第17話 真実の糸口
「お前、ぜってぇ許さねえ」
殺気すらのせるノエルに、オビは完全に迫力負けしていた。だが、彼は気丈に叫び声を上げる。
「お前こそ、許さねぇぞ。何だお前、ルビーの何なんだ。彼女は俺らと一緒に来てくれると思ったのに。お前のせいだろ」
「は?」
青筋を立てて言うノエルに、オビは叫ぶ。
「だから、俺らは魔術師側なんだよ! 俺らの主人は魔術師だ!」
「なっ⁉」
完全に不意打ちな情報にアリス達は動揺する。魔術師は国の周りから出ないのではなかったのか。
「周りに居ろって言われて愁傷に周りにいる奴ばかりだと思ってんのか。おめでたいやつらだな!」
確かに、とアリス達は納得する。
「じゃあ、今回の主人失踪事件の犯人は魔術師ということでいいのか?」
「当たり前だろ! 主人たち以外の誰がこんなことできるってんだ!」
誇り高そうに胸を張る彼に、ノエルは呆れた声を出す。
「なんでそんなことを胸を張って言えるのか分けわかんねぇ」
そう言って挑発するようにハッと笑う彼に、オビはまんまとのって青筋を立てる。だが、真っ正面から向かってくるほど馬鹿ではなかったらしく、ギリギリと歯を噛みしめる。
「お前ら、そんなに余裕を持っていられるのも今の内だぞ」
そうオビが言うと、窓の外に続々と魔術師や獣人が出てくるのが見えた。
「大人しくしておいた方が身のためだ」
そう言って笑う。
「まあ、大人しくしていたからと言って、無事にすむという保証はないけどな」
そう言って笑うオビに、ルビーが声をかける。
「オビ……何でこんなこと……」
彼女の口から出たとは思えない虚弱な声にアリス達が驚く中、オビは高笑いをする。
「何でもなにも、俺たちを無意識に下に思っている魔法使い達ばかりなんだ、不満がたまるのも当たり前だろう」
「でも、この土地を渡したのも魔法使いだろう」
ミシェルが言うと、オビはギリリと歯を鳴らす。
「あいつらが俺らに土地を渡すわけがないだろ。俺らはこの土地を奪い取ったんだ。ここは正真正銘俺らの土地だ」
あまりにも傍若無人な行動に、アリス達は絶句する。
「なんて酷いことを」
「どっちがだ! 俺らから土地を奪い取って周りに追いやっておいて何を言ってやがる!」
「それを提案したのは戦争を仕掛けた側の魔術師たちよ!」
そうか、お前らはそう教えられているのか、と言ったオビの表情に、嫌な予感を覚えると、オビは口を開く。
「俺らが伝え聞いているのは、魔法使いが戦いを挑んできて、魔術師が周りに追いやられた、という歴史さ」
さて、どちらが正しいんだろうな? と言って笑うオビを信じられないという面持ちでルビーは見ていた。
「オビ、今ならまだ間にあう。私たちの主人を返して」
「嫌に決まってんだろうが」
昼間の言葉遣いとは全く違う彼の言葉に、ルビーは下を向く。顔を上げた時の彼女は、いつものようにまっすぐ前を向いていた。
「じゃあ、力づくでも返してもらうわ」
そう言うと彼女はばさりと翼を広げた。
「風よ!」
一言彼女が言うと、アリスが出した風とは別格のとてつもない嵐が吹き荒れた。
「ぎゃあ!」
家が吹き飛び、家の中に居た人たちが勢いで押し出された。うまい具合にアリス達を避けた風は、彼らを拘束する。
周りに強い風が吹き荒れ動けなくなった彼らは、必死に同じ風の魔法を繰り出す。彼女の魔法から逃れられた者も多く、その人達がアリス達に猛攻撃を仕掛けてくる。
「火よ!」
アリスが叫ぶと、ルビーの風に後押しされた炎がそこら中に吹き荒れた。
「水よ!全てを呑み込む清らな水の聖霊よ! 私に力をお貸しください!」
そう叫んだ男の周りに水が出現し、周りにあったアリスの炎を続々と消していく。
アリスの死角に潜り込んだ魔術師が彼女に向かって木の鞭を叩き込む。
「きゃあ!」
吹き飛ばされたアリスを見て、乱戦状態で動きにくそうに魔法を繰り出していたミシェルがキレた。
「火よ」
呟いた瞬間、竜の形をした炎が縦横無尽に場を回った。
慌てて水魔法で鎮火させようとする農民の目の前に現れたのは、火の中にいた緑の植物で作られた竜だった。
火を鎮火させたもののその中に居たそれに跳ね飛ばされ、続々と農民は意識を手放していく。
それに慌てたオビが魔法を使おうとすると、目の前に真っ暗な闇が広がった。
「あんたの相手は俺だよ」
ノエルは彼が魔法を発動させる前に影で彼を包み込み、口と鼻を塞ぐ。オビが失神したのを確認して、ノエルは影をひっこめた。
「大丈夫か、ルビー?」
「大丈夫よ、ありがとう、ノエル」
そう言った彼女は少し涙声だった。
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