第2話 「うちも同じかも」
駅前で適当な店を見繕おうとしていたところ、広告のぼりを立てまくっている店舗を見つけてシンドウが指さす。
特に逆らう理由もないので、彼女に言われるがままドアをくぐった。
俺はシンドウを背伸びがちな子だと思っていたのだが、意外にもメニューを
なんてことはない。
彼女の意地を折るだけの理由があったという話である。
今のシーズン、このチェーン店はモンスター育成系ゲームとコラボしているらしいのだ。
料理プレートと一緒に届いた粗雑なキャラクター人形のオマケが、即包装を開かれてテーブルの中央に鎮座している。
「普段はこういうゲームやってるんだ?」
適当に頼んだピザの一切れを頬張りながら、満足げにケチャップライスの山を崩すシンドウへそう話題を振ってみた。
うーん、と彼女は少し考えてから、そこまでじゃないけど、と話す。
「学校で今流行ってるのがこれだから、周りに合わせて遊んでたんだけど。 そうね、このキャラだけは好きって感じ」
そう言って人形をフォークで指差す。
なるほど、学校じゃゲームは楽しめる交流ツールみたいな属性あるよな。
だから本当は興味ないのよ、と装うにはやや気に入りすぎていると思うが……。
このコラボののぼりを見て、ここに入店しようと腕を引いて来たのはシンドウである。
年相応のお子様な態度を垣間見るとほほえましい。
「普段って言ったら、今はメタサイやってるかな。 知ってる? って聞くまでもないわよね」
「まあ、メジャーなゲームだしな。 俺もアカウント持ってるよ」
先日始めた初心者だけどな、と心の中で追記する。
俺の言葉に、シンドウは意外そうに相槌を打つ。
「アンタって、ストイックに練習に没頭してるって聞いてたけど、遊ぶためのゲームもやるんだ?」
誰から俺の何を聞いたのかは知らないが、身に覚えのない俺の印象を話されるとムズムズするな。
確かに、以前は追い詰められていて、楽しむことを忘れていたような気もする。
それを傍からそのように印象付けられてしまほど、俺は余裕をなくしていたという事だろうか。
するとエンドウが俺を心配していたのも今なら
「まあね、と言ってもメタサイは人に薦められて始めたんだけどさ」
彼女は目を見開いて、奇遇ね、と返した。
「うちも同じかも。 上手くいかずにイライラしてたら、違うジャンルでも遊んでリフレッシュしたら? って言われてメタサイ渡されたワケ」
順風満帆のように見える彼女でも、周りに気を遣わせるほど行き詰まることがあるらしい。
エビフライをかじりつつ、シンドウは気分を良くしたのか、だんだん饒舌になってくる。
「一般人との協力プレイって余計にストレスたまるかなー、って思ってたんだけどね。 ゲーム内で変なヘタレと知り合って、そいつがうちのプレイングに付いて来れてるのよ。 普通、だいたい接待プレイさせられるでしょ?」
「プロがエンジョイ勢の現場に入り込めば、そういう事も有るかもね」
全肯定する訳じゃないけど、スコアやランキングで階層分けされてないゲームだと全力を出し切れないというのはまま有る事だろう。
中でもシンドウクラスのプレイヤーについて行けるとは、そのヘタレ君はなかなかやるのではないか。
「だから気付いたら結構ハマってたのよねー。 メタサイってPvPあるじゃない? いずれはそいつに対戦も仕掛けるつもりなの」
それは何というか、ヘタレ君にはご愁傷様だな。
活き活きと話すシンドウだが、本気の彼女の相手をさせられたら、恐らくたまったものではないはずだ。
しかし――この喜び様は、もしかしたら俺がコマで遊ぶ相手を身近に見つけられなかったように、シンドウも彼女なりに対等に遊べるゲーム友達を探しながら寂しい思いをして、それをやっと見つけたと言うところなのだろう。
ヘタレ君の名前も顔も知らないが、彼女の期待に応えられる人物だといいなと、彼女の満悦な笑顔を見ていると思わされる。
だが、見守りたいと思えるような笑顔は続かなかった。
シンドウの顔つきがいきなり挑発的に変わる。
「対戦と言えばだけど、アンタのチームって今度エキシビジョンマッチやるわよね。 新しいゲームのやつ」
「おお、耳ざといな。 調整中だから確定じゃないんだけど、俺も出演できるように頑張ってるところだよ」
「うちも出るから、出演チームリスト貰ってるのよ。 もしかしたらアンタ、うちと再戦組まれるかもしれないわよ。 その時はちゃんと戦えるようにしときなさいよね」
フォークを差し向けるその不敵な態度に、俺はピザの最期の一切れを飲み込み損なうところだった。
一ヶ月で越えるべきハードル上がっていないか?
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