第5話 悪魔たちの襲撃

「これじゃあ家にいけても意味なかったな……むしろ酷い結果になった。本当についてきてよかった」


 あくまで冷静に言うミシェルに、ミリーは青い顔を向ける。

 落ち着いている場合じゃない、と瞳で伝えてくるミリーの頭を彼はくしゃりと撫でた。


「僕たちに任せておいてください。あの家、あなたにとって大事なものなのですよね?

 出来る限りあの家も私たちが守らせていただきます」

 彼は、草むらから無造作に出て、悪魔の前に姿を見せる。一斉に襲い掛かってくる悪魔の前に、彼は光を灯らせた。

 彼の姿が歪み、とんでもない大きさの悪魔へと彼は形を変えてみせた。


「あっ!」

 堂々としたその姿に気圧され続々と帰っていく悪魔に、アリスたちは感嘆の声を上げる。

 最後の一匹が帰ると、ミシェルはすぐさま穴を探し始めた。アリス達も慌ててそれに加わり、色々な所を見て回る。

 すると、家の裏庭に小さな穴が開いているのを発見した。


「これを消すにはどうしたら……」

 そう言ってミシェルがアリスを振り返るのと、アリスが身を屈めるのとが同時だった。

 ふにっと唇に何かが当たり、一拍置いて、ミシェルが慌てだす。


「すまんアリス!」


「? 何のこと?」

 本気で分かっていないアリスは平常心で穴に手をかざした。


「? 何をして……」

 その瞬間、穴が霧散した。どうやったんだと問いかけてくる興味津々の目をアリスはかいくぐろうとしたものの、ミシェルの目からは逃れられなかった。


「私が悪魔だからよ」

 そう言ってやると、ミシェルは尻尾を垂らした。


「すまん……」

 必要以上に反省するミシェルにアリスがフォローを入れていると、ミリーが家の中に入っていった。


「おい‼ まだ悪魔がいるかも……」

 ミシェルの言葉は途中で打ち切られる。家から出てきた悪魔が尻尾をミシェルに振るい、彼は数メートル吹き飛ばされ、何とか受け身をとり、着地する。


「アリス!」

 ミシェルが呼んだ時にはすでにアリスはその悪魔に肉迫していた。また尻尾を振るってくる悪魔のそれを彼女は飛んで躱し、魔法を使おうと杖を振り上げる。


「危ない‼」

 戻ってくる尻尾の事を考えていなかったアリスが死角から攻撃を受けそうになったとき、咄嗟にミリーがアリスを突き飛ばす。

 地面にキスをしたアリスとミリーの頭上を悪魔の強力な尻尾が音を立てて通り過ぎていった。


「このっ‼」

 アリスがまた性懲りもなく肉迫すると、悪魔はまた尻尾を振ってくる。それを避け、戻ってくる尻尾も地に伏せて躱す。杖を振りかざすと、悪魔は口を大きく開けた。


「アリス‼」

 悪魔がアリスに炎を吐き出すと、それに怯むことなくアリスは水の鞭を発生させ、悪魔に叩きつけた。

 口の位置をずらされたことにより、炎はアリスを避け、アリスの真横の草が一斉に焦げる。苦手な水で攻撃されたことで怯んだ悪魔は穴を発生させ、裏の世界へと帰っていった。

 アリスは危ない目にあったにもかかわらず、猫としての本性を剥き出しにして呻っていた。


「アリス! 大丈夫か⁉」

 それを全く気に留めることもなくミシェルが近寄ると、アリスの唸り声が大きくなった。


「アリス‼」

 ミシェルが恐れることなくゆすると、アリスの焦点がどんどんミシェルに合っていった。


「ミシェル……」

 落ち着きを取り戻したアリスを見て、彼は柔らかく笑ってみせた。



 少し怯えた様子のミリーを宥め、アリス達は家の中を確認した。

「もう悪魔はいないようね」

「そうだな」


 ミシェルと確認を済ませると、ミリーが近寄ってきた。


「大丈夫……?」

 アリスの頬に手を添えて聞くミリーに少し顔を赤くさせるアリス。すると、ミリーは首を傾げる。


「熱がある……?」


「大丈夫よ! ありがとう」

 アリスが動揺を隠して言うと、ミリーは、良かった、と笑った。


「ありがとう。私はここでご主人を待つことにするわね」

 そう言ってミリーは紅茶を出してくれた。


「食料とかは大丈夫なの?」


「その時は町に出るから大丈夫よ。それくらいはご主人も許してくれると思うから」

 そう言ったミリーは家に入れたことでかなりリラックスしており、ここが一番彼女にとっていい場所なのだと悟らせられた。


「じゃあ私たちは町に向かうわね」


「ええ、ありがとう」

 和やかな顔をしたミリーに見送られ、アリス達は町へと向かった。

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