第4話 嫉妬

 食事を各々終え、自由に散らばりだす頃。由衣と響だけが、食堂に残っていた。由衣は、無我夢中でカレーライスと格闘している。

「由衣ちゃん、本当よく食べるわねぇ。美味しい?」

「響さんの料理は全部美味しいよ!すっごく!えへへ」

 口の端に米粒をつけながら、無邪気に笑う由衣に、響は微笑む。右手を伸ばすと、その米粒を取り、自らの口へいれた。

「ありがとう!響さん!夢中で食べちゃったから、気づかなかったよ!」

「ふふ、可愛いわねぇ。由衣ちゃんは。肌もこんなに綺麗で…いっぱい食べて…」

 憎い。可愛い。愛おしい。憎い。

「響さんの方が綺麗だよう。…カレー、まだおかわりある?」

「あるわよ。よそってくるわ」

「ありがとー!」

 喜ぶ由衣の声を背に、響は厨房へ向かう。鍋からカレーをよそる自分の手に、乾燥を感じて、吐き気を催した。由衣は若い。私は、若くない。綺麗でもない。滑らかな肌など、数年前に失ってしまった。紅花の美しい眼も、私は持っていない。憎い。美しい。欲しい。手には、入らない。憎い。憎い。

「お待たせ、由衣ちゃん。今日はこれで終わりよ?」

「えー。残念…ぁ、でもいっぱい食べちゃったから…また食べ過ぎって紅花さんに怒られちゃうかな…」

 しゅんとしながらスプーンを持つ由衣は、実年齢よりも随分と幼く見える。少女の可愛らしさ。私は、もう永遠に手に入れることができない、もの。

「大丈夫よ。紅花ちゃん、意外と優しい娘だから。怖かったら私が味方してあげるわ。由衣ちゃんはいつも美味しく私の料理を食べてくれて嬉しいの、ってね」

 響の言葉は本音だ。微笑みも本物だ。ただ、その奥に潜む思いを、知る者はいない。由衣の手を見る。自分の手を思い出す。…醜さに、吐き気がするのを、響は咬み殺した。

「響さん、ほんと優しくて大好きだよ。これからも、ご飯作ってね!」

「あら、ありがとう。食べたいものがあったらいつでも言ってね。あるものでできるなら、作るわよ」

 うん!と元気に返事をした由依は、またカレーライスと格闘を始めた。響はそれを、正面から片膝をついて眺める。ハリのある唇が咀嚼する度に、食物を飲み込む時の首の表皮の動きに…響はただ魅入る。

 

 ああ、なんて可愛らしい。なんて愛おしい。私にはない。欲しい。私にはない。私はもう二度と手に入れることができない。憎い。可愛い。愛おしい。

 …憎い。欲しい。

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