第9話 砂漠の洗礼
「やだなにこの暑さ……」
アリスが弱音を吐くのもうなずけるほど、砂漠というものは甘くなかった。
「ミーティアに乗せてもらって正解だったな」
「あら、当たり前じゃない。この中を人間の身体ででも、猫の姿ででも歩いて渡るなんて無謀にもほどがあるわ」
砂漠に入る前には、乗せてくれるラクダに頼むこと、というヒールの忠告に従って、アリス達はラクダのミーティアの背に乗せてもらっていた。
馬は何でも収納できるポシェットに入ってもらった。
皆日差しに負けてターバンを巻いていたが、猫にとって耳が隠れるそれを付けるのは拷問のようだった。しかも、とってもむしむしと蒸れる。
その上、不思議な揺れ方をするラクダに乗っているのはアリスとミシェルにとってかなりの重労働となっていた。
「それなのに夜になったらひんやりとするなんて、本当なのかしら」
「あなた、なんでも疑問に思うのね。いいことだわ」
アリスの言葉にうんうんとミーティアが頷く。
「もうほんっとにひんやりどころじゃなく寒くなるから、風邪ひかないように私がレクチャーしてあげるわよ」
「ひゃあああ! さっっっむい‼」
夜になった途端に体の芯から凍えそうな寒さになって、三匹は悲鳴を上げる。
「もう! なんなのよここ! あなたの主人のお師匠様、本当にこんなところに住んでるの⁉」
ルビーが悲鳴を上げるように叫ぶと、吸い込んだ肺が凍りそうなくらいに痛んだ。
ひぃっと悲鳴を上げるルビーに、アリスが、多分……と自信を無くして答えた。
「あってるよ。彼女が留守にしていなきゃ会えるさ」
「留守にしている可能性があるのね……」
心おられそうになったルビーが弱弱しい声を上げる。彼女は旅慣れをしていたものの、砂漠は主人の魔法でショートカットして進んでいたのだという。
それほど避けられている場所だと知って、アリス達はあまりの過酷さに体を擦り付け合った。
「まあ、彼女は未来予知ができるといっても過言ではないから、消されてなければいるんじゃないかしら」
「何その人。というよりそれって本当に人なの……?」
困惑の表情を浮かべる彼女を見て、心の中で、私も同じことを考えてたわ、と同意をした。
「アリス……アリス!」
ミシェルの小声でアリスは身を起こした。寝ている途中に起こすなんて、なんて無礼な、とノエルが怒っていると、鼻先を火が掠めた。
「ひぇ⁉」
そこにいたのは無数の悪魔。夜に出てきて旅人を翻弄する、メディア、という悪魔だった。
彼らは火の玉を休むことなく投げかけてくる。それらを全て消そうと呪文を唱え始めたアリスに、ミシェルは顔色を変えた。
「アリス! ここで大雨を降らす魔法なんか使えば、俺らは冷凍されるぞ⁉」
その叫び声に気を取られている隙に、悪魔がアリスの懐に入ってきた。
「ギャウ‼」
苛立った様子のアリスが杖を振ると、そこから出てきた物に悪魔は怯んだ。
それは裏の世界の住人しか出すことのできない、黒い泡の様な物。それを食らうと強制的に存在を消されてしまうという上位の悪魔が使える呪文だった。
「さっさと帰りなさい」
アリスがいつになく冷たい声で言うと、悪魔は顔を見合わせ、闇の穴を発現させ、裏の世界へと帰っていった。
「何で彼らがここに来られたのかしら……」
契約をしないと表の世界に来るのは不可能なはずの彼ら。ということは、誰かが彼らをアリス達に差し向けたということになる。
「魔法使いか、それとも魔術師か……」
ミシェルが考えていると、アリスは眠る体勢になっていた。
「おい、アリス?」
ミシェルが言うと、彼女は不機嫌そうに言う。
「近くに魔力がないから大丈夫よ。魔法使いか魔術師が遠距離で仕掛けてきたみたいね。だから、もうこれ以上喧嘩は売ってこないと思うわ」
おやすみ、と言ってすぐ眠りにつくアリスに、ミシェルは言う。
「見張り役、お前に交代の時間だ。起きろ」
「みゃあああ……」
猫は沢山寝るものなのに……とぶつぶつ言いながらも、アリスは起き上がって毛布を手繰り寄せ、遠くまで目を行き届かせた。
「頼むぞ」
そう言って眠りにつくミシェルを見て、アリスは幼少期の事を思い出していた。
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