第15話 ビールの街
別れの日、アリス達は酔いつぶれたみんなに惜しまれつつ、旅へと戻った。
「……寂しいわね」
「またいつか会えるさ」
ミシェルがアリスの頭を撫でると、アリスはミシェルの手に頭を擦り付ける。
「……ねえ、前から思ってたんだけど、アリスとミシェルって付き合ってるの? あなた達、寝る時も普通に一緒じゃない」
ルビーの言葉に一瞬の沈黙が訪れた後、彼女らは顔を真っ赤にして反論する。
「ありえないわよ! ミシェルに私は勿体ないわ!」
「アリスに私は勿体ないですよ!」
同じような事を同時に言うアリス達に、ルビーとノエルが意味深な笑顔を向けると、彼女たちはぷいとそっぽを向いて拗ねてしまった。
「何よ、むしろあなた達の方が怪しいと思うんだけど」
アリスが言うと、渡りに船とばかりにミシェルが同意する。
「あなたたち、距離がかなり近いんですよねぇ」
そう言ってルビーを見ると、彼女は予想外の顔をしていた。
悲しいような懐かしむような、そんな表情をして遠くを見るルビーに、アリス達は驚いてしまって言葉が出てこなかった。
それほどまでに、彼女の真っ直ぐな気持ちが表情に溢れていた。
「次の町に、私の想い人がいるの。皆に紹介するわね」
そう笑顔を作って言う彼女に、皆は頷いた。ノエルは彼女の方を向いて、微妙な笑みを浮かべていた。
「次の町はなにかしら?」
アリスが無理やり話を変えると、皆の安心したようなため息がこぼれた。
「次はビールが沢山ある町、ということだ」
「ビール⁉」
大声を上げたのはノエルだった。先ほどまでの憂鬱な表情はどこへやら、彼は顔を輝かせていた。
「飲んでもいいよな⁉ なっ⁉」
予想以上に食いついたノエルを引きはがすようにミシェルは格闘していた。
「常識の範疇なら飲んでもいいですよ。ですが突然戦闘になることも考えて、いつもより控えめにしてもらえると助かります」
そのミシェルの言葉を聞いてはしゃぎまわるノエルをアリスとルビーが笑って眺めていた。
「そんなにビール好きなの?」
ルビーが聞くと、ノエルははしゃぎすぎたことを恥じるように下を向いて言った。
「うん……かなり好き」
そう言ったノエルがあまりにも子供っぽくて、皆を和ませた。
「ソーセージも有名みたいだ」
「私たちはそっちね」
酒が飲めない体質のアリスとルビーが頷きあう。
「あっ、二人は飲めないのか……」
ノエルがしおらしく言うと、ルビーは彼の頭を撫で回す。
「私たちに気を使わないの! 大丈夫だから沢山飲みなさい!」
そう言われて、ふにゃりと顔を緩めるノエルには最初の険はなりを潜めていた。
「とりあえずは私の想い人兼親友のところに案内するわね」
そう言ったルビーに釘を刺される。
「まだ告白とかはしてないから、そういう話題は禁止ね」
こんなに大人っぽいルビーの思いもよらぬ可愛らしさを目にしてアリス達は心の中で微笑んだ。
ルビーは迷うことなく人通りの全くない道路を歩いていき、ある家の前で止まった。
「ここよ」
何のためらいもなく、気負いもなく扉を開けるルビーに、皆の方が緊張していたが、中から誰も出てこないのが分かると、その緊張を解いた。
「オビ?」
どうやらオビというらしい男は家のどこを探してもいなかった。
ルビーはタンスの中やベットの下なども探したが、どこにもいない。
「きっと今までのみんなのようにどこかで集まっているのよきっと」
そう言ってアリスが励ますが、彼女の白い顔は治らなかった。
集会場を探そうと言ってアリス達が家から道路に出ると、すさまじい光が目の前に広がった。
「敵か⁉」
彼女たちが身構えると、ルビーだけが警戒を解いた。
「オビ‼」
「あれ、なんだ! ルビーじゃないか!」
光が徐々に男の手に戻っていき、完全に消えると、そこには爽やかな笑顔を携えた白髪の男が立っていた。
高いすっとした鼻、笑い顔が映える青いタレ眼など、彼はとってもかっこよかった。
「紹介するわね。アリスにミシェル、ノエルよ」
初めまして、と言うと、男は一層目を和ませて答える。
「俺はオビっていうんだ! よろしくな!」
彼に付いて、町中を案内してもらった。
家の方からどんどんと歩いていくと、賑やかな声が聞こえだした。
皆が驚いているのを面白そうにオビは見て、芝居じみた動作で商店街へアリス達を招き入れる。
「ようこそ、我が厳格なる町へ」
そこから見えた景色にアリス達は思わず歓声を上げる。
賑やかな声が聞こえて、どこもかしこもちゃんと獣人が店を切り盛りしている様子が目に映る。
客も沢山いて、それが獣人だけ、と言うこと以外は日常の風景だった。
「どうして獣人だけでこんなことが出来るの⁉」
ルビーが驚いて言うと、オビはにこりと笑って、彼女を愛おしそうに眺めた。
「他の町はどうなっているのか知らないけど、元々この町では魔法使いと言っても力が弱い者が多かったからか、獣人と魔法使いの身分は変わらない。
皆が皆、なにかしらの職を持っていたからな」
そうは言っても人手不足には変わりないが、と言うオビに、いつもはこれ以上に栄えていたのかとアリスとミシェルが驚いた。
「君たちの町はどんな感じだったんだい?」
そう問われ、今まで自分たちがどんなに魔法に頼ってきたのかがありありと見えた。
「私たちの町では魔法を使って薬を調合して周りの町に卸したり、卸売業者に売って生計を立てる人がほとんどだったわ。
いくつか専門店はあるけど、こんな風に出店というわけではなくて、家に入ってもらってサービスを提供する、という形だったから驚いてしまって……」
「そうなのか! それもそれで楽しそうだが、俺はやっぱり自分で作ったものは自分で売りたいな!」
そう言うと、彼はその出店の中の一つに入っていった。
「いらっしゃい! 安くしとくよ」
そう言った彼の前に置かれていたのは美味しそうな匂いを漂わせるソーセージだった。
鉄板に置かれたものもあり、ジュウジュウという音を聞いているだけで唾が出そうになる。
「四つください!」
堪らなくなってアリスが頼むと、まいどありっ、というオビの元気のいい声が響いた。
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