第16話 本音と成長

 もぐもぐと美味しそうに食べていると、オビが店の外に出てきた。

 オビが中に向かって叫ぶと、中からオビとそっくりな男が出てきて、ソーセージを裏返し始めた。


「あれはお兄さん?」

 アリスが聞くと、オビは、ああ、と言って笑った。


「俺は町長の烏だったからな。だから、町に入ってきた君たちみたいな人を警戒する役目を負っている。

 さっきは見回りの途中で、その時は兄が店を守ってくれてるってわけさ」


 本当はずっと店に居たいけど、仕方ない、と言って、オビは寂しそうに笑う。


「前はこの見回りは主人がやっていたんだけど、彼がいなくなってしまったからな……」

 そう言って寂しそうにするオビはルビーに抱き着いた。あまりにも急な展開についていけないルビーが固まっていると、オビはすぐに手を離した。


「すまん。どうしても寂しさが消えなくて……」

 そう言ってしょんもりと下を向くオビに、ルビーは焦ってフォローを入れる。


「胸を貸すくらい、いつでもやってあげるわよ」

 少し恥ずかしそうに言うと、オビは本当に嬉しそうな顔になり、ありがとう、と言って笑ってみせた。



「ねえルビー」

 一日中オビに町を案内してもらって、その間に彼は何度もルビーにスキンシップをとっていた。

 そのことが気になり、話しかけようとするアリスだが、幸せそうな彼女の顔を見ていると、言葉が出てこなくなってしまった。


「なあに?」

 聞き返され、なんでもない、と言って、オビが用意してくれた豪華な宿のベットに潜り込んだ。

 前にからかわれたのを根に持っているのか、今回はアリスはミシェルとではなくルビーと同室になっていた。


「……今までノエルと同室にしちゃってたけど、男女が一緒の部屋って普通におかしいわよね。ごめんね」

 アリスは結局別の話題に逃げることにした。


「ああ、そんなの大丈夫よ。私と彼に間違い何て起こるはずも無いし、起こりそうになったらこの羽で」

 そう言って彼女は自慢の羽をばさりと広げる。


「蹴散らしてやるわよ」


「それでも女の子なんだから、あんまり無理しないでね?」

 アリスが言うと、良い子ねー! と言って飛びかかられた。

 二人でじゃれ合っていると、コンコンと扉を叩く音が聞こえる。はーい! と答えると、オビが入ってきた。


「あれっ。お邪魔だったかな?」

 面白いおもちゃを見つけたとばかりに顔を緩ませてそう言うと、オビは出て行ってしまった。


「ちょっと! オビ!」

 ルビーが慌てて追いかけていくと、少し静かな時間が流れる。次に扉から少し顔を見せたルビーは顔を赤く染めていた。


「あの……ちょっと風に当ってくるわね……」

 アリスが笑って了承すると、ルビーは、ごめんね、と言って部屋を出ていった。


 彼女が戻ってくるまで起きていて話を聞こうと思っていたのに眠気に負けたアリスは、カサカサという音で目覚めた。闇の中で目を開けると、昼間オビの兄と紹介された男が立っていた。


 悲鳴を上げながら、アリスが咄嗟に杖に手を伸ばすのと、男がアリスの手をひねり上げるのが同時だった。


「痛いっ‼」

 余りの力に叫んでも、男は力を緩めない。それどころか力をさらに加えてくる男に本気で防衛本能が警鐘を鳴らした。


「風よ」

 アリスが杖を持ちもしないまま呟くと、男は不審な顔になった。だが、次の瞬間、アリスの周りに暴風が吹き荒れた。

 それに呑まれて吹き飛びタンスの角に頭をぶつけた彼は、ぐっ、と声を漏らして動かなくなった。


 荒い息を整えようと必死で毛繕いをしていると、悲鳴を聞きつけたのか、ミシェルとノエルが部屋に駆け込んできた。


 部屋の大惨事を見ると、何があった、とすぐに心配してくれるミシェルに抱き着き、事情を話すと、彼はすぐに結論を出した。


「ルビーが危ないかもしれない。彼女を探そう。今まで見た人たち全員が敵と言う可能性もある。

 離れないように三人でいくぞ」


 彼女がまだふるえているのを見て、ミシェルが彼女を抱え上げる。今度は彼女は何も言わなかった。それほどまでに怖い思いをしたのだと分かって、ミシェルは瞳孔を広げる。


 どこに向かったらいいのか見当もつかず、適当に昼間賑やかだった商店街や広場などを見て回るが、そこには誰の気配も感じられなかった。


「あんなに大勢、どこへいったのかしら……」

 町の中にはあまり大勢泊まれるような施設はなく、皆家に帰っているにしては静まりかえる時間が早すぎた。

 その中で、一つだけ明かりが洩れている家があった。そこはオビの家だった。


「やっときたか」

 家に入ると、オビがルビーの首にナイフを当てていた。ルビーの目には涙が浮かんでいて、それでも彼女は強い瞳で彼を見据えていた。


「ルビーを離して」

 地が震えるような低い声でアリスが忠告すると、オビはおかしそうに笑った。今度の笑みは歪みきっていた。


「お前、意外と強いんだな。俺の兄を倒すなんて思わなかったよ」


「相手が悪すぎたんですよ」

 アリスをまだ背から降ろそうともしないミシェルに、アリスは少し背を叩いた。だが、それでもミシェルは背から降ろそうとしない。


「ルビーを離せ」

真後ろから声をかけられ、うろたえたオビの隙をつき、ノエルがルビーに向けられていたナイフを掴む。血が出るのも構わず、彼はそれを奪って放り投げた。


「ノエル!」

 ルビーの悲鳴が響くが、ノエルの目はオビから離れない。


「何をしようとしていたんだ、お前」

 口調が前のものに戻りつつあるノエルに、オビが怯む。

 それと同時に彼は地を蹴ってオビに接近した。拳を頬に叩き込むと、彼は吹き飛んだ。

 ノエルは所在なさそうにしているルビーを引き寄せる。


「そばにいろ」

 ノエルが言うと、ルビーは涙を見せまいと顔を下げた。

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