第29話 罠
縄でぐるぐるになった魔術師が起きると、ルーンが質問をする。
「あなたたちの地下、見させてくれないかしら?」
「誰が教えた……」
「別に誰でもいいじゃない。教えてくれない?
魔法使いたくないのよ。無理やり言わせたくないの」
そう言うと、アリスに目配せをする。
アリスは意図をくみ取り、全属性の種を周りに浮かばせる。ぐるぐると意のまま辺りに回らせると、魔術師の顔が真っ白に染まった。
「分かった! 言うからやめてくれ‼」
「ありがとね」
そう言うルーンの顔はとても悲しそうだった。
魔術師が示した場所を探ってみると、凹みがあり、そこをノエルが持ち上げると、パラパラと土をこぼれ落ちつつ板が持ち上がり、階段が見えた。
「ここか……」
ルーン達が覗いてみると、光が見えた。
「危ないっ……!」
ルビーがルーンを掴み、空へと駆ける。その一瞬後、下で大爆発が起こった。
「みんな……!」
流石に顔色を変えるルーンだったが、ルビーがたしなめる。
「ルーン‼ 落ち着いて。彼女達なら大丈夫よ。あなた以外は彼らを信用していなかったから」
そう言うと、渋い顔になる。
「アリスに油断するなと言っておきながら、無様をさらしてしまったわね」
「油断というより、信じる心じゃない。それは大切な事よ。誇っていいことなのよ」
そういうルビーに礼を言いながら、地上に降りたつ。そこには闇の影を巨大化させて爆発を食らい去ったノエルがいた。
「みんな大丈夫か⁉」
大丈夫、と皆が言って、ようやくノエルは影を戻した。
魔法の多用のためにふらつくノエルをルーンが支える。モフッと彼をお嬢様抱っこしてやると、彼は少し躊躇した後、流石に気にしている場合ではないと思ったのか、大人しく抱えられていた。
「何が起こったのかしら……」
今度は注意深く下を覗き込むと、少し入ったところの地面にスイッチのようなものが埋め込まれていた。
「これを踏んだら魔術が作動する仕掛けなのかしら」
分析すると、魔術師たちがとても口惜しそうな顔をしていた。
「あなたたち、私に嘘をついて、ただですむと思わないことね」
本気のドス声で言ってやると、彼らは今度はふてぶてしい顔で唾を地面に吐いた。
「知った事かよ。魔法使いが。滅びやがれってんだ」
「私もあなたも同じ人間じゃない。それに、人間じゃなくても仲良くできる」
そう言ってアリス達を眺める。
「この子たちとも仲良くできるのよ? そんな私たちがあなた達をいじめると思うの?」
そう言うと、彼らは少し迷ったようだったが、それでも睨みをきかせてきた。
「お前らは言葉が達者だと聞いている。惑わされるものか」
話にならないわね、と言ってルーンが地下に慎重に潜っていった。
「中には誰もいないようね」
そうルーンが言うと、皆は少し残念そうな顔になった。
「彼らのこと、どうしようかしら」
「このままでいいんじゃないですか。どうせもう少しで解けそうですし」
ぎくりと固まる魔術師に、皆が驚く。彼らの後ろ手を見ると、確かに何かにこすられてバラバラになりつつある紐があった。
「ちょっ……危ないじゃない何で黙ってたのよ」
「いやぁ、どこまでできるのかな、って面白くなっちゃいまして」
そう言うと、彼らの方を向く。ちょうどアリス達から見えない位置に顔があったため、何故農民たちの顔が真っ青になったのか、分からなかった。
まだ和解は難しそうね、とアリスが無言で皆を見ると、苦い笑いを返された。アリス自身もそういう顔をしていた。
「じゃあ、行きますか。早くしないと隠れられちゃいそうですし」
そう言われてみればそうなので、素直に従って次の町に行くためルーンは情報をインプットし始めた。
次の町に跳ぶと、そこは賑やかなところだった。道が出来ており、周りには良い匂いをさせた屋台が並び、とても王が隠れているところとは思えない。
いきなり現れた魔法使いとその使い魔たちに明らかな怯えをはらんだ顔で逃げ惑う人々。賑やかな町が一転して阿鼻叫喚になる。
「大丈夫ですよ。私たちは戦いに来たわけではありません」
そう言うと、それが聞こえたのか、近くにいた数人が動きを止めた。
「魔法使いって問答無用で殺しに来るから万が一町に来たら王に教えるように、ということだったのですが……」
「おいオビ! 油断するんじゃない! 食われるぞ⁉」
いくらなんでも食べはしないわよ、と呆れ声で言うと、また数人が足を止めた。
「……何をしに来たの?」
ルーンが代表して事情を話すと、皆の顔が白くなった。
「どうしてそんな恐ろしいこと……」
「全員消すなんて、どうかしてる……」
皆の意見が王寄りでないことが分かり、アリス達は困惑した。
「皆の総意で決められたことじゃないの?」
「そんなわけあるかよ」
男の子が母親の制止を振り切って走ってきた。
「別に俺らは今の生活が気に入っているんだ。例え国の中央が俺たちの土地になったと聞かされても、少なくとも俺はここに残りたい」
国の中でもかなり意見が分かれている事、そして、国の中で意見すら聞かれない人たちがいることを初めて知ったアリス達は、ただ茫然とした。
「何がどうなっているんだ……?」
すると男の子は律義に助言をしてくれる。
「ここの町長を連れてくるよ。彼なら何がどうなっているか分かるだろうからさ」
まあ、彼はちょっと……、と言葉を濁す。彼は? と聞くと、男の子は渋い顔のまま言う。
「彼はこの町の人とあまり話さないからな。ずっと屋敷に引きこもっているんだ。
だから、俺たちは政治の事をあまり知らない。彼の指示だけで理由も知らずに金を徴収されることもある」
つまり、やりたい放題やっているということだよ、とそう教えられ、アリス達は首を傾げた。
「そんな町長、辞めさせればいいのに」
それがそうもいかないのさ、と少年を止めようとした親が仕方ないとばかりに会話に参加する。
「彼の父が町長だったからね。父は子に町長の座を受け渡すんだ。
前の町長は色々な話をしてくれていて、私たちの話もよく聞いてくれていたんだけど、彼が亡くなってからかなり変わったのさ」
そういう制度もあるのか、と驚きの表情を浮かべるアリス達に、母親は言った。
「あなた達の暮らしているところはよっぽど良いところなのね。
羨ましいけど、やっぱり私たち、ここが好きなのよ。子どもの頃の思い出とか、沢山苦労はあるけど、同じ分だけ幸せが眠っているの」
話を聞いていると、もっと聞いてくれとばかりに周りの人たちも集まってきて、町の魅力を沢山聞くことが出来た。
春になると綺麗な花が咲き、その下でこうして花見ができること。
夏になると冷たい水が通り、そこで水を浴びること。
秋になると色々な食べ物が旬を迎え、沢山の食料を確保できること。
冬になると雪で遊べること。
様々な楽しみを見つけ、生き生きと生きている彼らを見て、アリス達は幸せな気分でいっぱいになった。
「おっと話過ぎたな」
空が赤く染め上げられ夕方の訪れを知らせると、ある者は売り物の片づけに、ある者は夕飯の支度にと去っていった。
皆去る前に、話を聞いてくれてありがとう、と礼を言ってくれた。
「とても良い人たちでしたね……」
まさかのノエルが言ったため、皆笑みを浮かべ、町長の屋敷へと向かった。
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