第12話 ボス
着いたその場は、集会場のようなところだった。
誰々を返せ! と叫んでいる人たちと、その人たちを怪我させる勢いで追い払っている獣人たちが小競り合いを起こしていた。
その中にエナが入っていくと、一斉に追い払う役を担っている獣人たちが怯んだ。
「どけ」
最初の雰囲気から一転し、かなりどすの利いた声で忠告するエナに、追い払う役の獣人は額に汗を浮かべつつ、襲い掛かった。
「風よ!」
追い払う役の獣人が杖を振るより早く風の魔法が吹き荒れ、彼らを一瞬で吹き飛ばし、その先に木の枝を操って剣のようにし、彼らの喉元につきつけた。
「どけ」
もう一度彼が言うと、追い払う役は目を合わせて頷き合い、こくりと首を縦に振った。
「どうぞ」
彼が広場を突っ切って城のような家に入っていくと、まず慌てて何人もの兵が出てきた。
それらをじゃれるように風で吹き飛ばし、エナは悠々と進んでいく。凄まじい勢いに、アリス達は付いていくのがやっとだった。
「邪魔するぞ」
広い部屋に行くと、掛け声の返事を待たずに彼は鍵の付いた部屋に鍵を壊しながら入っていった。
「なっ⁉」
慌てているのは力で頂点に立ったという乱暴者達だろう。
その中に、腰を掴まれて明らかに嫌がっている様子の女性が立っていた。掴んでいる男の顔には大きな張り手の跡がくっきりと刻まれていて、彼女の拒絶を表していた。
「リースを離せ」
「何だお前、リースの兄か、よく来たな」
奥から重心な声が聞こえ、エナが身構える。
「ボス!」
ボスと呼ばれたそいつは他に転がって料理を食べている者とはまた違った修羅の気配があった。
ライオンの獣人らしく髪はとても立派に金色に艶めき、風格を表していた。手足は頑丈そうで、いかにも猫科らしいしなやかさもあった。
「お前ら……リースを返せ」
「他の者たちが連れ去られた時はしらんぷりしていたのに、現金なやつだ全く」
あきれ顔を作って挑発してくるボスに、エナの青筋が広がる。
「今のうちに降参しておいた方が良いと思うけどな」
いまいち緊張感の足りないのんびりとした声が響く。
「グル⁉」
まさか追いかけてくるとは思わなかったエナが大声を上げる。
「はーい、グルだよ。何か手伝おうか? 有料だけど」
そう言って、グルは殴りかかってきた犬の獣人を躱し、杖を振る。彼がいるところの地面から木が生えてきて、その木は相手を殴り飛ばした。
とんでもない威力のそれを食らった犬はたまらず意識を手放した。
「乱暴だなぁ。苦手なタイプだよ」
ころころと笑って言う彼に、乱暴者たちの警戒心は引き上げられた。
「グル」
「なあに?」
乱暴者に囲まれても笑った表情を変えないグルに、エナは話しかける。
「後払いってできるか?」
「分割払いだってできるよ。利息がつくけどね」
そう言った瞬間に、グルの前に札束を出した。
「とりあえずこれで」
「やったーまいどあり」
そう言ったグルは、乱暴者たちを次々と地に倒れさせていった。
「てめぇ……」
参戦しようと体勢を変えるボスに、エナが声をかける。
「お前の相手は俺だろうが」
エナが杖を振ると、巨大な闇が出現した。それに反応して、ボスも同じ技を繰り出す。
二つの闇が衝突し、凄まじい豪風が吹き荒れた。その中で一歩も動かず直立のまま彼らは杖を振って実力を試す。
彼らの攻撃はほぼ互角で、勝負がつかない、と思った直後、ボスはちらりとリースを見た。
「やめろ‼」
何をするのか察知し、エナが肉迫しようとするも間に合わず、ボスは爪をリースに食い込ませた。
「お兄ちゃん……」
「はっは! こいつを守ろうと襲ってきたのにざまぁねえや。こいつに傷をつけたくなければ武装を解け。俺に魔法の種を全部よこせ」
そう言われてエナは唇を噛む。
「卑怯者……!」
「何とでも言え。俺は長になるんだ。お前ごときに足踏みしてられねぇんだよ」
「そのごときにそこまでさせられちゃあ世話ないですよね」
その声が真後ろから聞こえてきて、ボスは素早く後ろを切り裂く。
「やだなぁ。血の気多すぎない? カルシウムとろうよ」
そこにいたのはノエルだった。彼は爪からリースを離してさっと抱き寄せ、お姫様抱っこをしたまま後ろへジャンプした。
「人質を取るリーダなんて、そんなやつ俺はリーダー何て認めない」
凄まじい重圧がかかる。ノエルが醸し出す雰囲気が一気に変わった。
「何だお前! 自分が今何したのか分かってんのか⁉」
精一杯の虚勢を張って叫ぶボスに、ノエルは言う。
「だまれ」
その言葉の威力に、ボスですら固まってしまった。
「力の使いどころを間違えた挙句、人の妹を人質に、なんて、恥ずかしいとは思わないのか?」
挑発する気配など一切なしに、ノエルはひたすらに怒りを言葉に乗せる。
「力を持つ意味、もう一度考えてから出直してこい」
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