第14話 給仕役
「よくやっているようだな」
その様子を見に来てくれたエナが声を掛けてくれた。彼は町の人の指示により長に収まっていた。
「じゃあオリジナルピザを」
「はーい!」
アリスが元気よく注文を聞いて、厨房へと駆けて行った。
「おいアリス! 危ないから走るなとあれほど言ったじゃないか!」
ミシェルが言うと、アリスは、ごめんごめん! と言って早歩きになった。
まだ早い……と言うミシェルの声を聞いて、エナは少し笑う。
「ミシェルは相変わらず心配性なんだな」
「お母さん、って呼ばれているのよ!」
アリスが厨房から料理をたんまりと持ってきて言うと、ミシェルの動きが止まる。
「アリスー?」
彼の怒りを察知したのか、アリスは、忙しい忙しいと言いながら他の席へと去っていった。
「意外と働くこと慣れてるんだな」
そう言うと、ミシェルは笑う。
「俺らは結構バイトとかするからな。唯一の懸念材料は……」
そう言ってみた先に、意外な人物がいる。
「ぎゃっ‼」
悲鳴を上げるノエルに嫌な予感がすると、ガシャン! という音が響く。
その音を聞いても、またか、としか思えなくなっている自分を心の中で叱りつけながら、ミシェルはエナにことわってノエルの方へ向かった。
怪我は、と聞くと、申し訳なさそうにしょげるノエルと目が合った。
「ちょっと何してるの⁉」
すっ飛んできたレストランの店主の使い魔である猫のミーが奥から姿を見せた。
謝り倒すノエルとミシェルに、ミーはため息を深々とついた。
「ごめんなさい。あなたは今日限りでやめてくれないかしら?」
クビを言い渡され、ますますしょげるかと思いきや、ノエルは口を開いた。
「キッチンを任せてはくれませんか?」
「えっ⁉」
全力で不安な顔をする彼女に、ノエルが必死に言い寄る。
「料理を作ったことはあるんです! 中々の腕前をしていると自負しております! お願いします!」
その熱意に負けたのか、彼女はノエルをキッチンへと回した。
「……大丈夫なのか?」
そう言うエナに返す言葉が見当たらなかった。
「出来ました!」
料理を手渡してくるノエルに、アリスが恐る恐る皿を覗くと、そこには本当に美味しそうな料理がのっかっていた。
「なんだ! 料理は上手じゃない!」
覗き込んできたミーにグッドサインをもらい、ノエルは尻尾をぴょいぴょい動かしていた。
「俺は主に料理担当で、ミリーが片付け担当だったので……」
そう言って自分で凹んでしまう。
「ミリー……」
「ちょっと! 手を止めないで! お客様をお待たせしちゃダメ!」
叱られるがどこか温かいその言葉に背を押され、ノエルはまた手をさっさかと動かしだした。
旅の資金が尽きた今、食事はともかくお金がないと大変だというミシェルの言葉に従い、アリス達は一カ月ほどレストランで働き、資金を増やした。
ミーに聞くと、この次の次に控えている砂漠と言う場所ではラクダという生き物に乗らないとやっていけないらしい。
そのラクダを借りる費用がかなり高いということで、主人を心配する気持ちを何とか押し込めて、アリス達はがむしゃらに働いた。
最終日、ミーが宴会を設けてくれた。
「えーじゃあ、宴会を始めます! 今日まで頑張ってくれたみんなに! そして、これから主人を探す旅に出かける皆に!」
「かんぱーい‼」
アリス達はよく飲み良く食べ良く踊った。
それに惹かれたのか、長の騒ぎでアリス達を知っていたのか、多くの人が集まっていた。
内心、アリス達は何か主人の情報でも集められないかと思っていたが、何もそのような話題は出なかった。
その代わり、リリィの師匠、ルーンについての話は聞かせてもらった。
「彼女はとても偏屈で、誰にも気を許さない人だから、油断しちゃだめよ」
師匠ということで悪口を言うようで悪いけど、との前置きの後そう言われ、アリスは怒るというより驚いてしまった。
アリスの頭の中に居る彼女はとても人好きで、変わってはいるものの、心を割って話してくれるというイメージだった。
「心にとどめておくわね、ありがとう」
心の底から礼を言うと、いいえ、と言ってその人は宴会の輪の中に入っていった。
「どういうことかしら……」
「ルーンさんだって人の好き嫌いはある、ってことだろ」
宴に酔ったミシェルが楽しそうに言うと、アリスは、そうよね、と言って自分も宴会の中に飛び込んでいった。
「あーー楽しかった!」
まだドキドキ言っている胸をなんとかしずめながら、アリスが言うと、皆がブンブンと首を縦に振る。
「本当にな! こんなの初めてだ! それに、別れを惜しまれるとは思わなかった!」
ノエルが言うと、また皆で頷き合った。
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