第26話 信頼できる仲間
「着いたわよ。目を開けて」
着いた場所は、荒野だった。
何もなさそうに見えるそこは、かなり寂れていて、全く何の気配もしなかった。だが、どこか落ち着かない気分になる。
「これが魔力が漂っている感覚なのね?」
アリスがそう聞くと、ルーンは満足そうに頷いた。
アリス以外には分からないらしく、皆クンクンと匂いを嗅いだり、的外れな事をしていた。
「何だお前ら。俺たちの土地に何か用か?」
見るからに農民と見られる男が駆け寄ってきた。
その農民に、ルーンは親し気に声を掛ける。
「おお、ルイさんじゃありませんか!」
しばしひげを武骨な手でじょりじょりとなぞって考えた男性は、しばらくしてルーンに気づいたようだった。
「おお! ルーンか! すまんすまん。この年になるとどうしても人の見わけがつかなくてな。大きくなったもんだな」
二人で和やかに世間話を重ね、一気に本題に入る。
「ここ最近、魔法使いが消えるという事件が起きた。私たちはその人たちを探しているんだが、何か心当たりないか?」
そう言うと、ルイは驚いた表情で固まってしまった。
「魔法使いが消えたって、それは同じ魔法使いにしかできないんじゃないか? この農民の土地にいるとは思えないんだが……」
「ああ、すまんすまん。魔法使いが消えた、というのは、魔法使いが全員消えた可能性がある、ということなんだ」
「……は?」
事情を全く知らなかったルイに、ルーンは全てを語った。
「なるほど……それは多分レイト様の仕業だろうな」
レイトとは? と首をかしげるルーンに、彼は詳しく話を聞かせてくれる。
「レイト様は魔法使い嫌いで、それを政治のマニフェストとしていたんだ。彼がトップになっている限り、皆は従わざるを得ないんだろうさ」
「お前も含めて、か?」
ルーンが身構えると、ルイは笑って答える。
「俺はもう守る者といったらお前くらいしかいないしな。お前らの味方だよ」
そうか、と言って少しくすぐったそうな顔をして赤らめるルーンに、アリスは割り込む。
「彼が今どこにいるか分かる方法ってありますか?」
いや……と考え込み、ひげを触る。
「方法が無い……ことはないが、かなりリスクが高いな。あいつにばれて隠れられてしまう可能性が高い」
「なるほどね……じゃあやっぱりこうして地道に潰していくしかないってことか……」
アリスは顔をガッと上げて、勢いよく質問をする。
「この魔力の渦の中で彼がいるかいないか分かる方法ってありますか?」
「ある。俺はそれを使っていつも用心しているからな。だからお前らを見つけられたんだ」
「その魔法、教えてくれないか?」
アリスがルーンに目配せをする前に既にルーンは喋り出していた。
「それは魔術師の分類に入る。この辺りの魔力を察知する魔法で、人間がそれを歩いて横切るだけでわかる方法なんだ」
彼は少し躊躇いつつ、言う。
「でも、魔法ではない」
「え?」
「感覚で、捉えるしかないんだ」
それをよく聞くと、野生の勘のようなものだという。むしろ猫などの方が取得しやすいのでは、とルイは言う。
「それってどういうもの?」
アリスが興味津々で聞くと、彼は話始める。
「じゃあ俺が動いてみるから、君はよく目で見ていてくれ」
そう言うと、ただただ真っ直ぐに歩いてみせた。
「次は目を瞑って」
そしてまたただ真っ直ぐに歩く。
「なんとなくでも分かったかな?」
皆がアリスを見ると、彼女は目を閉じて感覚を研ぎ澄ませるように耳もしっぽもひげもしゃんと立て、感じ取ろうとしていた。
目を開けると、残念そうに首を振る。
「駄目だわ。全く分からない」
「まあ、一朝一夕で出来るもんでもないからな。最初は全て探すか、辿り虫を作るかすればいいんじゃないか?」
「辿り虫が使えるの⁉」
皆がすごい勢いで近づくと、ルイは身を逸らして言った。
「使えるさ。あれは元々魔術寄りなんだ」
辿り虫とはある人のイメージを思い浮かべながら虫を額につけると、周りの魔力を吸い取って飛んでいき、その主のところまで連れて行ってもらえる優れものだ。
だが、虫が感知できるのはせいぜい十分程度。潰せば消えてしまう儚いものだから扱うのはとても狭い範囲のみだった。
その習性が今はちょうどいい。魔力のある所に行ってそれを放てば、その範囲にその人物がいるかいないか分かるだろう。
「ありがとうルイ」
「いや、いいってことよ」
ルイが男らしく胸をドンと叩くと、皆は幸せそうな顔で笑った。
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