第25話 時代のせい
「じゃあ、あなたたちは、私を殺した、ということで戻りなさい。私たちはその男がいる可能性がある場所に向かうわ」
そう言うと、よっぽど農民たちに雑に扱われていたのか、簡単に頷いて去っていった。
「ルーン、場所は絞れた?」
「ええ」
そのアリスとルーンの会話に、皆は驚きの表情を浮かべ、ひげを震わせた。
「そんなにすぐ分かるものなのですか⁉」
まあ、簡単じゃないけどね、と言って、ルーンはネタ晴らしをする。
「私はどちらかというと、そういう魔力が溜まっている土地を調べる学者なのよ。だから、どこに探索がきかない場所があるのかはある程度分かるってわけ」
そして、それをアリスが知っていた、というだけよ、と言われても、凄いことすぎてアリス以外にはピンとこない事実だった。
「そんなのを知って何をするというのです?」
「いや、農民にも魔法が使えないものかと思ってね」
「魔術師を作ろうということですか?」
生まれつき魔力を持っていないもので、自然の力を行使する者を魔術師という。
この人たちは魔法使いより魔力源が多い代わりに、かなり行使が難しいというデメリットを抱えている。
それに、あまり使いすぎると自分の体が耐えきれないというデメリットもある。
「今回の事件は魔術師の功績もあると思うのよ。だから、私は察知できたというわけ」
そして、また衝撃の事実をさらっと言ってみせる。
「私は魔法使いと魔術師、両方の素質を持っている者だから」
今度はパニックが収まるのが遅かったが、皆何とか正気を取り戻して話を進める。
「じゃあ、あなたはすでに農民の不満を読み取り、その差を無くそうと動いていたわけですね? だからいち早く事件の本質を見抜いた、と」
そういうことになるわね、と言って少し悲しそうに笑う彼女にかける言葉が見当たらなかった。
魔法使いの中で農民に悪くない感情を抱いているものは多い。別に中央に住んで一緒の世界をするということに反対している者はごく一部だったのだ。
ただ、反対していたのが上層部の人たちだったために、認められなかっただけの話である。
「私があと少し早く動けていればこんなことにならなかっただろうに……」
呟くルーンに、アリスが言う。
「あなたのせいじゃなくて、時代のせいよ」
はっきりとすっぱりと言うアリスに、ルーンはありがと、と言って笑った。
「ねえルーン、農民と魔法使いの土地を隔てる位置に悪魔が放し飼いにされている、って聞いたのだけど、それって本当なの?」
そうルビーが聞くと、ルーンは黙ってうなずいた。
「そうね。今でもその悪魔達は魔法使い達の魔力を吸い取って境界線にいるわ」
「今でも魔力を吸い取っている⁉」
アリス達が驚いていると、ルーンは悲しそうに言った。
「魔法使いは幼少期にもらうものがあるでしょう?」
「杖……?」
そう、とルーンは頷く。
「魔法を使う道具でもあり、あれは悪魔を使役する道具でもあるのよ」
「そんなこと誰も教えてくれなかったわよ⁉」
アリスが困惑して言うと、ルーンは言った。
「そりゃそうよ。魔法使いは政治に無頓着。農民たちに彼らが征服されないためにはそういう決定的な区別化が必要だった。だから当時の人たちは杖を使って自動的に組み分けが出来るようにしたってわけ」
「悪魔と契約なんて、デメリットがあるんじゃないの?」
事情をよく知るアリスが言うと、ルーンは悲しい顔になった。
「そうね。私が研究して分かったことは、悪魔と契約することによって、悪魔が望まない限り、相手の寿命をそぎ取って悪魔は表の世界にいる、ということね」
「そんな重要な事をなんで……」
なんで言わなかったか、なんて分かり切った事じゃない。
そう言ってルーンは憎しみを込めた顔をする。
「農民たちの采配に決まってるじゃない。
彼らは自分たちを追い詰めるような条件を飲んだ。でも、ただでは起きなかった。
未来の私たちをも巻き込んで弱体化させたのよ。そして、いつかの時に備えた」
それが今回の事件よ、と言うと、彼女は悔しそうに唇を噛んだ。
「じゃあエルがいる可能性のある場所に行きましょうか」
そう言われて、初めて彼らはルーンが加わったことで移動魔法が使えるということに気づいた。
「準備とか必要ないの?」
「準備したって何にもならないでしょう。せめて種を蓄えるくらいよ。でも種は持てるだけ持っているからね」
さっさとしないと彼らが魔法使いに何をするか分からないしね、というと、アリス達の醸し出す雰囲気が変わる。
恐怖の表情をする彼女らに、ルーンは尻尾をむんずと掴んだ。
「にぎゃ‼」
「落ち着きなさい。私たちに出来ることを最大限する、ということが私たちの最善なのよ。焦ればあせっただけろくなことにならないわ」
掴まれた尻尾を必死に毛繕いして、アリス達は元気よく返事をする。
相手の情報や状況をある程度知れたのだから良いことにしよう、と切り替えた。
「じゃあ、移動魔法を使うわよ。ちゃんと私につかまっていてね」
捕えた彼らの縄を解いて彼らが走り去っていくのを見ると、早速ルーンは移動の準備をしてアリス達にしがみつけさせた。
「いくわよーー! 一、二の、三!」
彼女が杖を振ると、彼女たちに凄まじい力、重力のように下に引っ張られる力が加わり、目を瞑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます