第27話 道標
またルーンに移動魔法を使ってもらい、着いたところで辿り虫を使う。
二回目で反応があった。
「十分注意するのよ」
ルーンが予め注意を促していた通り、そこには攻撃動作に移ろうとする農民の姿があった。
「にゃあ⁉」
完全に油断しきっていたアリスの服を掴んで後ろに放り投げ、ミシェルは簡易呪文を唱える。
「おいでませ」
ミシェルが口を閉じるとともに巨大なライオンが彼を包み込むようにして顕現する。
ミシェルが吠えるとそれは衝撃波となって農民の魔法を消し飛ばし、同時に農民も吹き飛ばされる。
気絶した農民を横目に、ミシェルはアリスに向き直る。
「注意しろ、って言われなかったか?」
一文字一文字区切ってゆっくりと言うミシェルに、アリスはしょぼんと顔を下げる。
少し罪悪感が湧いてしまうが、彼は油断癖のあるアリスにはこれくらい言わないと、と心を鬼にして続ける。
「何時でも魔法を使える、くらいの気持ちでいろよ。俺もいつも庇えるわけじゃない」
はい、と小さく呟くアリスの肩をルーンが後ろから軽く叩いた。
「返事は大きく、はっきりと!」
「はい!」
さすがリリィの師匠様だ、とミシェルは少し悲しくなった。
彼女は厳しいときは厳しく、いつものふわふわした彼女とのギャップに驚くほどきつく叱っていたのを思い出した。
「よくやったわね、ミシェル」
ぐりぐりと力強く撫でてくれる彼女に、彼はごろごろと喉を鳴らす。
「光魔法が得意なのかしら?」
幻影を作り出したり精霊の力を借りたりできるのは光魔法の真髄だった。
「光と火と風です」
元気よく答えると、また撫でてくれた。
「随分と優秀なのね。三属性の上に簡易魔法が使えるなんて」
いえ、と恥ずかしそうにそれを受けるミシェル。
「簡易呪文ってなんだ?」
聞いてくるノエルに、ルーンが答える。
「簡易魔法とは自らの想像力を最大限使って仕組みを思い浮かべ、最低限の呪文で魔法を使う方法で、アリスの使う呪文ナシの次に難しいという代物だ。
魔法の構造を学ばなくてはならないからかなり大変なんだぞ?」
「僕もそれ使えるようになりたいです‼」
意外と貪欲に知識を欲するノエルにはうってつけの方法だということで、旅の合間にルーンが教えることになった。
「じゃあ、そろそろ起きるかな」
縄でぐるぐる巻きにされた農民たちを見てルーンが言うと、丁度彼らは起きた。
そのうち一人は女だった。
「おはよう、君たち。突然だが、知っていることを全部喋ってもらおうか」
ルーンが言うと、女は好戦的に睨み返す。
「魔法使いになんて誰が話すか」
「想像以上に嫌われてるな……何でだ?」
ルーンののんびりとした調子に引きずられて、女は少し力を抜いた。だが鋭い眼はそのままだった。
「あなたたちは私たちを危険な土地に閉じ込めたじゃない!」
「いや、それは違うぞ? 君たちから戦いを挑んできて、私らが勝ったが君たちの方から危険な土地に住むことで今までの事を帳消しにしてくれ、と言ってきたんだぞ?」
そんなの嘘にきまっているじゃない! と叫ぶ女性に、隣の男性が静かにたしなめる。
「あちらの言い分のが正しい。俺らは間違っているんだ、ミイ」
その言葉に女だけではなくアリス達も固まった。
「そちらでは危険な土地に閉じ込めた、という言い伝えが主流なのか? なぜ君は真実を知っている?」
がたいの良い、見るからに農民の男は見た目に反してとても学者的な口調で答える。
「ええ、こちら農民側ではその言い伝えが主流なのです。
私は歴史学者をやっている魔術師なため、真実を知っているのですが、真実を主張したらこの土地に娘ごと飛ばされてしまいました」
「お父さん……? 何を言っているの……? 何で私に言ってくれなかったのよ」
「領主様に口止めされていたんだ。今度は移動だけではなく、娘の命を奪うぞ、と言われた」
どうやってそれを知ったのか、というミシェルの問いに、旅をして知りました、という答えが返ってきた。
「私は獣人や魔法使いに沢山会いました。ですが、皆さん私が内部に行っても全く気にせず、さらには仲良くしてくれる人が多かったです。
そして、古い絵巻物を見せてくれて、魔術で信憑性を確認したらそれは真実だと分かったのです」
なるほど……という言葉と共に考え込むミシェルとルーンをおいて、アリスが質問を重ねる。
「悪魔には会わなかったの?」
「事情を知らない魔法使いに移動魔法で連れて行ってもらいました」
それに納得し、アリスはさらに質問を重ねる。
「あなたたちはここで何をしていろと言われたの?
私たちの主人を奪ったのは誰だか、どうやって彼女らを呼び戻せるのか分かる人間の場所に心当たりある?」
一気に質問をされて戸惑ったのか、しばらく考え込んでいたが、彼は口を開けた。
「ここでは見張りをしていろと言われました。
王が隠れるまで時間を作れ、と言われたのです。
主人を奪った人間と、呼び戻し方がわかっている人間は、王である可能性が高いです」
そう言って、ルイに聞いた外見を言ってみせた。
「どこにいるかは分かりません。ですが、やはりここで私たちを見つけたような見つけ方では不十分だと思います。
虫だけでは地下まで見つけられない」
「彼は地下に潜んでいるというの⁉」
ルビーが目を見張る。
「地下って?」
アリス達が首を傾げていると、ルビーが落ち着かない気持ちを浮き彫りにしてうろうろとぴょんぴょん歩き出す。
「地下っていうのは、地面の下に人が住めるところを掘り進めることをいうのよ。そして空気穴を他の目立たない場所に作って、真上には土を固めて上から分からないようにしているの」
愕然としている皆を宥めるように、男が言う。
「実際に見て見た方が分かるでしょう。縄を解いていただければ案内いたします」
「あなたを信じろと?」
「今の戦闘で実力差は分かりました。下手な事はしませんよ」
それもそうね、とあっさりルーンは引いて、男に尋ねる。
「あなたたちのお名前は?」
そう言って、自分たちの自己紹介を済ませる。男は面食らった顔で、少し笑って言う。
「俺はミルバと言います」
「こちらです」
すたすたと歩いていき背中を見せるミルバと対照的にミイは戦闘態勢を崩さなかった。
まだ歴史を信じ切れていないらしい。
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