第28話 彼の成長

 ミルバが地面をなぞり、あるところのくぼみに手を突っ込み、ガバッと力を込めて地面を引っ張り上げた。


 そこに広がるのは、広い階段だった。

 どんどん歩いて進むと、アリスが感嘆の声を上げる光景が広がっていた。


 とても広い広間に魔法で火が漂い、土の壁をぼんやりと浮き上がらせていた。

 そこは土の匂いが充満していたが、生命の息吹が感じられる、程よく明るい幻想的な所だった。


「わああ」

 アリスが思わず感嘆の声を漏らす。


「農民の技術だって捨てたもんじゃないだろ」

 そうミイが胸を張って言うと、アリスは素直にぶんぶんと首を縦に振った。

 それに調子を崩されたミイは下を向いてしまった。


「じゃあ、この地下がある場所にいる可能性が高い、というわけね?

 そして、王のところ以外にもあなた達みたいに魔術師がいることがある。

 中にはミルバさんのように攻撃を仕掛けるものの、あまり乗り気ではない人も多い、ということかしら」

 ミルバが頷くと、ルーンは頭を掻いた。


「先は遠そうね……」


「それでもやらなきゃ!」

 アリスが勢い込んで言うと、ルーンはふにゃっと顔を緩めて、そうだな、と言ってくれた。


「この場所から一番近いところってここで合ってる?」

 地図を見せると、ミルバは、そうです、と力強く頷いた。


「ありがとね。じゃあ、また今度遊びに来るわ。リリィも一緒にね」

 思い出話に火がついて長話をしてしまった皆をアリスが早く早くと急かす。


「じゃあ、いくわよ」

 一、二、三! と言った直後、ルビーが後ろを見ると、ミルバが少し悲しそうな顔をしていて、ゾッとした。


「ルーンさん‼ ダメ‼」

 その声は間に合わず、五人は次の土地へと移動した。



 キンッと鋼が打ち付けられたような音が聞こえ、ルビーは咄嗟に空高く舞い上がる。


 下を見ると、ルーンの水の鞭と農民の農機具がぶつかり合っていた。

 アリスはその左側で火の渦に閉じ込められていて、ミシェルも同様だった。

 ミシェルが簡易魔法を呟くと同時にライオンが火を爆散させる。

 アリスは一瞬で状況を判断し、全く同じ火の渦を内側から打ち付け、散らせていた。

 ノエルは持ち前の素早さで走り回り、敵の幻影魔法から逃れていたが、追いつかれそうになった瞬間、ノエルから影が抜け出した。彼と同じシルエットのそれは、幻影魔法を食らいつくし、闇へと変えた。

 自棄になったように魔術師は彼に向かって幻影魔法を打ち続けるが、彼の影がそれを全て食らう。埒が明かないように見えたその勝負の均衡はノエルの火の玉が走ったことで崩れ、なんとかそれを避けた魔術師の目の前にノエルの影が降り立ち、少し食らいつく、と共に相手は気を失った。



「君はどんなものを見せてくれるのかな?」

唐突に近くで聞こえた声の主を探すと、背中に羽を創造し、空についてきた魔術師がいた。

 その人に向かって、鋭く呪文を唱える。

 火が燃え上がり、それは勢いよくただ真っ直ぐに相手に向かっていった。


 そんなにすぐ反応が来ると思わずにいたであろう魔術師は咄嗟に羽を解き、地面に向かって落下して躱した。すぐに羽を作って登ってくる魔術師の手には鋭い剣が光り、それに氷の渦が巻き付いた。

「君はどう躱すのかな?」

 先手をとられたのを根に持つような口調にルビーは本能で反応し、次の手を打った。同時に魔術師の剣がルビーに突き刺さった。ニヤリと笑う魔術師は、信じられない声を聞くことになる。


「どこを狙っているのかしら?」

 バッとそちらを見て体勢を整えようとするが、所詮空を飛ぶ真似事。ルビーの速さに付いていけず、幻影に惑わされ、どんどん息がきれていった。


「このっ‼」

 イラつきが最高潮に達し、動きが雑になった一瞬の隙に、ルビーが爪で切り込む。それは魔術師の羽を引き裂き、魔術師は再度作ろうとしたが、ルビーの放った水の魔法のせいでそれどころじゃなくなり、地面に落ちていった。


「うわあああ!」

 悲鳴を上げて地面に激突する、かと思ったが、彼は間一髪、ルビーが水を纏わせ、無事に地面に降り立った。

 死ぬと思ったショックで気を失った彼をルーンに縄で縛ってもらうと、皆それぞれ戦いは圧勝で終わっていた。


「まだまだ甘いっすね」

 ノエルも難なく躱したのだと知り、胸をなでおろす。人間全員に全力の敵意を向けていたあの頃の彼はもういないようだった。

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