第23話 閑話休題
家の中に入るとすぐに、魔法使い特有のふんわりとした薬草の香りを嗅ぎ取り、アリス達はやっと力を抜いた。
体に力が入っていたことすら分からなかったアリス達が驚いていると、けたけたとルーンは笑っていた。
「今日はとりあえず話すのはこの辺にして、ゆっくり休んで。明日山ほど議論するから、そのつもりでね」
そう言うとルーンは台所に歩いて行った。
紅茶やお菓子が出そろい、午後のお茶会が始まると、これが久しぶりのお茶会ということを思い返し、しみじみと紅茶を口に含んだ。
「⁉」
その味に思わず吹き出してしまいそうになって、慌てて強引に飲み込んだ。そんな皆に気が付き、ルーンが顔を顰める。
「ん? 変なものは入っていないと思うんだけどね……」
「……何を入れたんです?」
えっと、と言ってルーンが並べ立てたそれらは明らかに紅茶に使う茶葉ではなく、疲労を回復させる薬草の数々だった。
茶葉であっても入れすぎだ。
だが、出されたものは全ていただけ、という教育を受けていた皆は、覚悟を決め、一気に飲み干した。
「にゃあああ……」
すごい声で勝利の雄たけびを上げる皆に、ルーンは一周回って面白そうに自分の分を顔色一つ変えずに飲んでいた。
ふわふわのベットに横になると、信用できる人が傍にいるという安心感ですぐに眠気がやってきて、彼女らはたっぷりと寝ることが出来た。
次に起きたのは、また暗くなったところだった。外が暗いことに疑問を持ち、寝に入ろうとして、気づく。
「もしかして一日以上寝てる⁉」
アリスが飛び起きると、皆もびっくりして飛び上がった。
「うにゃにゃ⁉」
「どうしたんだアリス」
むにゃむにゃと起きてくる皆に説明すると、皆は顔色と表情が凄まじいことになった。
超特急で着替えを済ませ、一階で寝ているはずのルーンを見に行くと、彼女は面白そうにアリス達の方を眺めていた。
「いやーあなた達、よく寝たね」
良いことだ良いことだ、と言われて皆が俯くと、ルーンは慌てて言った。
「いや、別に子ども扱いしてるとか、責めてるとかじゃないんだ。えーと」
なんて言ったらいいのか、と頭をがりがりと毛繕いをするように掻きまわした。
「久しぶりの客人の来訪が嬉しくて、ついからかってしまうだけだよ」
「いや、それもそれで凹むぞ」
ミシェルが鋭く突っ込むと、ルーンは嬉しそうな顔になった。
この人どれだけ会話に飢えているんだ、と皆が彼女の秘密を知ってしまったような居心地の悪さを抱えていると、彼女は今までと打って変わって、厳しい声で喋り始めた。
「じゃあ、作戦会議といきましょうか」
「多分、ここで待ってれば敵が自ずと来てくれると思うのよね」
あっさりそう言ってみせるルーンに、皆は半ばパニックになる。
「どういうことです⁉」
アリスが聞くと、ルーンはおもちゃで遊ぶ子供のような顔をした。
「どういうことでしょう?」
そう言って、ミシェルを手で指した。
「……元々危険分子をいなくならせるために行った術。
ルーン様が術をはじき返したということを相手は知っているから、それを無視できずに、直接手を下そうとやってくる、ということでしょうか」
当ったり、と楽しそうに言うルーンに皆が愕然とする。
「めちゃくちゃ危ないじゃないですか⁉」
アリスが悲鳴に近い声を漏らすと、ルーンはけらけらと笑ってみせた。
「大丈夫大丈夫。私やアリスよりは弱い連中ばかりだよ」
そうは言っても……と弱音をはくアリスの背中をもふもふと毛並みに沿って撫でるルーン。
ごろごろと気持ちよさそうなアリスに、ミシェルは、自分も自分もと背中を差し出す。
コロコロと笑って撫でまわすルーンに、ルビーが軌道修正をしにかかった。
「それで、襲いに来たらどうするんです?」
「えっと君は……」
ルビーです、ときびきび答える彼女に、ルーンはにこにこしながら答える。
「ルビーちゃんね。了解。君もこっちにいらっしゃいな」
「私は撫でられるのあまり得意じゃないので」
「背を撫でられるのは、でしょ?」
そう言うとルーンはルビーの口付近をこちょこちょと撫で始める。
気持ちよさそうに目を細める彼女を見て、ルーンも嬉しそうに目を細めた。
「襲いに来たら、その人たちを生け捕りにして、相手の位置を知る手掛かりに出来るじゃない?」
「あっなるほど」
ノエルが言うと、ルーンは彼を撫で始める。
「君は?」
「……ノエルです」
「……君はあまり主人に良くされなかったみたいだね……手当をしてあげるからおいで」
なんで分かったんですか? と絶句する彼に、触ればわかる、とルーンは言って、奥へと入っていった。
「こっちおいで」
そう言われると、彼は少し恐怖の表情を浮かべながら、恐る恐る奥へと入っていった。彼が完全に部屋に入って扉を閉めると、アリスが口を開く。
「彼、震えてたわね……大丈夫かしら」
心配そうに扉を眺めるアリスをミシェルが一蹴する。
「彼女に任せて無理なら誰だって無理だろ」
それもそうね、という二人の会話を聞いていたルビーが苦笑しつつ、心の中で同意した。それほどルーンが彼女を撫でる手は柔らかく、とても優しかった。
皆が主人を思い出して泣きそうになっていると、扉が開き、包帯でぐるぐる巻きにされたノエルが姿を見せた。
「むぐぐぐぐぐ」
思わず皆が笑ってしまうと、彼は不満そうに何かを言うが、それもむぐぐとしか聞こえずに皆で大笑いしてしまった。
「ちょっとノエル君。まだ手当ては終わってないよ」
後から出てきたルーンをさらりと躱し、彼と彼女の鬼ごっこが始まると、皆ではやし立てた。
「ぷはっ。ちょっと! 笑ってないで助けろよ!」
助けを求める困った表情を向けてくるが、皆その中に面白いという感情が見えたために誰もルーンを止める者はいなかった。
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