第19話 動物の街

「全く、腕のいい何でも屋に頼んだはずなのに、とんだ外れくじだったよ」

 アリスが目を覚ますと、目の前に鉄の棒が見える。どうやらアリス達は檻に入れられているらしく、その外に眠る前に見た獏がのんびりと剣を磨いていた。


「ああ、目が覚めたかい。さすがに早いね」

 そう言って近寄ってくる獏に魔法をぶつけようと魔力を練る。だが、それは何故か霧散してしまう。


「集中できないだろ。これが僕の能力なんだよ」

 もうちょっとここにいようね、と甘く言ってくる獏に鳥肌を立てて、アリスは言う。


「ここから出しなさい」

 すると獏はのんびりと笑い出す。


「そんなことするわけないじゃないか。悪魔のお嬢さん?」

 そう言って、戦慄するアリスに近寄った。


「綺麗だ……」

 手を伸ばしてくる獏のそれにアリスは噛みつこうとしたが、寸前で手は引かれた。


「おお、危ない危ない」

 面白そうに言って、獏は檻の前から去って行ってしまう。どこかで扉の開く音が聞こえ、彼の声が響いた。


「ここで待っていてね、愛しの悪魔ちゃんとその仲間たち」

 後は無情にも扉の閉まる音が響くだけだった。


「ねえ! 皆起きて!」

 ミシェル達を起こそうと必死で引っ張ったり揺らしたりするが、彼らは全く起きてくれなかった。


「どうして……」

 アリスが途方に暮れていると、ぎゃあぎゃあという声が響いた。


「ここから出してくれ!」

 そう叫ぶ声に聞き覚えがあり、アリスは叫び返す。


「ハゲワシの獣人⁉ あなたがなんでここに⁉」

 すると、びっくりしたように一瞬の沈黙が落ちたあと、彼の声が返ってくる。


「知るもんか! 失敗したからと言ってここまでするのはやりすぎだろ! 何なんだあいつ!」

 そう言って数々の暴言を吐き捨てる彼に、アリスは状況を伝える。

「ミシェル達が起きないの! 何でか知ってる?」


「それはきっと魔力が足りないからだな! 俺のところのレオも……カメレオンの獣人の事だが……彼も起きないからな。彼はかなり魔力を消耗していたからな。疲れも溜まっていたんだろ。回復すれば目覚めるだろうさ」

 そう言われてアリスはやっと肩の力を抜いた。


「よかった……」

 泣きそうになるが、その涙を振り払う。


「私が動き回ったせいでこうなったんだもの。それに、彼の目的は私みたいだし。どうにかしてみんなだけでも逃がさなきゃ!」


「みんなだけでも、じゃないだろ、アリス」

 近くで声が聞こえ、アリスは飛び上がる。

「ミシェル!」

 起き上がった彼に抱き着くと、彼は、やれやれ、と言って応じてくれた。


「どういう状況だか分かるか? アリス」

 アリスが説明すると、ミシェルは考え出す。

「何とかして彼が戻ってくる前にここから出たいところだが……」

 檻をがしゃがしゃと揺らして渋い顔を作る。

「難しそうだな」


 鍵があるはずなんだが、と言って檻の外をキョロキョロ見回し始める。アリスとハゲワシも加わって探すが、どこにもそれらしきものはなかった。そこでハゲワシの名前を聞いていなかったことを思い出し、アリスが聞く。

「そういえば、あなた、名前は? 私はアリス。こっちはミシェルにルビーにノエルよ」


「俺はバナ。よろしく。というか、俺はお前らを連れ去ろうとしたやつだぜ? 仲良くするのは違うんじゃないか?」

 バナが言うと、アリスは首を傾げる。


「今は同じ目的を持っているんだし、別にいいわよ」

 あっけらかんと答えるアリスに、バナは笑い声をあげる。


「アリスはいつだってそうなんだ。危険を顧みずに人と仲良くなってしまう」

ミシェルが言うと、お前も苦労人だな、とバナが苦笑いを返した。


「とにかくここから出るまでは仲間ってことで協力し合いましょうか」

 ミシェルが言うと、彼は頷く。とはいえ、脱出するイメ―ジが全くわかない。


「魔力はあるから何とか発動できればいいんだけど……」

 そう言って気づく。

「あれ? さっきの獏は俺の能力って言ってたけど、それってこんなに持続性があるものなのかしら?」

 ミシェルが彼女の言葉に反応する。


「そうだ! あいつはここを離れたから無理をすれば魔法が使えるかもしれない!」

 そう言って、あるものを取り出す。

「それは?」


「アリスがリリィからもらっていた魔法無力化のネックレスだ。かけらであってもこれは使えるから拾っておいた」

 これをこうして……と言ってミシェルはどんどんとその粉々になった石をなるべく丁寧に合わせていく。それごとにどんどん魔力の力を感じていった。


「魔法の道具は壊された後、魔力を放出する性質をもつようになるからな。これを使って杖代わりにすればアリスの魔法も安定するかもしれない」


 彼は黙々とそれを組み立てていく。別の命が宿っているようにすらすらと動くその手をアリスが見ていると、視線を感じたミシェルに、集中できない、と言われて渋々目を逸らした。

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