第24話 手がかり

「じゃあ、とりあえず一旦ここで待ってればいいね」


「お世話になります」


 そんなにかしこまらないでよ、とルーンはくすぐったそうに笑う。


「……いや、空気読んでよ。早くない?」

 ルーンが意味の分からないことを言って種を投げつけるのと、外から何か明るいものが飛んでくるのとが同時で、家の壁辺りで光が爆ぜた。



 家の壁が取り払われ、敵の姿が良く見えた。


 確かに、魔法使いとは匂いの違う、農民と思われる人たちだった。

 服は何度も洗濯してくしゃくしゃになっており、それを正す暇もないほど土作業をしたと思われる爪をしていた。


 皆はというと、咄嗟にアリスが張った防御壁に守られていた。反応することすらできなかったミシェルがイライラと毛繕いをしていた。


「誰なのかしら?」

 分かり切ったことを聞くなとばかりにまた仕掛けてくる彼らに、アリスは反射的に肉迫し、不意を突かれた農民に肉球を押し付け、押し倒した。それと同時に植物を彼らに巻き付け、動きの一切を封じた。

 敵は動こうと力をひとしきり入れた後、観念したように動かなくなった。


「さあて、事情を聞かせてもらいましょうか」

 ルーンが凄まじい迫力と共に言うと、農民たちは震えあがった。



「力を尽くして出した大技にかからなかった私を拘束する役割ってことは、あなたたち結構力は上の方なのよね?」

 無言を貫く農民たちに、ルーンはもう一度、どすの利いた声で呟く。


「そうなのよね?」

 その迫力に押されながらも黙っている農民に、アリスが前に出る。


「そうなの?」

 瞳孔の開ききった目で問うと、予想以上に怖がられてしまい、早口に答えられてしまった。


「私たちはただの魔力が高い農民なんだよ。

 魔力が高いということで農民にもあまり受け入れられていなかったんだが、この事件のおかげでかなり身分が上がったにすぎない。

 あまり政治には関わっていないから今回の件に関して全く知らないんだ」


「そりゃお気の毒にね……」

 本気で同情するルーンを横目に、ノエルが言う。


「姐さん、とりあえず皆の場所を聞かないと」


「ああ、そうだったそうだった」

 ルーンは雰囲気をがらりと変えて、聞く。


「皆を消すときに手伝ったはずよね? 皆をどこにやったの?」

 農民たちは顔を見合わせて譲り合い、一番気の弱そうな人がおどおどと喋り出す。


「どこにって言われても……僕らは力を貸したにすぎないので……」


「分からないっていうのかしら?」

 はい……と渋く言う彼に嘘をつく度量はないと分かり、ルーンは質問を変える。


「彼女らを消すために魔術を使った人の事は知っているわよね?」

 それを聞くと、恐怖で顔を真っ白く白粉を塗ったようになった。


「それは……」


「その人は、私たちより怖いっていうの?」

 アリスが精いっぱい怖い声で言ってやると、彼はスラスラと喋り出す。


「エル、と呼ばれている男です。彼は、中央の土地にいます」


「彼はどんな外見なの?」


「長い茶髪のがっちり体系で見るからに農民、という方です。目は黄色、背は僕より少し高いくらいです」


「じゃあ一六〇後半くらいか……」

 ルーンはどこか含んだような顔をして考え込む。


「心当たりがあるのですか?」

 ミシェルが聞くと、ルーンは首を横に振った。


「農民には友人がいるからな。そいつから聞いた人たちの間にそいつはいなかったな。

 その人は東方面だったから、そっち出じゃないんだろ。どこ出なんだ?」


「西方面が出自だと聞いています」


「今はどこにいるんだ?」

 ルーンが聞くと、途端に渋い顔になった。


「どこにいるんだ?」


「それが……どこかに姿を隠してしまって……僕らにすら場所は分からないのです」


 他の者を睨みつけるが、誰も答えるものはいなく、目を逸らしてしまった。


 アリスを見ると、首を横に振った。嘘をついていないという合図である。アリスはそういう魔法も得意としているのだ。


「じゃあ、彼はあなたたちにすら心を許していないのね。

 他に誰かその人と仲がいい人はいないの?」

 そう聞くと呻っていたが、やはり心当たりはないという。


「まさかの手詰まりね……」


 ノエルが口を開く。

「その人が姿を隠す場所っていうのは、ルーンさんに詮索できないんですか?」


「場所が原因で出来ないのよね……」

 探知がきかなくなる魔力が常に漂っているような場所があるのよ、というと、ノエルは晴れやかな目で言った。


「じゃあ、その探知できない場所と、その人が魔法を使った場所から移動できる距離をかみ合わせれば、何とか絞り込めるんじゃないですか?」


 移動魔法を使える農民はいるのかい? と聞くと、農民の男たちは首を横に振った。


「ノエル、あなた天才じゃないかしら?」


 いやぁ、と頭を掻いている彼に、アリスが飛びつく。


「ありがとう‼」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る