第13話 熱い怒り
そう言うと、一斉に向かってきた獣人たちを素手で殴り倒していった。
それは慣れたすさまじい動きだった。素手で戦ったことのない三匹でも分かるほどにそれは超越していて、誰も手が出ない。
気づくとボス一人になった戦場には獣人の血が散らばっていた。その匂いで興奮したボスが上機嫌に言う。
「お前! 中々骨のあるやつだな! 俺と一緒にここの町を締めないか?」
純粋に勧誘してきたボスにため息を返し、ノエルは言った。
「お前なんかとは頼まれても一緒に居たくない」
そう言って、彼は大きな大きな闇魔法を出現させた。
「ほら、かかってこいよ」
挑発するノエルに答え、ボスも闇魔法を展開させるが、それは月とすっぽんだった。
大きさの全く足りていないボスの闇魔法がノエルのそれに飲み込まれた直後、ボスは負けを認めた。
「ちょっとノエル⁉ エナをボスにするんじゃなかったの⁉ あなたが止めをさしたらあなたがボスになるしかないじゃない!」
そう言うと、それもいいかもしれないですね、とノエルが悪戯っぽい笑みで言う。半分その気で言っていることを読み取り焦るアリス達に、ノエルは首を振った。
「俺が長になるということはないので安心してください。僕はただ、妹を人質にとる、ということが地雷だっただけなんですから」
戦いを続けてください、と言って雑にボスとエナを舞台上に上がらせ、彼は眠そうにあくびをしていた。
「……ふざけんじゃねぇ」
ボスはそう言うと、ノエルの襟首をひっつかんで締め上げる。
「俺が負けるなんてありえねぇ。どんな細工をしやがったんだ?」
「ほんっとにかっこ悪いっすね、あんた」
ノエルが挑発するように言うと、ボスの拳が彼の頬にぶつかる。彼は血を吐き出しながら言葉を続ける。
「あんた、その力、どうやって手に入れたんだ?」
ノエルが問うと、ボスは反射で答えてしまう。
「ご主人に特訓されたんだよ。毎日毎日俺に稽古をつけてくれた! 主人は強くて優しいんだ。それなのに、町の人は農民の末裔とか言ってご主人を受け入れなかった。
だから、俺はこの町で長になって、戻ってきた主人に町長の座を用意しておくんだ」
その言葉の中にどれほどの気持ちが含まれていたのか分からないほどに悲痛な声でボスは話し込んだ。
「笑いたきゃ笑えよ。農民の血をひいているからなんだってんだ! そんなの関係ないだろ!」
「その通りだな」
ミシェルが口を挟む。
「お前なんかに何が分かる……」
グルル、と呻ってくるライオンを前に、猫は落ち着いて話を進める。
「分かるさ。俺の主人もハーフだ」
驚いたような顔で固まるボスに、ミシェルは口を出し続ける。
「農民だからといって最初は相手にされなかったが、徐々に皆の信頼を勝ち取った彼女はとても綺麗だった」
そう言って、彼を見る。
「お前の主人もそうだったんじゃないか?」
下を向いてしまうボスに、ミシェルは続ける。
「それをお前が壊していいはずがないだろう?」
そう言われた瞬間、彼は静かに泣き出した。その涙はとてもとても綺麗だった。
「巻き込んですまなかったな。何かお礼をしたいんだが」
そう言うボスに事情を話し、願いを言った。
「仕事を探しているのですが!」
「いやそこ、食べ物を要求すればいいんじゃないか?」
「でも町民に強制して作ったご飯より、自分で働いて作ってもらった料理の方が美味しそうだし!」
アリスがとんでもない理論をかますと、ボスは爆笑していた。
「じゃあ町で一番大きいレストランの給仕役が足りていないようだったから、そこに面接に行ってみればいいんじゃないか?」
そう言ったボスに案内をしてもらい、彼女たちは給仕役に徹することになった。
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