すまん。ありがたく貰っておくよ」

 ルーンが無理やり笑顔を作り、これはもう作ってはいけないよ、と言うと、町民は素直に頷いた。



 場所移動をすると、虫を使って地下の探知も行い、アリスたちは話し合いを始めた。


「なぜ町民に種を作らせたりしたんだろう?」

 ミシェルが考え込むが、誰も答えは分からない。


「魔法使いを力として使うつもりなのか? それとも、町民の中から魔法使いを探し出すためか? それとも……」

 考え付く案はどれもしっくりこない。種を作るという作業はそれほどまでに危険な作業だった。


「種は買うものだったからあまり分からないんだけど、どういう危険性があるの?」

 ルビーが聞くと、ルーンが答える。


「種は知っての通り、その種がもつ属性に合わない人を攻撃する習性を持っている。

 だから、種を栽培することで襲い掛かられる危険性もあるということだ。

 ただし、魔法使いの素質が一切ないとそれはただの種として大人しくしている。だから、農民が作って売るのには最適ではあるが、万が一、少しでも魔法に適性があると襲い掛かられ、最悪死に至る可能性だってある危ないものなんだ。

 魔法の適性は大きくなってから現れることも多く、その人がずっと種を扱えるかは賭けになる。だから、本来魔法使いが自分の適性の種を栽培する、ってのが主流になっている」


「そういうことだったの……それは確かに不可解ね……」


「あの町民たちは危険性をしっかり分かっていたようだったが、これまで事故がなかったのははっきり言って奇跡でしかない。全く魔法の素質が無い人間の方が少ないんだからな」


 そうなんですか⁉ とルビーは驚きのあまり身を膨らませる。ルーンは少し疲れたように笑う。


「だが最近は機械の発明が盛んになり、魔法の素質、つまり魔力を吸い取る装置があるんだ。それで吸い取ってからだと栽培がしやすい。魔法を使わない農民がこれを手に入れ、種を作って魔法使いに売れば、今までより楽に儲けることができるだろうな」

 そう言うと、次の町を地図上から探し始める。


「次はここだな。また商店街に出るはずだ。覚悟を決めておけよ?」

 そう悪戯っぽくルーンが言うと、皆は顔を険しくさせ、頷く。

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